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2025.05.13
アジア経済
フィリピン経済
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フィリピン中間選、マルコス家とドゥテルテ家の「代理戦争」は互角か
~マルコス政権は今後サラ氏を注視せざるを得ず、政策の行方がペソ相場に影響を与える可能性も~
西濵 徹
- 要旨
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- フィリピンで12日に行われた中間選挙は、マルコス政権への中間評価である上、マルコス家とドゥテルテ家の「代理戦争」として注目された。かつては連携により政権誕生を導いた両家だが、政策の違いや将来の大統領選を見据えた主導権争いをきっかけに関係が悪化した。なかでも、マルコス政権が南シナ海問題や麻薬対策などで前政権の方針を大きく転換したことが対立の激化を招く一因となってきた。
- 3月にマルコス政権はドゥテルテ前大統領の身柄を拘束し、ICCのあるハーグに移送したが、その影響で政権支持率は大幅に低下し、マルコス派からの離反も生じた。さらに、SNS上では多数の偽情報が拡散されるなど、選挙戦の行方に影響を与えた。こうしたことも影響して、中間選挙ではドゥテルテ氏自身は南部ダバオ市長に当選し、息子も副市長選に当選したほか、サラ副大統領への弾劾裁判を左右する上院選でマルコス派は罷免に必要な議席数を下回った模様である。よって、サラ氏の弾劾のハードルは高まっている。
- 結果、政界での両家の勢力は拮抗するとともに、マルコス政権は今後の政権運営でサラ氏の意向を注視せざるを得なくなっている。外交政策の変化や政局の不安定化は、ペソ相場の行方に影響する可能性もある。
フィリピンでは12日、国会の上下両院と地方首長を巡る中間選挙が行われた。今回の中間選挙は、2022年の大統領選を経て誕生したマルコス現政権に対する『中間評価』の意味合いがあり、その行方に注目が集まった。さらに、このところのフィリピン政界ではマルコス家とドゥテルテ家との確執が激化しており、中間選挙は両家による『代理戦争』の様相を呈してきた。
2022年の大統領選では、マルコス氏が大統領候補に、ドゥテルテ前大統領の長女のサラ氏が副大統領候補としてタッグを組み、両家の『蜜月』関係が政権誕生を後押しした。しかし、当選直後から両者は存在感を誇示し、政権運営を巡る主導権争いを繰り広げた。これは、現行憲法で大統領任期は1期6年に限られるなか、サラ氏が『ポスト・マルコス』を意識していたことも背景にあるとされる。さらに、マルコス政権は南シナ海問題への対応や麻薬対策を巡って、前政権の方針からの大転換を図り、これにドゥテルテ氏が公然と批判を強めたことで両家の亀裂が表面化した。その後、サラ氏は兼務した教育相を突如辞任するとともにマルコス批判を強めた上で、中間選挙に自身に近い候補を擁立してマルコス派との全面対決に動く構えをみせた。
なお、サラ氏を巡っては、マルコス氏に対する批判を強めるなかで暗殺に言及するなど『暴走』したほか、その後に暗殺を巡る発言のほか、公金濫用や収賄、権力濫用を理由に弾劾訴追を受ける事態に発展している(注1)。また、マルコス政権は中間選挙を見据えて、ドゥテルテ氏の有力支持者に対する圧力を強めた。そして、3月には国際刑事警察機構(ICPO)からの要請に基づき、前政権が違法麻薬対策を名目に展開した麻薬戦争における『超法規的殺人』に関連して、国際刑事裁判所(ICC)が人道に対する罪でドゥテルテ氏に発出した逮捕状を執行し、同氏はハーグに送られた(注2)。しかし、この逮捕劇は国論を二分する事態を招くとともに、政権支持率が急落したほか、マルコス派から離反者が出るなどマルコス氏が優位に進めてきた選挙戦に変化の兆しが顕在化した。その後もインターネット上ではSNSを中心にドゥテルテ氏を擁護する内容の偽情報が大量に拡散され、そうした動きに中国政府や影響下にある人物が関与した疑惑が指摘されるなど、選挙動向に影響が出ることも懸念された(注3)。よって、選挙戦は最終盤にかけて激戦の様相を強めてきた。
上述のように、ドゥテルテ氏は身柄を拘束されてハーグに移送されたものの、地盤である南部ミンダナオ島のダバオ市長選に出馬し、圧倒的な得票率で当選確実となっている。さらに、同時に実施された副市長選にはドゥテルテ氏の次男(セバスチャン氏(現市長))が当選を確実にするなど、ドゥテルテ家の人気の高さが再確認された。そして、選挙の行方がサラ氏の弾劾裁判の行方を左右する上院(元老院:総議席数24)選でも、現地報道などによれば、ドゥテルテ派が12の改選議席のうち少なくとも3議席を奪取した模様である。また、政府がドゥテルテ氏の身柄をICCに引き渡した後にマルコス陣営から離反した2名も議席を獲得しているとされる。よって、改選後の上院でマルコス派はサラ氏の弾劾罷免に必要となる3分の2(16議席)の確保が困難になる見通しであり、その実現のハードルは高まっている。下院(代議院:総議席数316)総選挙においても、ドゥテルテ氏の長男(パオロ氏)は再選を果たしたとされ、マルコス家とドゥテルテ家の代理戦争となった今回の選挙で両家は互角の結果となったと捉えられる。この結果を受けて、マルコス政権は残りの任期中、立法行為や経済政策の運営に際してドゥテルテ家、なかでもサラ氏の動向を注視せざるを得ない状況になる。両家の対立のきっかけとなった南シナ海問題など外交政策で変更を余儀なくされれば、マルコス政権が急速に『レームダック(死に体)』の様相をみせる可能性もある。その意味では、これまでトランプ関税の影響が軽微との見方を反映して堅調な推移をみせてきたペソ相場を取り巻く環境が変化する可能性に注意する必要がある。

注1 2月6日付レポート「フィリピン・サラ副大統領は弾劾裁判へ、中間選挙は激化必至の情勢」
注2 3月12日付レポート「フィリピン・ドゥテルテ前大統領逮捕、残り2ヶ月の中間選挙の行方は」
注3 5月8日付レポート「フィリピン景気は堅調さが続くも、今月予定の中間選挙の行方には影」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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