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2024.07.24
アジア経済
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インド24-25年度本予算案、総選挙の結果が様々な面で影響
~全体的にはバランス型も、政党力学の変化への配慮、過大な期待の修正を迫られる可能性に要留意~
西濵 徹
- 要旨
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- インドの総選挙を巡っては、事前にはモディ政権を支える与党の圧勝が予想されたが、与党BJPは大幅に議席を減らして与党連合で辛うじて過半数を維持した。結果、与党連合内の政党力学が変化しており、本予算案に影響を与えることが懸念された。歳出規模は暫定予算時点から幾分拡大するとともに、暫定予算案で重点分野とされたインフラや農村に加え、雇用やスキルアップ、中間層、中小・零細企業を強く意識した予算配分となっている。これは総選挙でBJPが苦戦を強いられたことが大きく影響したものと捉えられる。
- 歳入面では税収は微減とする一方、税外収入の大幅増により財政赤字と金融市場からの借入が縮小すると見込むなど些か楽観に傾いた見通しを示している。さらに、暫定予算案で盛り込まれなかった税制改正では低所得者層を対象とする減税を盛り込んでおり、総選挙の結果として与党連合内に配慮した動きもみられる。他方、投機を警戒したキャピタルゲイン税強化を盛り込むなど短期的な株価への影響も懸念される。全体としては中長期的な課題対応と低所得者層などへの配慮のバランス型予算になったと捉えられるが、アダニ問題を巡る対応などの結果如何では金融市場が抱く過大な期待の修正を迫られる可能性はある。
インドにおいては、4月半ばから約1ヶ月半の期間で連邦議会下院(ローク・サバー)総選挙が実施された。事前の世論調査では、モディ政権を支える最大与党BJP(インド人民党)を中心とする与党連動(NDA(国民民主同盟))が議席を積み増すなど大勝利を収めるとの見方が強まっていた。しかし、実際にはNDA全体としては半数を上回る議席を確保するも、BJP単独では選挙前には半数を上回る議席を確保していたにも拘らず、大幅に議席を減らして半数を下回る水準に留まるなど事前予想と大きく異なる結果となった(注1)。その後は議会下院の多数派を占めるNDAが後押しする形でモディ政権は3期目入りを果たしたものの、シタラマン財務相やジャイシャンカル外相、シン国防相といった重要閣僚を留任させるとともに、30ある閣僚ポストのうち5つをNDA内の他党に割り振るなど連立内の『力学』が変化する動きもみられる。なお、総選挙前の2月に公表した今年度(2024-25年度)暫定予算案では、総選挙を意識してインフラ投資や票田となる農村を意識した配分がうかがえる一方、歳出規模の拡大ペースは抑えられるなどバラ撒き色を抑えた内容としていた(注2)。これは上述のように事前の世論調査などでBJP、並びにNDAの圧勝が予想されていたなか、総選挙後に組閣されるモディ政権の3期目において財政健全化路線を堅持すべく構造改革にまい進するとの金融市場の見方を後押ししたものと考えられた。しかし、実際には小選挙区制という選挙制度も影響する形でBJPは大票田としてきた『ヒンディー・ベルト』と称される農村地帯で大幅に議席を減らすなど、選挙結果としては惨敗と捉えられる状況に終わった。よって、あらためて公表される今年度本予算案については、暫定予算案と大きく異なる内容となる可能性が警戒された。23日に財務省が公表した本予算案を巡っては、歳出規模は48.2兆ルピーと暫定予算時点(47.7兆ルピー)から拡大するとともに、昨年度実績と比較して+8.5%上回る水準としているものの、過去数年については前年比で10%を上回る伸びで推移してきた状況を勘案すれば穏当な伸びに抑えられたと捉えられる。なお、歳出のうちインフラ関連を中心とする資本支出は暫定予算案と同じ11.1兆ルピー(前年比+17.1%)を確保するとともに、連邦政府が地方政府に供与する資本支出に使途を限定した補助金も3.9兆ルピーとわずかに拡大しており、関連歳出は併せて15.0兆ルピー(前年比+19.9%)と大幅に拡大するなど、景気下支えや雇用創出が強く意識される内容となっている。