インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

メキシコ中銀は5会合連続利下げも、利下げ幅縮小でペソ相場は?

~米ドル安や「TACOトレード」がペソ相場を下支えも、トランプ氏の一挙一動に翻弄される状況は続く~

西濵 徹

要旨
  • メキシコ中銀は7日の定例会合で政策金利を25bp引き下げ7.75%とする決定を行った。同行は昨年3月から断続的に利下げを行い、今回は5会合連続の利下げとなる一方、利下げ幅は縮小された。足元のインフレ率は目標域に収まる一方、コアインフレ率は高止まりしており、同行のハト派姿勢は後退している。
  • 一方、メキシコ経済はトランプ関税の圧力を受けており、対米輸出への依存度の高さも影響して、追加関税が課されれば実体経済に甚大な悪影響を及ぼすことが懸念される。現状は最悪の事態を回避しているものの、先行きは不透明である。中銀は物価抑制と景気下支えの両立という難しい舵取りを迫られている。
  • 会合後の声明文では、今回の決定も票割れが生じている上、従来示された追加利下げを示唆する表現はみられず、政策スタンスが慎重化している可能性がある。為替市場では米ドル安を受けてペソ相場は下支えされているが、市場はトランプ氏の発言に反応しやすい状況にあり、先行きも引き続き要注意である。

メキシコ中央銀行は、7日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利を25bp引き下げて7.75%とする決定を行った。同行は昨年3月にコロナ禍一巡後初の利下げに舵を切り、その後は小休止を交えつつ断続的に累計350bpの利下げを実施しており、今回の利下げにより政策金利は3年ぶりの低水準となる。今回は5会合連続の利下げとなったが、6月の前回会合まで4会合連続で50bpの大幅利下げであった一方、次回会合での利下げ幅の縮小を示唆したため(注1)、その通りの決定となった。なお、昨年後半以降のインフレは一段と鈍化して一時は中銀目標(3±1%)の範囲内に収まる動きをみせるも、ここ数ヶ月は加速に転じるとともに、目標の上限を上回る水準となっていた。こうした事情が中銀のハト派姿勢を後退させる一因になったものの、直近7月のインフレ率は前年比+3.51%と鈍化して3ヶ月ぶりに目標域に回帰している。その一方、コアインフレ率は前年比+4.23%と目標域を上回る推移が続いている。

図表
図表

一方、同国経済はいわゆる『トランプ関税』に翻弄されている。トランプ米政権は発足直後、同国からの全ての輸入品に25%の追加関税を課す大統領令を発令したが、直後の首脳協議を経て発動は延期された。ただし、その後は自動車や自動車部品、鉄鋼製品、アルミ製品に対する追加関税は発動されている。また、25%の追加関税についてはUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に準拠した財を対象外とすることで合意されたが、個別財に対する追加関税は継続されている。さらに、トランプ氏は先月、麻薬カルテル阻止への対応が不十分であるとして今月1日付で追加関税の税率を30%に引き上げる方針を示したが、発動直前に90日間延期することで合意した。しかし、同国の対米輸出額は輸出全体の8割を占めるとともに、名目GDP比で3割弱に達することから、関税引き上げによる実体経済への影響は甚大なものとなることは避けられない。足元の状況は最悪の事態を回避できており、4-6月の実質GDPは前期比年率+2.72%と2四半期連続のプラス成長となるなど底堅い動きをみせている(注2)。しかし、景気の先行きには不透明要因が山積しており、中銀は物価抑制の一方で景気下支えを図る難しい対応を迫られている。

こうしたなか、会合後に公表された声明文では、今回の決定も「4(25bpの利下げ)対1(据え置き)」と票割れし、前回会合同様にヒース副総裁が反対票(据え置き)を投じたことが明らかにされている。その上で、今回の決定について「為替レートの動向、経済活動の弱さ、世界的な貿易政策の変更に伴う影響の可能性を考慮した」との判断を示している。そして、物価動向について従来通り「2026年7-9月に目標域に収束する」としつつ、上振れリスクに「①ペソ安、②地政学リスクや世界貿易の混乱、③コアインフレの粘着度、④コストプッシュ圧力、⑤気候変動の影響」を、下振れリスクに「①景気下振れ、②価格転嫁の弱さ、③ペソ高による輸入物価の下振れ」を挙げた。また、先行きの政策運営について「さらなる調整を検討する」としつつ、過去には利下げを示唆する具体的な文言が示されていたものの、今回はみられず、ハト派姿勢の後退がうかがえる。なお、反対票を投じたヒース副総裁は6月の前回会合において、景気が停滞するとの見通しだけを元にインフレが自然に鈍化すると期待することは非現実的との見解を示しており、足元のコアインフレが高止まりしていることを受けて今回も同様の対応をみせた可能性がある。こうした状況は、声明文で示されたインフレ見通しにおいて、今年7-9月のインフレ率を+3.8%(←+4.1%)に下方修正する一方、コアインフレ率を+4.1%(←+3.8%)と上方修正していることにも現れている。

図表
図表

このところの金融市場においては、トランプ米政権の政策運営の不透明感に加え、政権がFRB(連邦準備制度理事会)人事への介入を強めるなど金融政策の独立性への懸念が高まっていることも重なり、米ドル安圧力が掛かりやすい状況が続いている。上述したように同国経済はトランプ関税による甚大な悪影響が懸念される状況にあるものの、米ドル安がペソの対ドル相場を下支えするとともに、日本円に対しても同様に底打ちを促す動きがみられる。しかし、足元の動きはトランプ氏の言動を巡る『TACO(腰砕け)』を織り込む形で楽観に傾いている可能性があり、先行きも引き続きその一挙一動に揺さぶられる展開が続くことを考慮する必要があることは変わりない。よって、先行きのペソ相場は見通しが立ちにくい動きをみせる可能性に留意する必要がある。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