インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

タイ北部・北東部で洪水、政府や中銀の政策運営やバーツ相場を左右

~政府は現状静観の構えもその行方は政策運営に影響、当面はその行方を注視する必要がある~

西濵 徹

要旨
  • タイでは北部や北東部でモンスーンによる大雨を受けて洪水が発生している。タイでは2011年の大洪水で深刻な被害が出たが、政府は現時点で経済成長への影響は軽微との見方を示す。他方、2011年の大洪水後は当時のインラック政権の対応が後手を踏み、ペートンタン政権は同じ轍を踏む事態は避けたいのが実情であろう。ペートンタン首相は内需喚起を目的とする現金給付策の前倒し実施を目指すが、クラウディング・アウトやインフレ再燃に繋がるリスクはある。中銀は政権の政策運営を見定める姿勢をみせるが、洪水被害の行方は財政政策に影響を与えることが予想される。足下のバーツ相場は米ドル安を反映して底入れの動きを強めているが、当面は洪水被害が早期に収束できるか否かを見定める必要性が高まっている。

タイでは、北部や北東部などでモンスーンによる大雨が続いた影響で7つの県で洪水が発生するとともに、多数の世帯が影響を受ける事態に直面している。タイで洪水というと、2011にチャオプラヤ川流域やメコン川周辺で発生し、過去50年で最悪な被害をもたらした大洪水が記憶に新しいところである。なお、足下のタイでは多くの地域ですでに例年を上回る雨量となるなか、今年はラニーニャ現象の発生やそれに伴う大規模な熱帯低気圧に見舞われる可能性が高まるなど、洪水発生リスクが高まっているとされる。現時点においては洪水発生が北部や北東部に留まっているものの、2011年の大洪水では北部での洪水をきっかけに南部の首都バンコクなど広範囲に影響が広がったことを受けて、バンコク都政府は2011年の大洪水を教訓に対策を強化する方針を明らかにするなど、不測の事態に備える動きをみせている。他方、タイでは今月14日に憲法裁がセター前首相の解職を命じて即日付で失職したものの(注1)、直後にタクシン元首相の次女でタイ貢献党党首のペートンタン氏が首相に就任しており(注2)、政治空白が生じる事態は回避されている。ペートンタン首相は早速洪水被害が深刻になっている北部に視察に向かう一方、政権内で経済政策を担うピチャイ暫定財務相は洪水発生による経済成長への影響は軽微なものに留まるとの見方を示している。ただし、2011年の大洪水に際しては当時のインラック(ペートンタン首相の叔母)政権による復興対策の遅れがその後の景気回復の重石になるとともに、その後に実施したバラ撒き政策が家計債務の過剰感を招く一因になったと考えられている。よって、ピチャイ氏の洪水対策に対する見方は過度な財政政策に舵を切る可能性の低さを示唆する一方、認識に誤りが生じれば再び対応を巡って後手を踏むリスクを孕んでおり、当面は洪水被害の行方を注視する必要性は高い。他方、ペートンタン首相はセター前政権が目玉政策に掲げたデジタルウォレットを通じた現金給付策を巡って、当初はその行方について明言を避ける姿勢をみせたものの、早期の実現に向けた政策調整を進める方針を明らかにしている。セター前政権は現金給付策の実施を10-12月にも実現させる方向で動いていたものの、タクシン元首相は前倒しの可能性に言及するなど、足下の景気は表面的な数字こそ底入れするも内需の弱さが確認されており、内需喚起の必要性を認識しているものと捉えられる。ただし、現金給付策を巡っては総額5,000億バーツ(GDP比2.7%)相当の財政出動を予定しており、財政赤字の拡大が金利高を招くクラウディング・アウトを引き起こすとともに、新たなインフレ要因となることが懸念される。よって、中銀は先週21日の定例会合で政策金利を据え置いており、その理由にペートンタン政権による政策運営の行方とその影響を見定めたいとの思惑を反映したとみられる(注3)。上述したように、2011年の大洪水ではインラック元政権の対応が後手を踏んだことを勘案すれば、ペートンタン政権としては『同じ轍』を踏む事態はなにがなんでも避けたいのが偽らざるところであろう。なお、足下のバーツ相場は米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ実施を織り込む形で米ドル安が進んでおり、そうした動きを反映してバーツ高圧力が掛かりやすい展開をみせているものの、洪水被害が一段と拡大するとともに、先行きも深刻化する事態となれば復興対策を目的に財政出動への圧力が大きく強まれば、バーツ相場を取り巻く環境が変化する可能性はくすぶる。その意味では、当面はペートンタン政権による財政運営とそれを受けた中銀の動きに加え、洪水被害が収束できるか否かを見定める必要性が高まっていると捉えられる。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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