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2024.08.13
アジア経済
インド経済
株価
インド株を揺さぶった「アダニ問題」は新たな展開に
~規制当局とアダニ・グループの利益相反が懸念される新調査、当面の市場環境に不透明さ~
西濵 徹
- 要旨
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- 昨年のインド株式市場は新興財閥のアダニ・グループを巡る疑惑、いわゆる「アダニ問題」による動揺に見舞われた。1月に最高裁は規制当局であるSEBI(証券取引委員会)による調査以外の特別調査を拒否する一方、SEBIに調査結果の早期公表と投資調査会社(ヒンデンブルグ)の空売りに関する調査を命じた。SEBIの調査結果の公表は遅れる一方、SEBIは先月にヒンデンブルグによる空売りが法令違反に当たる可能性を明らかにした。SEBIのバランスを欠く対応には違和感が生じたものの、ヒンデンブルグは新たな調査としてSEBIのブチ委員長とアダニ・グループの関与を指摘するなど新たな疑惑が噴出している。ブチ氏と同社は調査内容を否定しているが、利益相反が懸念されるSEBIの調査のみで良いとした最高裁の判断に影響を与える可能性がある。インド株は成長性への期待を追い風に上昇してきたが、当面はアダニ問題の行方に加え、キャピタルゲイン課税を巡る議論など不透明要因が重石となる可能性に留意する必要がある。
昨年のインド株式市場は、新興財閥のアダニ・グループを巡る疑惑(いわゆる『アダニ問題』)をきっかけに同社の株価のみならず、主要株式指数(ムンバイSENSEX)も大幅に調整するといった動揺に直面した。これは、米国の投資調査会社(ヒンデンブルグ・リサーチ)が同社について、過去数十年に亘って子会社によるタックスヘイブン(租税回避地)を介した資金送金により株価操縦や不正会計を行っているとする調査報告書を公表したことに端を発する。その後に規制当局であるインド証券取引委員会(SEBI)が独自に同社に対する実態調査を実施することを明らかにした。しかし、金融市場の混乱を受けて、同社の株価下落の直接的な影響を受けていない第三者が裁判所にSEBIが実施する調査の内容を上回る詳細調査の実施を求める公益訴訟を提起する事態に発展した。なお、公益訴訟については今年1月に最高裁判所が一連の疑惑調査を目的とする特別調査の必要はないとした上で、SEBIが実施中の実態調査を早期に公表することを求めるなど、アダニ・グループ側の主張にほぼ沿った事実上の『シロ判定』を下した(注1)。その一方、ヒンデンブルグ・リサーチ側が調査報告書の公表前に株式の空売りを実施したことに関連して、SEBIに対して一連の取引によってインド国内の投資家が被った損失が法律違反に当たるか否かを調査するよう指示した。なお、最高裁はSEBIに対して3ヶ月以内の調査内容の公表を求めたものの、その後に期間が今月14日まで延長されており、その内容に注目が集まっている。他方、先月にSEBIはヒンデンブルグ・リサーチに対して同社が調査公表前に実施したアダニ・グループ株の空売り行為について法律違反に該当する疑いがある旨の通知を行っており(注2)、仮に同社が実施した空売りが違法行為と認定されれば罰金のほか、違法行為で得られた利益は没収される可能性がある。SEBIの対応を巡っては、アダニ・グループに対する調査内容が公表される前にヒンデンブルグ・リサーチなどへの調査内容を公表した上で法律違反に該当する可能性に言及するなど、その判断を巡ってバランスを欠くなど違和感を禁じ得ない状況にある。この背景には、過去にSEBIは政府から独立した機関として独自の判断を下す動きをみせてきたものの、アダニ・グループについては創業者(ゴーダム・アダニ氏)がモディ首相と昵懇とされ、同社を巡っては度々政官財の癒着の構図が疑われる動きがみられ、SEBIの判断にこうした事情が影響を与えたとの勘繰りを招く一因になっているとみられる。こうしたなか、ヒンデンブルグ・リサーチが新たに公表した調査報告書において、ゴーダム・アダニ氏の兄のビノド・アダニ氏が投資していたファンドストラクチャーの一部とされるオフショアの事業体にSEBIのブチ委員長とその夫が投資を行っていたとしている。ビノド・アダニ氏を巡っては、一連のアダニ問題の『実行役』としてその後にジャーナリスト団体が特定した人物であるほか、ヒンデンブルグ・リサーチは今回の調査内容について内部告発者とその他の文書による情報を元にしたものであることを明らかにしており、同社と当局の間に利益相反が生じていたことになる。なお、アダニ・グループとブチ氏はともにヒンデンブルグ・リサーチの調査内容を否定しているものの、仮に一連の動きが事実であれば同社と当局の癒着が疑われることになる。ブチ氏は2017年にSEBIに入った後、2022年に初の女性委員長に就任しているものの、ヒンデンブルグ・リサーチによればブチ氏はSEBIに入った後に関連投資を行っている上、委員長就任後に夫に譲渡したとするなど利益相反関係にあったとしている。上述のように、最高裁判所はアダニ問題についてSEBIによる調査のみでよいとする判断を行っているものの、SEBIの関係が疑われる事態となったことを受けて、今後はその判断が覆される可能性も考えられる。このところのインド株を巡っては、その成長性の高さなどの期待を追い風に大きく上昇する動きをみせている。一連の動きはあくまでアダニ・グループ個社の問題と捉えられるものの、規制当局の関与が疑われるなど市場環境の不透明さが懸念されるほか、先月に政府が公表した今年度本予算案においてキャピタルゲイン課税の強化といった内容が盛り込まれていることも重なり(注3)、当面のインド株を取り巻く状況には逆風が吹きやすい展開となる可能性に留意する必要がある。

注1 1月4日付レポート「インド株式市場を揺さぶった「アダニ問題」は終息へ」
注2 7月5日付レポート「インド株式市場を揺さぶったアダニ問題はいよいよ「場外戦」へ」
注3 7月24日付レポート「インド24-25年度本予算案、総選挙の結果が様々な面で影響」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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