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2026.07.14
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イラン情勢
ホルムズ海峡を巡る「みかじめ料」を要求するトランプ米大統領
~アジア新興国で米国への不信感増幅の懸念、日本として求められる役割とは~
西濵 徹
- 要旨
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- イラン情勢は、米国とイランが6月17日に停戦合意への覚書へ署名したことで一時沈静化した。ホルムズ海峡の航行回復や迂回手段の活用、原油輸入国による調達先の多様化、中東以外の産油国による増産を背景に、供給懸念は後退し、原油価格も落ち着きを取り戻した。
- しかし、ホルムズ海峡の管理を巡っては、完全開放を求める米国と一定の管理権を維持したいイランの立場が対立している。イランは海峡封鎖を交渉材料として利用する姿勢を示し、海上回廊を航行する船舶への威嚇攻撃を繰り返した。これに米国が報復し、イランも湾岸諸国の米軍施設への攻撃を拡大するなど、両国の対立は再燃している。
- さらに、トランプ米大統領はイラン港湾の封鎖再開に加え、ホルムズ海峡を利用する国に安全確保の対価として通過貨物の20%相当額を要求すると表明した。実現性は不透明だが、従来の米国の立場を覆す主張であり、事態の長期化への懸念から原油価格は再び上昇している。
- こうした米国の対応は、アジア新興国を中心に対米不信を強め、中国が掲げる「公正・公平な国際秩序」という主張を相対的に有利にする可能性がある。ただし、中国も経済的威圧や人権問題などを抱えており、その実態は主張とかけ離れている。米国への安全保障上の依存が大きい日本には、アジア諸国と米国の橋渡し役を果たすことが求められる。
イラン情勢が再び混迷の度合いを深めている。米国とイランは6月17日、停戦合意に向けた14項目の「覚書」に署名し、事態の収束に向かうと期待された。遡ると、イランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖を受けて同海峡は航行困難となり、多数の船舶がペルシャ湾内に留め置かれた。ホルムズ海峡は、世界の原油取引量の約2割が通過し、事実上の封鎖による供給懸念を理由に原油価格は急騰した。一方で、停戦合意以降は、イラン情勢の悪化前にはほど遠いものの、ホルムズ海峡を航行する船舶数は着実に増加して供給懸念は後退した。これ以外にも、イラン情勢の悪化以降、サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)などは、ホルムズ海峡を迂回するパイプライン経由での原油輸出を活発化させた。原油価格の急騰を受けて、輸入国は調達先の多様化を図る動きを活発化するとともに、中東以外の産油国が石油生産を拡大させた。その結果、原油価格はイラン情勢の悪化前の水準に迫るするなど、落ち着きを取り戻した。
しかし、米国とイランが署名した「覚書」を巡っては、両国の認識の間に違いがあることが懸念された。なかでも、ホルムズ海峡について、米国は通行料なしでの完全開放を主張する一方、イランは同国とオマーンによる共同管理を主張するなど、一定の管理権を維持したいとの思惑を有する。そのうえ、イランはホルムズ海峡を数ヶ月にわたって封鎖し続ける意思と能力があることを示すことに成功した。このため、イランは米国や同調する「敵対国」に対する影響力の行使を目的に、いつでもホルムズ海峡の封鎖を示唆し、交渉の切り札とする可能性があるとみられた。
事実、オマーンとIMO(国際海事機関)が連携し、ホルムズ海峡の通行を目的とする一時的な海上回廊を設置すると、イランは同回廊を航行する船舶に対して威嚇攻撃を実施した。これを受け、米国は報復攻撃を実施したが、直後に両国は協議継続に動いたことで落ち着きを取り戻した。しかし、その後もイランはホルムズ海峡のイラン側(北航路)の通行を要求し、オマーン側(南航路)を航行するなどイラン側の要求を無視した船舶に威嚇攻撃を実施した。これを受けて、米国はイランへの新たな報復攻撃を実施したほか、イランも湾岸諸国の米軍施設への攻撃を拡大させるなど、対立が再燃している。
金融市場は当初、いわゆる「TACO(トランプ米大統領による尻込み)」を織り込んでいたと考えられる。米国がイランとの停戦合意を急いだ背景には、トランプ氏が11月の中間選挙を前に原油高を許容できないとの見方がある。しかし、イランでは故ハメネイ師の葬儀が終わり、モジタバ師が米国とイスラエルへの復讐を主張したため、予断を許さない事態も想定された。こうしたなか、トランプ氏は13日、イランの港湾に対する米軍の封鎖措置の再開を宣言するとともに、ホルムズ海峡を利用する国に対して通過貨物の20%に相当する金額を安全確保の対価として要求すると一方的に主張した。ホルムズ海峡の「通行料」を巡っては、イランが徴収する方針を示す一方、米国は国際航路への課金は認められないとの立場を示してきた。これは、覚書に対する両国の認識の食い違いを招いてきた。実現性については不透明ではあるものの、13日のトランプ氏の主張はこうした前提を覆すことを意味する。事態の長期化が懸念されるなか、原油価格は上昇ペースを強めている(図1)。

世界では、米国政治、とりわけトランプ氏に対する不信感が強まり、米国の同盟国の間にも広がりをみせている。その背後では、中国の習近平国家主席に対する印象が改善する動きがみられる。中国は国際場裡において、米国を中心とする西側主導の既存秩序を「覇権主義」と批判し、公正・公平な国際秩序の構築を目指すというナラティブ(物語)を流布している。一方、中国は経済的威圧を通じて経済安全保障上の圧力を強めているほか、人権や価値観を巡る問題も抱えている。7月に施行した民族団結進歩促進法では、「民族の団結と発展を損なう」と見なす言動に対する処罰の対象を国外にも広げるなど、その実態が公正・公平とはほど遠いことは間違いない。とはいえ、トランプ氏がホルムズ海峡の通行料、いわば「みかじめ料」を要求していることは、同海峡を通過するエネルギー資源に依存するアジア新興国で米国への不信感を一段と増幅させる可能性がある。軍事面で米国に依存する日本にとっては、現実には米国以外の選択肢が乏しいものの、アジアと米国の橋渡し役として果たすべき役割は小さくない。
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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