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2025.09.22
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フィリピンでも反政府デモが激化、政治動向に変化をもたらすか
~きっかけは洪水対策事業での汚職疑惑、批判の矛先は世襲政治に発展する動きも~
西濵 徹
- 要旨
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9月21日、フィリピン全土で政府に対する抗議集会が行われ、マニラでは8万人以上が参加した模様である。発端は、洪水対策の「幽霊事業」を巡る汚職疑惑で公共事業の不正や政治家への資金還流が次々と発覚したことにある。一連の疑惑はマルコス大統領の側近や親族にも及ぶなど、政治混乱が広がっている。大統領は独立調査委員会を設置し、調査を主導したことを強調する一方、抗議の過激化を警戒している。背景には、インドネシアやネパールで反政府デモが発生し、ネパールでは政権が崩壊したことが影響している。
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抗議集会の日付は、1972年にマルコス元大統領が戒厳令を布告した日であるなど、同国にとって象徴的である。同国政界では、マルコス家とドゥテルテ家の対立が激化しており、このところはドゥテルテ家に追い風が吹く動きもみられた。しかし、一連の抗議集会ではサラ副大統領にも批判が及んでいるほか、世襲政治に対する批判も強まる動きがみられる。次期大統領選を見据えた政局の行方にも不透明感が強まっている。今回の事態はフィリピンの政治動向に大きな変化をもたらす可能性があり、動向を注視する必要がある。
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フィリピンでは21日、首都マニラを中心に全土で政府に対する抗議集会が行われた。特にマニラでは、主催者発表で8万人以上が参加する大規模な抗議集会となった模様である。きっかけは、国が実施する洪水対策の公共事業を巡って、予算支出にもかかわらず事業が進捗しない『幽霊事業』の存在が明らかになったことが発端となった。フィリピンでは、6月から10月にかけて雨季が到来するとともに、なかでも7~9月は台風の襲来による大雨も重なり、川の氾濫やそれに伴う道路の冠水が頻発する傾向がある。こうしたなか、マルコス大統領は7月末の施政方針演説で幽霊事業に言及するとともに、汚職の摘発を進める方針を示した。それ以降、公共事業における手抜きや着工の遅延といった問題のある事業が次々と明らかになるとともに、請負企業が多数の政治家に資金還流を行うなど汚職が横行していたことも明らかになった。その結果、国会ではエスクデロ前上院議長が解任されたほか、マルコス大統領のいとこであるロムアルデス前上院議長も辞任した。一連の疑惑の対象には、マルコス大統領の身内や側近も含まれており、政治混乱が広がっている。マルコス大統領としては、当初はインフラ整備の遅延やそれに伴う洪水など実害への国民の不満が高まるなか、調査実施により事態打開を図る目論見があったものの、身内にスキャンダルの火の粉が降りかかったことで結果的に政権に対する批判が広がる事態となっている。
マルコス大統領は今月15日、元最高裁判事をトップに起用する形で独立した調査委員会を立ち上げることを発表した上で、徹底した調査を行う方針をあらためて強調するとともに、一連の調査を自身が主導したことを強調した。一方で、国民の批判の矛先が政府に向かっていることには一定の理解を示しつつ、平和的なものでなければ問題との考えを示すなど、過激化することを警戒する姿勢をみせた。この背景には、東南アジアでは先月末以降、インドネシアにおける反政府デモが活発化して一部が暴徒化する事態に発展したことを警戒しているとみられる(注1)。インドネシアのプラボウォ政権は事態収拾に向けて内閣改造を実施し、予算管理を巡って国民の批判の矛先が向けられたスリ=ムルヤニ前財務相を解任した(注2)。しかし、金融市場からの信任が厚い同氏の突如の解任は、予算管理を巡って度々プラボウォ大統領と対立してきたなかで『生け贄』にされたとの見方が広がるとともに、金融市場では財政運営に対する不透明感が嫌気されており、通貨ルピア相場は調整の動きを強めている。ネパールでは、政府がSNSの使用禁止を打ち出したことをきっかけに、若年層などが汚職に抗議する反政府デモを展開し、一部が暴徒化するとともに、首相が辞任に追い込まれる事態に発展した。上述したようにマルコス大統領は一連の抗議行動を静観する動きをみせているものの、対応の仕方如何では金融市場からの評価に影響を与える可能性に注意する必要がある。
なお、大規模な抗議集会が行われた9月21日はフィリピンにとって重要な意味合いがある。1972年のこの日、マルコス大統領の父であるマルコス元大統領が戒厳令を布告し、その後の長期独裁政権のきっかけになった経緯がある。また、このところのフィリピン政界においては、マルコス大統領(マルコス家)と、ドゥテルテ前大統領とサラ副大統領(ドゥテルテ家)の間で対立が激化しており、その『代理戦争』と目された今年5月の中間選挙ではドゥテルテ家が存在感を高める動きがみられた(注3)。さらに、サラ副大統領を巡っては、議会において弾劾訴追の手続きが行われていたものの、7月末に最高裁判所は弾劾手続きが憲法違反に当たるとの判断を下したほか、翌8月に手続きの凍結が決定されており、2028年の次期大統領選に向けて勢いが増すことが期待された。しかし、一連の調査ではドゥテルテ前政権時代にも同様の疑惑が噴出していた可能性が示唆されており、サラ氏にとって次期大統領選に向けた追い風となるかは不透明である。事実、抗議集会ではマルコス大統領のみならず、サラ副大統領にも批判の矛先が向かうとともに「2人を刑務所に送り込め」といったシュプレヒコールが起こったほか、世襲政治を批判する向きもみられる。今後の事態がどのように推移するかは予断を許さない状況にあるものの、比較的安定しているとみられたフィリピン政治に変化をもたらす可能性があり、その動向を注視する必要がある。
注1 8月29日付レポート「インドネシアで反政府デモ激化、民主化の行方に不透明感も」
注2 9月9日付レポート「インドネシア財務相解任、デモ収束への「生け贄」か、財政運営に懸念」
注3 5月13日付レポート「フィリピン中間選、マルコス家とドゥテルテ家の「代理戦争」は互角か」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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