- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- ブラジル中銀・ガリポロ次期総裁、タカ派堅持示唆もレアル相場は
- World Trends
-
2024.12.03
新興国経済
新興国金融政策
ブラジル経済
株価
為替
金利
ブラジル中銀・ガリポロ次期総裁、タカ派堅持示唆もレアル相場は
~為替の急変動には介入で対応しつつタカ派姿勢を堅持、ルラ政権との対立再燃の懸念はくすぶる~
西濵 徹
- 要旨
-
- このところの国際金融市場では、米大統領選でのトランプ氏勝利を受けて米ドル高が再燃している。ブラジルでは、ルラ政権の財政運営への不透明感を理由に通貨レアル安が進むなか、中銀は為替介入を迫られる展開が続く。さらに、インフレ再燃を受けて中銀はタカ派姿勢を強める動きをみせる。こうしたなか、ルラ政権は市場の懸念に対応すべく、先月末には歳出削減に動く方針を明らかにした。他方、同時に公表した所得税改正案を巡って財政健全化目標のハードルが高まるとの懸念が失望を招いており、足下ではレアル、株式、債券のすべてが下落する「トリプル安」に直面している。こうしたなか、中銀のガリポロ次期総裁は、金融政策について高金利の長期化を示唆する考えをみせる。中銀は今後も為替の急変動に対する介入とタカ派姿勢を維持すると見込まれ、ルラ政権との対立がレアル相場の不透明要因となる可能性もあろう。
このところの国際金融市場では、米大統領選でのトランプ氏の勝利を受けて米ドル高の動きが再燃しており、多くの新興国通貨に下押し圧力が掛かる動きがみられる。ブラジルの通貨レアル相場を巡っては、中銀が伝統的にタカ派姿勢を示すなか、昨年はインフレ鈍化による実質金利のプラス幅拡大という投資妙味の高さを追い風に比較的堅調な動きをみせてきた。他方、昨年発足したルラ政権は景気下支えを目的に中銀に利下げを迫る動きをみせるも、中銀はインフレ鈍化を理由に利下げに動く一方、政権のバラ撒き志向がインフレ圧力を招くことを警戒して慎重姿勢を維持してきた。こうしたことも、レアル相場を下支えしたとみられる一方、ルラ政権の下で財政状況は急速に悪化するなど懸念が高まるなか、年明け以降のレアル相場は一転して頭打ちの動きを強めたため、中銀は4月に現政権の下で初のレアル買い(米ドル売り)の為替介入に動くなどの対応を迫られた(注1)。さらに、頭打ちの動きを強めてきたインフレもレアル安に伴う輸入インフレの動きに加え、異常気象の頻発に伴う食料品など生活必需品を中心とする物価上昇の動きも重なり、足下では再び底入れに転じている。よって、中銀は9月に再利上げに舵を切るとともに、先月の定例会合においても2会合連続の利上げに加え、利上げ幅を拡大させるなど『タカ派』姿勢を強めている(注2)。レアル安に対する懸念が高まるなか、ルラ政権は金融市場における懸念に対応すべく歳出削減に動く方針を示しており、その内容に注目が集まってきた。こうしたなか、先月27日にアダジ財務相が歳出削減計画を公表し、向こう2年間を対象に総額700億レアル(GDP比0.6%)規模の歳出削減を見込むなど踏み込んだ内容となる一方、同時に公表した所得税改正案を巡って金融市場は『失望』する事態に直面している(注3)。所得税改正案では、ルラ大統領が課税最低限所得の引き上げ選挙公約に掲げたことを受けて、現行の月収2,824レアルから同5,000レアルに大幅に引き上げる一方、歳入減を補うべく月収50,000レアル以上の層を対象とする所得税率を引き上げ、所得税の負担を高所得者層にシフトさせるとしている。ただし、これらの法案成立には連邦議会下院の承認が必要となるものの、ルラ政権を支える与党連合は少数派に留まるなかで協議の行方は不透明な上、ルラ政権が昨年制定した財政規則法をクリアすることが困難になることも警戒されている。こうした懸念を反映して、足下のレアル相場を巡っては、上述のように折からの米ドル高圧力の影響も重なる形で調整の動きを強めて最安値を更新している。