インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

2年後もインフレ目標未達、ブラジル中銀は「タカ派」を卒業できない?

~金融市場に利下げ観測がくすぶるなか、レアル相場は中銀の独立性の行方が左右する展開~

西濵 徹

要旨
  • ブラジル中銀は6月の定例会合で7会合連続の利上げを決定し、政策金利は15.00%と約19年ぶりの水準となった。ただ、今回の利上げ幅は25bpに縮小し、今後は利上げサイクルの中断も視野に入れている。これは、インフレが依然目標を上回る一方、金利高と物価高の共存が内需を圧迫しているほか、トランプ関税が外需の重石となり、足元の企業マインドが幅広く低下するなど景気減速が意識されていることがある。
  • 金融市場では、景気減速により中銀が将来的に利下げに転じるとの見方が根強い。さらに、来年の大統領選での再選を目指すルラ大統領が中銀に利下げ圧力を掛ける可能性も懸念されている。他方、中銀は最新の金融政策報告で、来年及び再来年のインフレが目標を上回る見通しを示すとともに、利上げの正当性を主張した。今後もタカ派姿勢を維持しつつ、インフレ目標実現への取り組みを強調する考えをみせた。
  • 足元の金融市場では、米ドル安に加え、中銀のタカ派姿勢もレアル相場を下支えしているとみられる。その意味では、中銀による政治的介入の有無やその動向をこれまで以上に注視する必要性は高まっている。

ブラジル中銀は、先月17~18日に開催した定例の金融政策委員会(COPOM)で7会合連続の利上げを決定し、政策金利(Selic)は15.00%と約19年ぶりの水準となるなど、引き締め姿勢を一段と強化している(注1)。しかし、中銀は今回の利上げ幅を25bpに縮小させた上で、先行きの政策運営について「長期にわたって大幅な引き締め政策が必要になる」としつつ、「想定通りであれば利上げサイクルの中断を見込んでいる」と利上げ局面の打ち止めに含みを持たせた。中銀がこうした姿勢をみせる背景には、足元のインフレは引き続き中銀が定める目標(3±1.5%)を上回るなか、中銀の断続利上げを受けて物価高と金利高が共存しており、経済成長のけん引役である個人消費など内需を取り巻く環境が厳しさを増していることがある。さらに、いわゆる『トランプ関税』による同国経済への直接的な影響は限定的とみられるものの、米中摩擦の激化やそれに伴う中国経済の不透明感は間接的に外需の足かせとなることが懸念される。こうした事情を反映して、足元の企業マインドに幅広く下押し圧力が掛かるなど、景気を巡る状況が変化していることが中銀の判断を後押ししていると判断できる。

図表
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一方、金融市場では景気の頭打ちが意識されるなかで、中銀は将来的に利下げに追い込まれるとの見方がくすぶる。同国では来年10月に次期大統領選が予定されるなか、現職のルラ氏は再選を目指しており、中銀に対して景気下支えに向けて利下げを求めるなど『圧力』を強めるとの見方が影響している可能性がある。こうしたなか、先月末に中銀が公表した最新の金融政策報告において、2027年末時点のインフレ率を+3.2%と目標の中央値(3%)を上回る水準に留まるとしつつ、政策金利を据え置く戦略に自信を持っているとの考えを示した。また、当面の金融政策の判断に影響を与える2026年末時点のインフレ率も+3.6%と目標を上回るとしており、先月の利上げ決定を正当化する内容となっている。ただし、上述したように中銀は利上げ局面の打ち止めに含みを持たせたものの、そのハードルは依然として高い様子がうかがえる。さらに、中銀は伝統的に『タカ派』姿勢を志向するとともに、インフレを目標の中央値に安定的に収束させることを目指す傾向がある。報告書公表に併せて行われたオンライン会見において、同行のガリポロ総裁はインフレ目標の実現に向けて全面的な取り組みを強化する姿勢は変わらないとしている。そして、インフレ見通しについて市場予想を勘案したとしつつ、実際の経路を示しているものではない、インフレ目標実現への道筋は幾つかの経路が想定されると述べるなど、インフレ抑制に苦慮している様子がうかがえる。なお、足元の金融市場では、通貨レアルの対ドル相場は米トランプ政権の政策運営に対する不透明感を受けた米ドル安の動きが下支えするなか、中銀のタカ派姿勢があらためて意識されていることも相場を下支えしている可能性はある。その意味では、上述のように金融市場が危惧するルラ政権による中銀への政治的介入の有無やその動向に注意を払う必要性が高まっていると判断できる。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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