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UAEがOPEC、OPECプラスからの脱退を表明

~短期的な影響は限定的も、原油市場のボラティリティ拡大、中東秩序に影響する可能性も~

西濵 徹

要旨
  • UAEは5月1日付でOPECおよびOPECプラスからの脱退を表明した。1967年以来の加盟国であり生産量はOPEC第3位であるが、増産をめぐるサウジとの対立、イエメン内戦を巡る亀裂、イランによる攻撃といった摩擦が積み重なっていた。市場への影響が限定的とみられるタイミングを選びつつ、加盟国との事前協議なしに一方的な脱退を決定した。

  • 脱退の背景には、OPECを批判するトランプ米政権との関係も影響している可能性がある。また、イラン攻撃に際してアラブ連盟やGCCが明確な批判を示さなかったことへの不満も一因とされる。UAEはホルムズ海峡を迂回するパイプラインを経由する形で独自に輸出することが可能であり、「米国との距離感」の違いも今回の判断に影響したとみられる。

  • 短期的な影響はホルムズ海峡封鎖による輸出停滞もあり限定的とみられる。しかし、中長期的には、UAEの増産計画がOPECの需給調整機能を低下させ、他の産油国も追随すれば原油市場のボラティリティが高まる恐れがある。さらに、OPECが担ってきた湾岸諸国の安全保障協調の枠組みも後退し、中東地域の秩序にも大きな影響を与える可能性がある。

目次

【UAEがOPEC、OPECプラスからの脱退を表明】

UAE(アラブ首長国連邦)は4月28日、5月1日付で主要産油国の枠組みであるOPEC(石油輸出国機構)、ならびにロシアなど非加盟国を加えたOPECプラスから脱退すると表明した。UAEとOPECを巡っては、UAEを構成するアブダビ首長国が1967年にOPECに加盟し、1971年のUAE建国後も加盟を継続してきた。UAEの原油生産量は日量300万バレル程度で推移しており、OPECの枠内ではサウジアラビア、イラクに次ぐ第3位であるとともに、余剰生産能力の大きさを理由に有志8ヶ国の一角として生産枠の調整役を担ってきた。しかし、OPEC内では、価格維持を重視するサウジアラビアが協調減産を主導する一方、UAEは増産を主張して対立する場面が表面化してきた。サウジアラビアとUAEは、イエメン内戦への対応を巡っても亀裂が深まる動きがみられた。加えて、中東情勢の緊迫化によるホルムズ海峡の事実上の封鎖により湾岸産油国は輸出に苦慮、イランによる中東の米軍基地や関連施設への報復攻撃ではUAEは集中攻撃に直面した。こうしたなか、ホルムズ海峡の事実上の封鎖により湾岸産油国からの輸出が停滞しており、市場への影響を抑えられると判断し、敢えてこのタイミングでの脱退を決定したとしている。そのうえで、サウジアラビアをはじめとする加盟国と事前協議を行っていないとして、一方的に脱退する方針を明らかにしている。今回の決定についてUAEのマズルーイ・エネルギー相は、世界がより多くのエネルギー資源を必要とするなか、そのニーズを満たすことに役立つとの見方を示した。

【UAEがOPECから離脱を決定した別の背景とは】

UAEがOPECやOPECプラスからの離脱を決定した背景には、トランプ米政権との関係も影響している可能性がある。トランプ氏はかねてより、OPECが原油価格を高止まりさせて世界から搾取していると非難してきた。さらに、中東情勢が緊迫化するなかで、トランプ氏は湾岸地域に対する米軍の支援と原油価格を関連付ける形で、米国がOPEC加盟国を防衛する一方、OPEC加盟国はこうした動きにつけ込む形で原油価格を釣り上げていると批判していた。前述のようにUAEはイランによる報復攻撃に直面してきたものの、湾岸産油国の枠組みであるアラブ連盟やGCC(湾岸協力会議)がイランに対して明確な形で批判をしなかったことに、UAEは苛立ちを強めていたとされる。なお、UAEはペルシャ湾岸のハブシャーン油田からフジャイラ港をつなぐADCOP(アブダビ原油パイプライン)を通じて、ホルムズ海峡を経由しない形で日量150~180万バレルの原油をオマーン湾側に輸送することが可能である。その意味では、湾岸産油国のなかでの「米国との距離感」の違いも今回の判断に影響した可能性が考えられる。

図表
図表

【今回のUAEによる決定が与える影響を考える】

今回のUAEによるOPECとOPECプラスからの離脱決定について、前述したようにホルムズ海峡の事実上の封鎖で湾岸産油国が輸出に苦慮していることもあり、短期的な影響は限定的とみられる。今回の発表を受けても原油価格は高止まりしているが、これは短期的に原油供給が大幅に増えることはないとの見方を反映している可能性がある。しかし、OPECからの離脱により生産枠に関係なく増産を進めることが可能になるUAEは、2027年までに原油生産量を日量500万バレルまで拡大させる計画を進めている。そうなれば、OPEC内の生産枠を巡る調整弁となってきたサウジアラビアの役割の持続性に疑問が生じる。また、他の産油国もUAEに同調する形で市場シェアを優先する姿勢を強めれば、需給調整機能の低下を理由に原油市場のボラティリティが高まることも考えられる。

さらに、OPECは原油価格の調整のみならず、中東湾岸諸国における緩やかな安全保障協調の枠組みの役割を担ってきたが、UAEの脱退決定はこうした役割が後退することを意味する。したがって、今回の決定は中長期的な原油市場のあり方に加え、中東湾岸産油国の行方にも大きな影響を与える可能性は高いと考えられる。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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