さらに、金融市場では主要株式指数(ボベスパ指数)も調整の動きを強めるとともに、国債価格も急落して長期金利は上振れするなど『トリプル安』とも呼べる事態に直面している。なお、中銀では年末にカンポス=ネト総裁が任期満了を迎え、10月に議会は金融政策担当理事を務めるガリポロ氏を昇格させる人事案を承認している(注4)。ガリポロ氏を巡っては、当初はルラ政権に近いことを理由にハト派姿勢を強めるとみられたものの、足下ではカンポス=ネト総裁と歩調を併せる考えをみせるなどタカ派姿勢を強める動きをみせている。こうしたなか、ガリポロ氏は2日に登壇したイベントにおいて、足下の状況について「より長期間に亘ってより引き締め姿勢の強い金融政策が必要となることは論理的と見做される」との考えを示すとともに、「重要なのは正しい方法に進むことであり、インフレ目標を実現する方法は幾つかある」と述べるなど、タカ派姿勢を維持する可能性が高まっている。他方、足下で混乱するレアル相場について、「機能不全状態に陥った際に為替介入を行う方針は今後も続くだろう」としつつ「為替政策に大きな変更があるとは思わず、変動相場制はとてもよく機能している」と述べており、昨年以降の急変動に際して為替介入を実施するとともに、先行きも引き締め姿勢を強めざるを得ず、低金利政策を求めるルラ政権との対立が再燃してレアル相場の不透明要因となる可能性もあろう。

注1 4月3日付レポート「ブラジル中銀がルラ政権下で初の為替介入、レアル相場の潮目は変わったか」
注2 11月12日付レポート「ブラジル・レアル、中銀のタカ派傾斜も相場の重石となる材料は山積」
注3 11月29日付レポート「金融市場はブラジルの税制改正に「失望」、レアル相場は最安値更新」
注4 10月10日付レポート「ブラジル議会は中銀次期総裁にガリポロ氏を承認、レアル相場は?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
台湾・9月輸出、半導体などの旺盛さを反映して過去最高に(Asia Weekly) ~原油価格の再上昇を受けて、多くのアジア新興国でインフレ率が再び加速~
アジア経済
西濵 徹
-
新たなスキャンダルに揺れるインド、今度は「選挙」を巡る問題噴出 ~選挙制度の信頼が揺らぎ、モディ政権への批判が再燃、政治不安が新たなリスクとなるか~
アジア経済
西濵 徹
-
トルコ金融市場の混乱が収まらない ~投資信託の規制強化が株安を招き、実体経済や政策運営への波及が懸念される~
アジア経済
西濵 徹
-
インド中銀、3年8ヵ月ぶりの利上げ、政策スタンスも転換 ~インフレを警戒した「予防的引き締め」、追加利上げに含みも慎重姿勢、ルピーや株価は?~
アジア経済
西濵 徹
-
ベトナム景気は引き続き外需・投資をけん引役に加速 ~7-9月は4年ぶりの高成長、市場格上げ期待の一方で物価・対外収支に懸念材料~
アジア経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
金融市場はブラジルの右派回帰を好感、株価・レアルともに上昇 ~議会選も右派躍進、財政再建への期待の一方で実現性に課題、左派の巻き返しも要注視~
新興国経済
西濵 徹
-
ブラジル大統領選は決選投票へ、フラビオ氏が首位 ~フラビオ・ボルソナロ氏が予想以上の得票、市場は財政・外交政策の行方に注目~
新興国経済
西濵 徹
-
メキシコ中銀、政策判断の自由度を重視 ~3会合連続で金利据え置き、FRB利上げへの機械的追随を否定、ペソ相場はどうなる?~
新興国経済
西濵 徹
-
景気減速にもかかわらず南ア中銀は2会合ぶりの追加利上げを決定 ~原油高やサービス物価を警戒、ランド相場は外部環境に左右される展開が続く~
新興国経済
西濵 徹
-
ブラジル中銀は5会合連続の利下げも、緩和継続には慎重姿勢 ~景気減速を重視する一方、原油高・異常気象・財政運営が引き続きインフレリスクに~
新興国経済
西濵 徹

