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2025.06.09
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ロシア中銀、政治圧力否定も約3年ぶりに利下げ、ルーブル相場は?
~インフレ鈍化やルーブル相場の底入れも追い風に追加利下げに含み、中銀の独立性への懸念も~
西濵 徹
- 要旨
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ロシア中銀は6日の定例会合で政策金利を100bp引き下げ20.00%とする決定を行った。同行の利下げは2022年9月以来となる。同国は戦時経済が長期化する一方、物価高に直面しており、中銀は金融引き締めを進めてきた。しかし、物価高と金利高の共存が幅広い経済活動に悪影響を与える懸念が高まるなか、プーチン大統領やその周辺から金融政策に「注文」が付くなど政治的な圧力が高まる動きがみられた。
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足元のインフレは依然中銀目標を大きく上回るものの、ルーブル相場が底入れの動きを強めるなか、鈍化の兆しがみられる。国際金融市場では、米ドル安に加え、ウクライナ戦争の停戦協議の進展への期待もルーブル相場の底入れを促す一方、中銀の独立性が脅かされる懸念はくすぶる。中銀は今回の利下げへの政治的圧力を否定するが、追加利下げに含みを持たせており、ルーブル相場を左右する可能性はある。
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ロシア連邦中央銀行は、6日に開催した定例の金融政策において、政策金利(キーレート)を100bp引き下げて20.00%とする決定を行った。同行による利下げは2022年9月以来となる。ロシア経済を巡っては、2022年2月のウクライナ侵攻をきっかけに戦時経済が3年以上となるなか、足元の軍事費はウクライナ侵攻直前と比較して4倍強に、歳出に占める軍事費も3分の1を占めるなど戦争が一大産業と化している。他方、プーチン政権は戦争長期化により国民の間に不満が高まることを警戒して、昨年の大統領選を前に社会保障関連支出の大幅な拡大させるなど、景気下支えを重視する動きをみせた。さらに、戦争長期化による人手不足の深刻化を理由とする労働需給のひっ迫を受けて賃金上昇圧力が強まるなか、社会保障の拡充の動きも重なり個人消費は押し上げられるとともに、物価上昇圧力が強まった。そして、国際金融市場ではここ数年、米ドル高圧力が強まるとともに、欧米などによる経済制裁の影響も重なる形で通貨ルーブル相場は調整局面が続き、輸入物価も押し上げられた。よって、中銀は戦時下にもかかわらず2023年7月に利上げに動くとともに、その後も物価と為替の安定を目的に断続的な利上げを実施した。しかし、物価高と金利高の共存が幅広い経済活動に悪影響を与える懸念が高まり、プーチン大統領が金融政策に口先介入を行い、中銀は昨年12月以降利上げを休止させるなど中銀の独立性が脅かされる動きがみられた(注1)。

その後もインフレは加速して中銀目標(4%)を大きく上回る推移が続いたものの、プーチン大統領は定例会合を前に金融政策に『クギ』を刺す動きをみせたこともあり、中銀は一段の金融引き締めに及び腰となるなど難しい対応を迫られてきた。このように中銀の独立性に不透明感が高まっているにもかかわらず、国際金融市場においては米ドル安に転じるとともに、米トランプ政権の仲介によりウクライナ戦争の停戦協議が進められるとの期待も追い風に、ルーブル相場は一転して底入れしており、輸入物価の上昇圧力は後退している。さらに、中銀による引き締め効果が顕在化していることも重なり、インフレ率は引き続き中銀目標を大きく上回る推移が続くも、足元では上昇ペースが鈍化して頭打ちに転じるなど物価を巡る動きに変化が生じている。よって、年明け以降もプーチン大統領は金融政策に対する口先介入を行うとともに、先月末にはプーチン政権内部からも中銀に利下げを要求する動きが相次ぐなど『圧力』が強まる動きがみられた(注2)。よって、こうした動きが中銀の判断に影響を与えることが懸念されたほか、今回の利下げ決定によってそうした懸念が具現化したと捉えられる。

なお、中銀が会合後に公表した声明文では、足元の同国経済について「インフレ圧力は低下している」とした上で「内需の伸びは供給力を上回る展開が続いているが、徐々に均衡の取れた成長軌道に戻りつつある」との見方を示している。その上で、金融政策について「来年にインフレ率を目標に収束させるべく必要なだけ長期にわたって引き締め姿勢を維持することが重要」との認識を示している。その一方、物価動向について「企業部門の物価見通しは低下する一方、市場参加者のインフレ期待は高止まりするなど両者の間に乖離が生じている」として、「インフレの持続的な鈍化の動きを妨げる可能性がある」としている。そして、景気動向について「足元で内需の鈍化を示唆する動きがみられる」としつつ、「賃金の伸びは依然として高く、労働生産性の伸びを上回る推移が続いている」として、インフレ圧力の根強さを警戒している様子がうかがえる。また、会合後に記者会見に臨んだ同行のナビウリナ総裁は、足元のルーブル高について「高金利政策が一つの要因」との見方を示している。その上で、今回の決定について「利下げか据え置きを検討し、利下げ幅について50bpと100bpを検討した」としつつ、「次回会合の行方は決まっていない」としている。他方、「今年度予算の物価への影響が想定以上に下振れすれば、政策の調整余地が拡大する」と追加利下げに含みを持たせるとともに、「今年のインフレ見通しは鈍化が見込まれる」としつつ、「中銀は独立している」と強調するなど政治的圧力を理由に利下げしたとの見方を否定した。ただし、「経済は低体温状態にはない」とプーチン政権内部で高まる批判を否定する一方、「インフレが想定以上に鈍化すれば利下げを行う」、「足元の引き締め姿勢はインフレ鈍化に十分」と述べるなど、あらためて追加利下げに含みを持たせる考えをみせた。ルーブル相場の底入れには、米ドル安やウクライナ戦争への見方が影響しているとみられるが、停戦協議に対する不透明感や中銀の独立性への懸念を勘案すれば、金融市場の期待に変化が生じる可能性がある。

注1 2024年12月25日付レポート「ロシア中銀はプーチン大統領が求める「バランス」を忖度したか」
注2 5月27日付レポート「ロシア中銀に再び独立性の懸念、ルーブル相場はどうなる?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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