さらに、上述のように与党の大票田となってきた農村部で議席を失うなど政権に対する不満が高まっていることを受けて、生活インフラを中心とする農村開発関連予算も2.7兆ルピー(前年比+11.2%)と暫定予算案と同じ規模を確保している。また、雇用機会を巡る問題も与党が苦境に直面する一因になっていることを受けて、暫定予算で盛り込まれた農村を対象とする雇用支援プログラムに加え、本予算案では新規雇用創出関連して1000億ルピーを割り当てるとともに、向こう5年間で総額2兆ルピーをインセンティブに振り向けるとしている。そして、低所得者層や貧困層の住宅環境の改善を目的とする補助金スキームも8,467億ルピーと暫定予算時点(8,067億ルピー)から拡充するとともに、農業従事者に対する所得補償なども維持されている。シタラマン財務相は予算教書において本予算案における重点分野に雇用、スキルアップ、中間層、中小・零細企業支援を挙げており、総選挙の結果が予算配分に影響を与えたと捉えられる。

他方、歳入規模については31.3兆ルピー(前年比+14.7%)と暫定予算案時点(30.0兆ルピー)からの増額を見込んでいるものの、その大宗を占める税収については25.8兆ルピー(前年比+11.0%)と暫定予算案時点(26.0兆ルピー)からわずかに減少すると見込む一方、税外収入が拡大することにより歳入全体を賄うとするなど些か楽観的な見通しに立っていると捉えられる。なお、税収見通しの前提となる今年度の名目経済成長率については+10.5%と暫定予算案時点(+10.5%)と同じ伸びとしていることを勘案すれば、税収の見通しは比較的合理的な内容と捉えられる。他方、税外収入については昨年度の実績が対予算比で+33.2%と大幅に上振れしたことを勘案すれば、本予算案において5.4兆ルピー(前年比+35.8%)と同程度の上振れを見込んだと捉えられるものの、些か楽観に傾いていることは間違いない。なお、本予算案の公表前日に公表された最新の経済白書では、今年度の経済成長率見通しについて地政学リスクや世界的な保護主義姿勢の強まり、サプライチェーンを巡る懸念などを理由に+6.5~7.0%と1月末時点(+7.3%)から下方修正するとともに、昨年度(+8.2%)をも下回るとの見方を示しており、その点でも歳入が幾分楽観的に見積もられた可能性は考えられる。ただし、歳入増を前提に財政赤字幅は▲16.1兆ルピーと暫定予算案時点(▲16.5兆ルピー)からわずかに縮小するとともに、GDP比も▲4.9%と暫定予算案時点(▲5.1%)に加えて昨年度(▲5.6%)からマイナス幅が縮小するとしている。ただし、暫定予算案で盛り込まれなかった税制変更を巡っては、低所得者層を対象とする減税措置を講じており、NDA内で連合を組む友党の地盤を意識した配慮が影響したと考えられる。他方、税制を巡ってはデリバティブ取引を中心とする投機を警戒する観点からキャピタルゲイン税の強化として、1年未満の株式投資に対する税率(15%→20%)、1年以上の株式投資に対する税率(10.0%→12.5%)をともに引き上げる一方、海外資本の呼び込みを目的に外国企業に対する法人課税(40%→35%)は引き下げられる。本予算案を巡っては、中長期的な経済成長の実現を主眼に置く一方、短期的には選挙を意識した低所得者層や貧困層に一定の配慮をみせる『バランス型』の予算編成が行われたと捉えられる。しかし、このところの株式相場は期待先行で大幅に上昇する局面が続いてきたことを勘案すれば、経済成長への過度な期待の修正が迫られる可能性に加え、株式取引を巡る環境変化などが当面の足かせとなることは避けられない。さらに、いわゆる『アダニ問題』を巡る問題は場外戦の様相を呈するなか(注3)、来月に迫る当局の調査結果の内容如何では同国に対する見方が大きく変化する可能性を孕んでおり、その点でも過大な期待の修正を迫られることもあり得ると捉えられる。


注1 6月5日付レポート「インド総選挙、与党連合過半維持もBJP議席減、モディ政権とインド経済は」
注2 2月2日付レポート「インド・モディ政権、総選挙に自信か、2024-25年度予算はバラ撒き姿勢を抑制」
注3 7月5日付レポート「インド株式市場を揺さぶったアダニ問題はいよいよ「場外戦」へ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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