インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ブラジル中銀は2会合連続の金利据え置き、独立性の行方は

~インフレ期待の上振れを警戒する一方、ルラ大統領による圧力がレアル相場を揺るがす可能性も~

西濵 徹

要旨
  • ブラジル中銀は先月30~31日の定例会合で政策金利を2会合連続で10.50%に据え置いた。同行は6月の前回会合で利下げサイクルの停止に動く一方、その後もルラ大統領は中銀に利下げを要求するなど圧力を強めている。他方、政府は市場が懸念する財政悪化に歯止めを掛けるべく歳出削減に取り組む姿勢をみせる。しかし、金融市場では中銀の独立性が脅かされる懸念に加え、中国経済を巡る不透明感や商品市況の低迷も重なりレアル相場は調整の動きを強めている。さらに、国営石油公社はエネルギー価格の引き上げを決定しており、足下で底打ちするインフレの上振れが懸念される状況にある。結果、中銀は前回一致での金利据え置きを決定するとともに、インフレ期待の上振れを警戒する姿勢をみせた。金融市場では次期総裁候補がハト派に傾くことを警戒する一方、同氏も含めて金利据え置きを決定したことで今後はルラ大統領による圧力が強まることも予想され、レアル相場を取り巻く状況には不透明感が高まっている。

ブラジル中銀は先月30~31日の日程で開催した定例の金融政策委員会において、政策金利(Selic)を2会合連続で10.50%に据え置く決定を行った。同行は6月の定例会合において昨年8月に開始した利下げサイクルの停止を決定したものの(注1)、その後にルラ大統領は年末に任期満了を控える同行のカンポス=ネト総裁の後任人事をちらつかせつつ再三に亘って利下げを要求するなど『圧力』を掛ける動きをみせてきたものの、中銀は独立性を堅持した格好である。なお、ここ数年の同国では度重なる大干ばつに加え、商品高、米ドル高を受けた通貨レアル安が重なる形でインフレが上振れしたため、中銀は物価と為替の安定を目的に累計1175bpもの利上げに動いた。他方、インフレは一時18年ぶりの高水準となるも一昨年後半以降は頭打ちに転じたため、中銀は昨年8月以降に累計325bpの利下げを実施してきた。しかし、上述のようにルラ大統領は度々中銀の独立性を脅かす動きをみせてきたことに加え、同政権はバラ撒き政策による歳出圧力を強めるなかで連邦政府の基礎的財政収支は再び赤字に転じており、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の悪化が懸念される動きもみられる。こうした環境の下で、年明け以降の通貨レアル相場は調整の動きを強めてきた(注2)。さらに、堅調な雇用環境を追い風にサービス物価の上昇圧力も強まる動きが確認されるなど物価を巡る状況は変化しつつある。なお、国際金融市場がルラ政権に抱く懸念に対応して、アダジ財務相を中心とする政権の経済チームは財政枠組の遵守を目的とする歳出削減案の策定に動くとともに、ルラ大統領が一連の歳出削減案を承認する動きをみせており、調整の動きが続いたレアル相場は一時的に底打ちする動きが確認された(注3)。しかし、その後のレアル相場を巡っては、財政運営に対する『足かせ』が嵌められたことにより、金融政策に対する圧力が強まることで元々危惧された中銀の独立性に対する懸念が高まるほか、中国経済に対する不透明感を理由に商品市況は調整の動きを強めていることも重なり、再び頭打ちに転じるなど上値の重い展開をみせている。他方、今年5月にはエネルギー価格の設定方法や投資計画などを巡ってルラ大統領などと軋轢が生じていた国営石油公社(ペトロブラス)のプラテス前CEOが事実上更迭されるなど政治介入が再燃する動きがみられた(注4)。後任のCEOとなったシャンブリアール氏は投資計画を大幅に引き上げるなど政権の意向に沿う動きをみせる一方、先月初めには燃料価格を引き上げるなど収益性の確保に向けてバランスを取る動きをみせており、物価上昇圧力が強まることは避けられなくなっている。こうしたことも中銀が2会合連続で利下げ局面の休止を決定する一因になっており、会合後に公表した声明文でも今回の決定について「全会一致で金利据え置きを決定し、世界経済や国内経済を巡る不確実性に対して一段の注意が必要と強調する」とした上で、「政策運営はディスインフレプロセスと目標近傍での期待の定着を図るべく充分な期間に亘って抑制的な水準を維持すべきと強調する」との考えを示している。その上で、先行きの政策運営について「引き続き注意を払いつつ、インフレ目標の実現に向けた確固とした責務によって決定される」としつつ、「とりわけ市場環境とインフレ期待が物価動向に与える影響が持続的なものとなれば、一段の警戒が必要になる」として、足下でインフレ期待が高まっていることを警戒する考えをみせている。金融市場では、次期総裁の最有力候補と目されているガリポロ金融政策担当理事について、現職のカンポス=ネト総裁に比べてハト派とみられてきたものの、同氏も2会合連続で金利据え置きの票を投じたことでルラ大統領による圧力が一段と強まることも予想される。その意味では、今後は中銀の独立性に対する懸念が高まるとともに、そのことがレアル相場の重石となる可能性に注意を払う必要性が高まっている。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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