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2024.09.13
アジア経済
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ベトナムに台風直撃、世界的なサプライチェーンに悪影響の懸念
~タイでは洪水被害深刻化の恐れ、東南アジアは自然災害への対応力が問われる展開が続く~
西濵 徹
- 要旨
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- 足下のベトナム経済を巡っては、世界的なサプライチェーン見直しによる対内直接投資の活発化や外需が景気をけん引する展開が続く。他方、政界ではチョン前党書記長逝去による権限移譲の行方が注目されたが、ラム氏が党書記長と国家主席を兼任することで早期の事態収拾が図られた。ただし、反腐敗・反汚職の動きが経済政策の停滞、遅延を招くことが懸念される。こうしたなか、今月発生した台風11号が同国北部に上陸し、生産拠点が集積する地域で甚大な被害が出ており、世界的なサプライチェーンに悪影響が出る懸念が高まっている。ラム新政権が早期に事態収拾が図られるかが注目される。他方、先月以降北部や北東部で洪水が続くタイで洪水が一段と深刻化する動きがみられる。東南アジアにおいては異常気象による自然災害への対応力が問われる局面が続く可能性に注意を払う必要性が高まっていると考えられる。
足下のベトナム経済を巡っては、隣国である中国経済の勢いに陰りが出る動きがみられるものの、近年の米中摩擦に加えて、世界的な分断の動きが広がるなかでデリスキング(リスク低減)を目的とするサプライチェーン見直しの動きを追い風に中国に代わる生産拠点と目されるなかで対内直接投資の動きが活発化するとともに、米国向けを中心とする輸出拡大の動きを追い風に堅調な推移をみせている(注1)。一方、同国政界では7月に13年の長きに亘って最高指導者(ベトナム共産党中央委員会書記長(党書記長))として同国を率いてきたグエン・フー・チョン氏が逝去し、2026年の次回党大会(第14回ベトナム共産党全国大会)に向けて権限移譲が如何なる形で進められるかに注目が集まった。こうした背景には、チョン氏が逝去する直前に党内序列2位の国家主席であったトー・ラム氏が党書記長を代行することが明らかにされたため、ラム氏が党大会までのつなぎ役に徹するか、それとも党書記長となるかについて見方が分かれていたことがある。しかし、最終的に先月に開かれた党の中央委員会臨時総会においてラム氏が党書記長に選任されており、次回党大会まで党書記長と国家主席を兼任する方針が決定することとなった(注2)。これにより、当面のベトナム政界においては引き続きチョン前政権下で進められてきた反腐敗・反汚職に向けた動きが一段と進むことが予想されるとともに、こうした動きを受けて政府高官が新企業業への関与を躊躇する動きが広がり、結果的にビジネス環境が悪化して事業遅延が起こる展開が続く可能性は避けられない。さらに、ここ数年の最高指導部人事においては、経済政策を担った幹部が相次いで事実上更迭される例が相次いでおり、経済政策の面で停滞、遅延が一段と生じる可能性にも留意する必要がある。こうしたなか、今月初めにフィリピン東部で発生した台風11号(ヤギ)はその後に発達しながら南シナ海を横断するとともに、猛烈な勢力を維持しつつ中国の海南島からベトナムに上陸し、輸出産業が集積する工業団地などで大洪水を引き起こすなど甚大な被害をもたらしている。上陸したベトナム北部では洪水や土砂崩れによって多数の死者や行方不明者のほか、負傷者も発生しているほか、電力網や道路をはじめとするインフラが破壊されている。そして、被害が深刻な沿岸部のハイフォン市のほか、隣接するクアンニン省は首都ハノイ市に比較的近いことに加え、ベトナム第2の貨物取扱量を誇るハイフォン港のおひざ元として近年は欧米などに輸出する製品の生産拠点が集積するとともに、上述の要因も重なる形で対内直接投資の動きが活発化してきた経緯がある。これらの地域では多くの企業で工場の建物に甚大な被害が出ているほか、浸水被害に見舞われるといった動きもみられるなど、操業停止に追い込まれる流れが広がるなかで世界的なサプライチェーンに悪影響が出る可能性が懸念されている。現地報道によれば、中国の雲南省と隣接する北部のラオカイ省において深刻な被害が出ているほか、同省を流れる紅河(ホン川)が増水するとともに、中流の首都ハノイ市において氾濫が発生するといった広範囲に被害が及ぶ事態に発展しており、その被害規模は過去20年で最大との見方も出ている。ラム新政権は早くも復旧・復興に向けた取り組みを強化する動きをみせているが、経済政策との歯車に狂いが生じる展開が続けば復興の足かせとなる可能性も懸念されるだけに、その対応が注目される。また、折しも東南アジアにおいては、タイの北部や北東部でモンスーンによる大雨が相次いだ影響で洪水が発生しているものの(注3)、台風11号は熱帯低気圧に変わった後にこうした地域に雨をもたらしており、洪水被害が一段と深刻化することが懸念されている。今月正式に発足したペートンタン政権は10項目からなる緊急対策を議会に提出するとともに、セター前政権同様に経済の立て直しを優先する考えを示しているものの、洪水対策の行方は見通せないことに加え、政局を巡る不透明感が政策運営の足かせとなる懸念もくすぶる。その意味では、当面の東南アジア経済にとっては異常気象に起因する自然災害とそれへの対応力が問われる局面が続く可能性に注意する必要性が高まっていると捉えられる。
注1 7月2日付レポート「ベトナム景気は堅調を維持も、今後は外部環境への注意が必要に」
注2 8月5日付レポート「ベトナム、ラム氏が最高指導者選任で反汚職・反腐敗運動継続へ」
注3 8月27日付レポート「タイ北部・北東部で洪水、政府や中銀の政策運営やバーツ相場を左右」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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