インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中東情勢はエネルギーだけでなく、食料インフレにも懸念

~肥料価格の上昇に異常気象も重なる懸念、日本の食糧安全保障に与える示唆とは~

西濵 徹

要旨
  • イスラエルと米国によるイラン攻撃を契機に、イランが報復攻撃を展開するとともにホルムズ海峡を事実上封鎖した。米国は短期決着を想定していたが、1ヶ月以上が経過しても目標を達成できていない。第三国の仲介により2週間の停戦が合意されたものの、その後の直接交渉は決裂した。ホルムズ海峡問題と核開発が主な相違点となっている。しかし、再交渉に向けた動きや中国によるイランへの公的な圧力など、停戦に向けた模索は続いている。
  • ホルムズ海峡封鎖による原油供給懸念から世界的にエネルギー価格が上昇し、なかでもアジア諸国では配給制や購入制限の導入も広がっている。さらに、湾岸産油国が世界の尿素輸出の3分の1を占めており、肥料価格も急騰している。すでに穀物価格は上昇するなか、今年はエルニーニョによる不作リスクも加わり、食料とエネルギーという生活必需品全般のインフレが世界的に深刻化すれば、新興国経済への打撃は避けられないと見込まれる。
  • 日本の窒素系肥料輸入はマレーシアへの依存度が高く、中東からの直接的な供給リスクは相対的に低いとされる。しかし、国際価格の上昇や世界的な代替確保競争の影響を間接的に受ける可能性は残る。食料安全保障の観点から、肥料の輸入依存度を下げ、堆肥や回収資源など国内資源を活用するなど供給体制を強化することが今後の課題となろう。

イスラエルと米国によるイランへの軍事行動を契機に、中東情勢は緊迫した状態が続いている。イスラエルと米国の最初の攻撃では、イランの最高指導者であったハメネイ師など多数の政府要人を殺害するなど一定の成果を収めた。一方、イラン革命防衛隊はイスラエルのほか、中東の米軍基地や関連施設、米国と関係の深い国々への報復攻撃を活発化した。さらに、ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ海上輸送の要衝であり、ペルシャ湾岸産油国の輸出の大部分、世界の原油消費量の2割が通過するホルムズ海峡を事実上封鎖した。トランプ米大統領は当初、攻撃期間は1~2週間、長くても3~4週間程度にとどまるとの見方を示したものの、1ヶ月以上が経過しても当初の目的(核開発施設の破壊、核燃料の奪取、テロ支援能力の排除)の達成にほど遠い状況が続いている。こうしたなか、米国とイランの双方と関係が深いパキスタン、トルコ、エジプトなどが仲介役となり、4月7日(米国時間)に米国とイランが2週間の停戦で合意した。しかし、4月11~12日にかけてパキスタンの首都イスラマバードで両国による直接交渉が行われたものの、合意に至らず終了した。交渉では一部の問題で合意に至ったものの、ホルムズ海峡を巡る問題と核開発の問題が相違点になったとされる。とはいえ、その後もトランプ米大統領は交渉継続の方針に加え、近く再交渉が行われるとの見通しを示すなど、水面下での協議が行われている模様である。また、イランの友好国である中国がイランに対して、ホルムズ海峡の航行正常化を求めるなど、公に「圧力」をかける動きも確認されている。このように、足元では当事国の間で積極的に停戦に向けた動きを模索している。

各国が停戦に向けた動きを積極化させている背景には、ホルムズ海峡の事実上の封鎖による中東産原油の供給懸念を理由に原油価格が上昇しており、世界的にエネルギー価格の上昇によるインフレ懸念が高まっていることがある。なかでも中東産原油への依存が高いアジアを中心とする国々では、戦略備蓄の少なさを理由とする石油製品の枯渇が懸念されており、需要抑制に加え、配給制や購入制限を導入する動きが広がっている(注1)。ホルムズ海峡の航行正常化が後ずれすれば、消費者や企業の行動変容が進むことで経済活動が制約され、景気への悪影響が深刻化することも予想される。また、窒素系肥料の原料である尿素の世界輸出量の3分の1を湾岸産油国が占めており、中東情勢の緊迫化はこの供給懸念を高め、国際価格は大幅に上昇している。肥料価格の上昇は農家による作付動向に影響を与えるため収穫量の行方を握ると見込まれ、世界的な需給を左右すると予想される。そのうえ、今年は夏ごろにかけてエルニーニョ現象が発生する可能性が高まっており、世界的な異常気象とそれに伴う不作を引き起こすことも懸念される。中東情勢の緊迫化を受けて穀物価格はすでに上昇する動きが確認されており、先行きは一段と上昇ペースを強めることも考えられる。世界的に食料品とエネルギーという生活必需品の物価上昇圧力が高まれば、消費支出に占める生活必需品の割合が高い新興国経済への影響は必至である。

図表
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日本においては、窒素系肥料の輸入の4分の3をマレーシアが占め、サウジアラビアをはじめとする中東湾岸諸国からの輸入比率は低いとされる。したがって、供給懸念による直接的な肥料の需給ひっ迫に直面するリスクは低いと見込まれる一方、国際価格の上昇に加え、世界的に代替供給を確保する動きが活発化するなかで、先行きはその影響を受ける可能性は残る。現状は肥料の原料の大部分を海外からの輸入に依存しており、国際価格や為替の影響を受けやすくなっている。食料安全保障の観点から、堆肥や回収資源といった国内資源の活用による肥料供給の拡大に向けた取り組みも必要になっていると考えられる。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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