インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ブラジル中銀はいよいよ利上げ局面の「打ち止め」を示唆

~レアル相場はドル安や原油高で持ち直しも、ルラ政権の財政運営への懸念には引き続き要注意~

西濵 徹

要旨
  • ブラジル中銀は、17~18日に開催した定例会合で7会合連続の利上げを行い、政策金利を約19年ぶりとなる15.00%に引き上げた。利上げ幅は縮小されたものの、インフレ率が目標を上回るなかで引き締め姿勢を維持している。足元のインフレには頭打ちの兆しが出ているが、依然として収束には至っていない。
  • 一方、世界的にはトランプ関税の余波で景気に不透明感が増すなあ、多くの国が金融緩和に転じているが、ブラジルは逆の動きをみせている。米国の相互関税によるブラジル経済への直接的な影響は限定的とみられるが、鉄鋼・アルミ産業への打撃は必至である。また、近年は対中輸出が急拡大するなかで中国経済への依存度が高まっており、米中摩擦の激化による中国経済の悪化が波及するリスクは高まっている。
  • 声明文では、先行きの金融政策について「長期間の金融引き締めが必要」との姿勢を維持しつつ、利上げサイクルの中断を示唆した。その一方、インフレと世界経済の不確実性への警戒感を維持するとともに、追加利上げの可能性にも含みを持たせている。さらに、中銀は今年のインフレ見通しをわずかに上方修正するとともに、インフレが上下双方に振れるリスクに言及するなど、引き続き警戒感をにじませた格好である。
  • レアル相場は、このところのドル安や中東情勢の不透明感の高まりを受けた原油高、中銀によるタカ派姿勢を追い風に底入れの動きを強めている。しかし、ルラ政権の財政運営に対する懸念がくすぶるなか、足元のレアル相場の持ち直しが外部要因に依拠していることを勘案すれば、先行きには不透明感が残る。

ブラジル中央銀行は、17~18日の日程で開催した定例の金融政策委員会(COPOM)において7会合連続の利上げを決定した。中銀は利上げ幅を今回25bpに縮小させているが、政策金利(Selic)は15.00%と約19年ぶりの水準となるなど、急速に金融引き締めを加速させている。中銀がこれほど金融引き締めの動きを強める背景には、これまでの利上げにもかかわらずインフレ圧力が根強いことが影響している。なお、直近4月のインフレ率は前年同月比+5.32%と前月(同+5.53%)から伸びが鈍化しているほか、コアインフレ率も同+5.02%と前月(同+5.26%)から鈍化するなど、ともに底入れの動きに一服感が出ている。しかし、インフレ率もコアインフレ率もともに中銀が定める目標(3.0±1.5%)の上限を上回る伸びが続いており、依然として収束にはほど遠い。世界的にみれば、インフレが落ち着きを取り戻していることに加え、米トランプ政権の関税政策をきっかけに世界貿易、ひいては世界経済の不透明感が高まるなか、金融緩和に動く流れが広がりをみせている。ブラジルはこうした状況とは対照的な環境にあると捉えられる。

図表
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このところの世界経済や国際金融市場は、いわゆる『トランプ関税』の行方に翻弄されている。米トランプ政権は、安全保障上の脅威を理由に、自動車や鉄鋼製品、アルミ製品に追加関税を課すとともに、今月からは鉄鋼製品とアルミ製品に対する税率を大幅に引き上げている。また、貿易赤字の圧縮に向けて、すべての国に一律で10%、一部の国や地域を対象に非関税障壁を元に税率を上乗せする相互関税を課す方針を示している、なお、ブラジルは米国にとって数少ない貿易黒字国のひとつであり、米トランプ政権は同国に課す相互関税を一律分と同じ10%とするなど、WTO(世界貿易機関)による同国の平均関税率(11.2%)より低めに設定している。同国の対米輸出額は名目GDP比1.9%に留まることに鑑みれば、相互関税による直接的なマクロ面での影響は限定的と捉えられる。ただし、同国は鉄鋼製品やアルミ製品の輸出の大部分を米国向けが占めるなか、関連産業での悪影響は必至をみられる。さらに、近年は米中摩擦が激化する背後で対中輸出を拡大させており、足元では対中輸出額は対米輸出額を大きく上回るなど、中国景気の影響を受けやすくなっている。よって、米中関係が一段と悪化することにより中国経済の下振れリスクが高まる事態となれば、間接的に同国経済にも悪影響が伝播する可能性は高まっている。その意味では、米中協議の行方は同国経済の行方を左右する可能性はくすぶる。

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こうしたなか、会合後に公表した声明文では、今回の決定も全会一致であったことが示された。その上で、世界経済について「米国の通商政策や財政政策を理由に不透明感がくすぶる」とした上で、「金融市場のボラティリティが高まるなか、地政学リスクの高まりも相俟って新興国を取り巻く環境に注意が必要」との見方を示している。一方、同国経済については「景気に幾分頭打ちの兆しはみられるが、依然として力強い」とした上で、「足元のインフレは目標を上回っている」としている。他方、物価動向について「上下双方に振れるリスクがある」として、上振れリスクに「①インフレ期待の上振れ長期化、②正の需給ギャップに伴うサービスインフレの粘着度の高さ、③持続的なレアル安などによるインフレ圧力に繋がる動き」を、下振れリスクに「①想定以上の景気減速、②貿易の混乱による不確実性の高まりを受けた世界経済の急減速、③商品市況の調整」を挙げている。そして、金融政策について「長期にわたって大幅な引き締め政策が必要になる」と前回会合と同様の見方を維持した上で、「想定通りであれば利上げサイクルの中断を見込んでおり、その累積的な影響を検証した上で、現行の金利水準が長期にわたって安定すると仮定した場合にインフレの目標への収束に十分か否かを評価する」として、利上げ局面の打ち止めに含みを持たせている。ただし、「引き続き警戒を維持した上で、必要であればさらなる利上げも躊躇しない」とするなど、その判断を巡っては状況如何と付言した。なお、インフレ見通しは「今年は+4.9%、来年は+3.6%」と従来見通し(今年は+4.8%)からわずかに上方修正しており、インフレに対する警戒感が依然として根強いことを示唆している。

昨年以降のレアル相場を巡っては、折からの国際金融市場における米ドル高に加え、ルラ政権の『バラ撒き』志向の強い財政運営に対する警戒感が相場の重石となる展開が続き、結果的に中銀が引き締め姿勢を強める一因になってきた。しかし、このところはトランプ関税を巡る不透明感にもかかわらず、国際金融市場で米ドル安が進んでいることも追い風にレアル相場は底打ちしてきた。さらに、足元では中東情勢を巡る地政学リスクの高まりを受けて国際原油価格が上振れしており、同国が産油国であることも理由にレアル相場は押し上げられている。また、中銀がタカ派姿勢をみせるなかで実質金利(政策金利-インフレ率)のプラス幅は高止まりしており、それに伴う投資妙味の高さが資金流入を促していることもレアル相場を下支えしている。ただし、ルラ政権による財政運営を巡っては、主要格付機関のムーディーズ社が先月末に行った格付見直しにおいて、見通しを「安定的」に引き下げるなど将来的な格上げの可能性を取り下げており、『投資適格級』へのハードルの高さがあらためて確認されている。よって、長期投資家による安定資金の流入が見込みにくいなか、年明け以降のレアル相場が持ち直しの動きを強めた要因の多くが外部環境に依拠していることに鑑みれば、先行きのレアル相場を巡る環境が急変する可能性には、引き続き注意が必要と捉えられる。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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