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2024.07.02
アジア経済
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ベトナム景気は堅調を維持も、今後は外部環境への注意が必要に
~政治不安という国内要因に加え、異常気象や米大統領選の行方など外部環境にも要注意~
西濵 徹
- 要旨
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ここ数年のベトナム経済は、米中摩擦の背後で中国に代わる生産拠点として対内直接投資を拡大させるなど「漁夫の利」を受けてきた。他方、共産党内の派閥争い激化による政治不安を受けて政府内では意思決定が遅れるなど投資環境に悪影響を与える懸念が高まっている。こうした状況ながら、ここ数年は外部環境も追い風に対内直接投資は拡大の動きが続いて景気底入れを促すなど漁夫の利が続く状況にある。
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外部環境も追い風に4-6月の実質GDP成長率は前年比+6.93%と加速しており、年前半の成長率も+6.4%と政府目標の範囲内で推移している。輸出の堅調さを追い風に製造業を中心に生産拡大が促される展開が続く一方、インフレ再燃を受けて家計消費など内需は頭打ちするなど対照的な動きがみられる。他方、異常気象を理由に前期は下振れした農林漁業関連の生産は底入れに転じており、幅広い分野で景気底入れを促す動きがみられる。よって、外部環境がベトナム経済を押し上げる展開が続いていると言える。
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昨年後半以降の生活必需品を中心とする物価上昇に加え、足下では米ドル高の再燃による通貨ドン安も重なりインフレは中銀目標近傍に加速しており、先行きはラニーニャ現象による食料インフレの懸念も内需の足かせとなることが懸念される。政治不安のほか、米大統領選の行方も投資環境に悪影響を与える懸念もくすぶるなか、先行きの同国経済は外部環境の動向にこれまで以上に注意を払う必要が高まっている。
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ベトナム経済を巡っては、ここ数年は米中摩擦が激化する背後でデリスキング(リスク低減)を目指したサプライチェーン見直しの動きを受けて中国に代わる製造拠点の受け皿として対内直接投資が拡大するとともに、対米輸出を拡大させることによって外需をけん引役にした形での景気拡大を実現している。一方、政界においてはチョン体制の下でここ数年は『反腐敗・反汚職』を旗印にした派閥争いが激化しており、この1年半のうちに最高指導部の党中央委員のうち7人が解任、引責辞任に追い込まれる異常事態となっている(注1)。同国においてはベトナム共産党による一党独裁が敷かれるなか、政治的な安定性の高さが対内直接投資の受け入れが拡大する一因になってきたものの、上述のように派閥争いが激化する背後で政府内の意思決定の遅れが散見されており、その影響で昨年は電力不足が顕在化して幅広い経済活動の足かせとなる事態に直面した(注2)。なお、昨年の経済成長率は政府目標をクリアできなかったものの、それは年初の景気が躓いたことが影響している一方、年後半の景気は外需をけん引役に底入れが進む様子が確認されるなど過度に悲観する必要性は低いと捉えられる。今年も年明け直後の景気は外需をけん引役にした動きがみられたものの、昨年後半以降は生活必需品を中心とする物価上昇が足かせとなる形で家計消費は頭打ちの様相をみせるなど内需は力強さを欠く動きをみせている。こうした状況ながら、足下の世界経済は分断の様相を強めるなかでサプライチェーンの見直しの動きが活発化しており、こうした動きを追い風に対内直接投資の流入は堅調な推移が続くなど足下の景気を下支えする一助になっているとみられる。その意味では、足下のベトナム経済にとっては引き続き世界経済の分断の動きが『漁夫の利』をもたらす展開が続いていると捉えることができる。

事実、こうした状況を反映して4-6月の実質GDP成長率は前年同期比+6.93%と前期(同+5.87%)から伸びが加速しており、今年前半の経済成長率も+6.4%と政府が掲げる成長率目標(6.0~6.5%)の範囲内で推移するなど堅調さが確認されている。当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率も2四半期ぶりのプラス成長に転じるとともに、実質GDPの水準は昨年末時点を大きく上回るなど足下の景気は底入れの動きを強めていると捉えられる。上述したように昨年は電力不足が幅広い経済活動の足かせとなる事態に直面したため、国営ベトナム電力公社(EVN)は石炭輸入を急拡大させて電力供給を優先する動きをみせており、そうした動きも足下の景気を下支えしているとみられる。ここ数年の米中摩擦の激化に加え、中国企業による米国向けなどへのいわゆる『迂回輸出』の動きが活発化していることも追い風に米国向けを中心に輸出が堅調な推移をみせているほか、こうした動きも追い風に鉱工業生産も底入れの動きを強めるなど、外需が景気底入れを促す展開が続いている。さらに、こうした外需の堅調さなどの動きも追い風に対内直接投資の動きも堅調な推移をみせており、外資企業を中心とする設備投資の動きも景気を下支えしている様子がうかがえる。こうした動きを反映して製造業や建設業などの生産は大きく上振れしているほか、前期においては異常気象の頻発も影響して下振れした農林漁業関連の生産も底打ちに転じていることも景気拡大を促す一助となっている。こうした状況を示唆するように、年明け直後の製造業企業のマインド統計は好不況の分かれ目となる水準近傍で推移するなど勢いを欠く動きをみせてきたものの、足下では急激に底入れの動きを強めており、外需をけん引役に景気を取り巻く環境が変化している様子がうかがえる。なお、年明け直後にかけて外国人来訪者数は底入れの動きを強める一方、足下にかけては一転して頭打ちの動きを強めているほか、昨年後半以降の生活必需品を中心とする物価上昇に加え、米ドル高の再燃を受けた通貨ドン安による輸入インフレも重なり年明け以降のインフレは加速するとともに、家計消費は頭打ちの様相を強めている。こうした状況にも拘らずサービス業の生産は加速の動きを強めるとともに、景気底入れの動きを促す一助となるなど奇妙な動きも確認されている。こうした状況ではあるものの、足下のベトナム経済を巡っては外部環境が景気を押し上げることに繋がっていると捉えられる。



他方、昨年後半以降における生活必需品を中心とする物価上昇の動きに加え、年明け以降は米ドル高の再燃を受けた通貨ドン安による輸入インフレも重なる形でインフレは加速の動きを強めており、足下のインフレ率は中銀目標(4.5%)に近付くなどインフレが警戒される事態となっている。さらに、昨年の電力不足を招く一因となったエルニーニョ現象は終了したものの、足下ではラニーニャ現象による農作物の不作が食料インフレを招く懸念が高まっており、先行きもインフレ率が高止まりして内需の足かせとなる懸念はくすぶる。さらに、上述のようにベトナム共産党内では派閥争いの余波を受ける形で最高指導部に欠員が生じている上、なかでも経済通とされる人が相次いで辞任に追い込まれており、政策運営の行方に不透明が高まっている。政府内での意思決定の遅れが投資環境に悪影響を与える動きが顕在化するなか、先行きはこうした状況が対内直接投資の足かせになれば、足下の景気押し上げを促す流れが逆回転する可能性も考えられる。さらに、米大統領選の行方は米中摩擦の背後で漁夫の利を受けてきた同国に対する姿勢にも大きく影響を与えることも予想される。その意味では、先行きのベトナム経済を巡っては外部環境の動きに揺さぶられることは避けられないほか、国内では政治動向の行方にこれまで以上に注意を払う必要性が高まっている。


注1 6月24日付レポート「ベトナム共産党、1年半で政治局員の辞任が7人目の異例の事態」
注2 2023年6月19日付レポート「「デリスキング」で注目を集めるベトナムが直面する「電力不足問題」」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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