- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- 2年後もインフレ目標未達、ブラジル中銀は「タカ派」を卒業できない?
- World Trends
-
2025.07.01
新興国経済
米中関係
新興国金融政策
ブラジル経済
為替
トランプ関税
2年後もインフレ目標未達、ブラジル中銀は「タカ派」を卒業できない?
~金融市場に利下げ観測がくすぶるなか、レアル相場は中銀の独立性の行方が左右する展開~
西濵 徹
- 要旨
-
- ブラジル中銀は6月の定例会合で7会合連続の利上げを決定し、政策金利は15.00%と約19年ぶりの水準となった。ただ、今回の利上げ幅は25bpに縮小し、今後は利上げサイクルの中断も視野に入れている。これは、インフレが依然目標を上回る一方、金利高と物価高の共存が内需を圧迫しているほか、トランプ関税が外需の重石となり、足元の企業マインドが幅広く低下するなど景気減速が意識されていることがある。
- 金融市場では、景気減速により中銀が将来的に利下げに転じるとの見方が根強い。さらに、来年の大統領選での再選を目指すルラ大統領が中銀に利下げ圧力を掛ける可能性も懸念されている。他方、中銀は最新の金融政策報告で、来年及び再来年のインフレが目標を上回る見通しを示すとともに、利上げの正当性を主張した。今後もタカ派姿勢を維持しつつ、インフレ目標実現への取り組みを強調する考えをみせた。
- 足元の金融市場では、米ドル安に加え、中銀のタカ派姿勢もレアル相場を下支えしているとみられる。その意味では、中銀による政治的介入の有無やその動向をこれまで以上に注視する必要性は高まっている。
ブラジル中銀は、先月17~18日に開催した定例の金融政策委員会(COPOM)で7会合連続の利上げを決定し、政策金利(Selic)は15.00%と約19年ぶりの水準となるなど、引き締め姿勢を一段と強化している(注1)。しかし、中銀は今回の利上げ幅を25bpに縮小させた上で、先行きの政策運営について「長期にわたって大幅な引き締め政策が必要になる」としつつ、「想定通りであれば利上げサイクルの中断を見込んでいる」と利上げ局面の打ち止めに含みを持たせた。中銀がこうした姿勢をみせる背景には、足元のインフレは引き続き中銀が定める目標(3±1.5%)を上回るなか、中銀の断続利上げを受けて物価高と金利高が共存しており、経済成長のけん引役である個人消費など内需を取り巻く環境が厳しさを増していることがある。さらに、いわゆる『トランプ関税』による同国経済への直接的な影響は限定的とみられるものの、米中摩擦の激化やそれに伴う中国経済の不透明感は間接的に外需の足かせとなることが懸念される。こうした事情を反映して、足元の企業マインドに幅広く下押し圧力が掛かるなど、景気を巡る状況が変化していることが中銀の判断を後押ししていると判断できる。

一方、金融市場では景気の頭打ちが意識されるなかで、中銀は将来的に利下げに追い込まれるとの見方がくすぶる。同国では来年10月に次期大統領選が予定されるなか、現職のルラ氏は再選を目指しており、中銀に対して景気下支えに向けて利下げを求めるなど『圧力』を強めるとの見方が影響している可能性がある。こうしたなか、先月末に中銀が公表した最新の金融政策報告において、2027年末時点のインフレ率を+3.2%と目標の中央値(3%)を上回る水準に留まるとしつつ、政策金利を据え置く戦略に自信を持っているとの考えを示した。また、当面の金融政策の判断に影響を与える2026年末時点のインフレ率も+3.6%と目標を上回るとしており、先月の利上げ決定を正当化する内容となっている。ただし、上述したように中銀は利上げ局面の打ち止めに含みを持たせたものの、そのハードルは依然として高い様子がうかがえる。さらに、中銀は伝統的に『タカ派』姿勢を志向するとともに、インフレを目標の中央値に安定的に収束させることを目指す傾向がある。報告書公表に併せて行われたオンライン会見において、同行のガリポロ総裁はインフレ目標の実現に向けて全面的な取り組みを強化する姿勢は変わらないとしている。そして、インフレ見通しについて市場予想を勘案したとしつつ、実際の経路を示しているものではない、インフレ目標実現への道筋は幾つかの経路が想定されると述べるなど、インフレ抑制に苦慮している様子がうかがえる。なお、足元の金融市場では、通貨レアルの対ドル相場は米トランプ政権の政策運営に対する不透明感を受けた米ドル安の動きが下支えするなか、中銀のタカ派姿勢があらためて意識されていることも相場を下支えしている可能性はある。その意味では、上述のように金融市場が危惧するルラ政権による中銀への政治的介入の有無やその動向に注意を払う必要性が高まっていると判断できる。


注1 6月19日付レポート「ブラジル中銀はいよいよ利上げ局面の「打ち止め」を示唆」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
台湾・9月輸出、半導体などの旺盛さを反映して過去最高に(Asia Weekly) ~原油価格の再上昇を受けて、多くのアジア新興国でインフレ率が再び加速~
アジア経済
西濵 徹
-
新たなスキャンダルに揺れるインド、今度は「選挙」を巡る問題噴出 ~選挙制度の信頼が揺らぎ、モディ政権への批判が再燃、政治不安が新たなリスクとなるか~
アジア経済
西濵 徹
-
トルコ金融市場の混乱が収まらない ~投資信託の規制強化が株安を招き、実体経済や政策運営への波及が懸念される~
アジア経済
西濵 徹
-
インド中銀、3年8ヵ月ぶりの利上げ、政策スタンスも転換 ~インフレを警戒した「予防的引き締め」、追加利上げに含みも慎重姿勢、ルピーや株価は?~
アジア経済
西濵 徹
-
ベトナム景気は引き続き外需・投資をけん引役に加速 ~7-9月は4年ぶりの高成長、市場格上げ期待の一方で物価・対外収支に懸念材料~
アジア経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
金融市場はブラジルの右派回帰を好感、株価・レアルともに上昇 ~議会選も右派躍進、財政再建への期待の一方で実現性に課題、左派の巻き返しも要注視~
新興国経済
西濵 徹
-
ブラジル大統領選は決選投票へ、フラビオ氏が首位 ~フラビオ・ボルソナロ氏が予想以上の得票、市場は財政・外交政策の行方に注目~
新興国経済
西濵 徹
-
メキシコ中銀、政策判断の自由度を重視 ~3会合連続で金利据え置き、FRB利上げへの機械的追随を否定、ペソ相場はどうなる?~
新興国経済
西濵 徹
-
景気減速にもかかわらず南ア中銀は2会合ぶりの追加利上げを決定 ~原油高やサービス物価を警戒、ランド相場は外部環境に左右される展開が続く~
新興国経済
西濵 徹
-
ブラジル中銀は5会合連続の利下げも、緩和継続には慎重姿勢 ~景気減速を重視する一方、原油高・異常気象・財政運営が引き続きインフレリスクに~
新興国経済
西濵 徹

