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2024.06.21
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フィリピンペソ安が映す「不自然な」中銀のハト派化と政治対立への懸念
~中銀総裁のハト派化に加え、マルコス家とドゥテルテ家の確執が政治対立を招く可能性に要注意~
西濵 徹
- 要旨
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- 足下の国際金融市場では米ドル高の動きが再燃して多くの新興国通貨で調整圧力が強まる動きがみられるが、なかでもフィリピンペソで調整の動きが加速している。インフレ昂進を受けて中銀はタカ派姿勢を強めてきたほか、昨年総裁に就任したレモロナ氏もタカ派姿勢を堅持してきた。しかし、足下では生活必需品を中心とする物価上昇に直面しているにも拘らず、レモロナ氏は度々将来的な利下げに言及するなどハト派に傾く不自然な動きをみせており、ペソ相場に歯止めが掛からない一因になっている。さらに、一昨年の大統領選で蜜月を演出したマルコス家とドゥテルテ家の確執が顕在化するなか、サラ副大統領が兼務した教育相を突如辞任する事態に発展している。来年の中間選挙に向けて両陣営の対立が激化することも予想されるなど、政治不安がペソ相場の新たな足かせとなり得る可能性にも注意する必要は高まっている。
足下の国際金融市場では、米FRB(連邦準備制度理事会)によるタカ派姿勢堅持を反映した米ドル高圧力を反映して多くの新興国通貨が調整圧力に晒される動きがみられるなか、フィリピンの通貨ペソ相場は急速に調整の動きを強めて1年半強ぶりの安値が意識される状況に直面している。同国ではここ数年の商品高やペソ安、コロナ禍一巡による経済活動の正常化も重なりインフレが一時約14年ぶりの水準に昂進する事態に見舞われたため、中銀は物価と為替の安定を目的に累計450bpの利上げを実施してきた。しかし、昨年以降のインフレは頭打ちに転じたものの、昨年中銀総裁に就任したレモロナ氏は慎重な政策運営を目指し、政府の政策運営にも注文を付ける姿勢をみせたほか、昨年10月には政策対応が後手を踏むことを懸念して緊急利上げに動くなど『タカ派』の顔をみせた(注1)。しかし、その後のペソ相場は調整の動きを強めるなど輸入インフレが警戒される状況に直面しているにも拘らず、将来的な利下げ余地に言及するなどタカ派姿勢を幾分後退させる動きをみせた。足下のインフレ率は依然として中銀目標の範囲内で推移しているものの、昨年後半以降の中東情勢を巡る不透明感の高まりを受けた国際原油価格の底入れのほか、異常気象の頻発を理由にアジア新興国ではコメをはじめとする穀物の生育不良が食料インフレを招く動きが広がりをみせており(注2)、同国においても生活必需品を中心に物価上昇圧力が強まる状況に直面している。こうした状況にも拘らず、中銀は先月の定例会合でも将来的な利下げに言及するとともに(注3)、その後もレモロナ氏は講演などで中銀が米FRBに先んじる形での利下げのほか、今年7-9月の利下げの可能性に言及するなど一転して『ハト派』姿勢を強める動きをみせてきた。なお、先月の定例会合直後に行われたインタビューでは、タカ派スタンスを弱めればペソ相場の調整圧力が強まるとの認識を示していたにも拘らず、上述のようにその後は明らかにハト派に傾く動きをみせており、結果としてペソ相場は調整の動きを強めて輸入インフレが警戒される事態を招くなど不自然な状況に陥っていると捉えられる。こうした状況に加え、足下では政治不安の動きが顕在化していることもペソ相場の重石となる懸念が高まっている。一昨年の大統領選でマルコス氏は大統領候補、ドゥテルテ前大統領の長女のサラ氏は副大統領候補として共闘するなど『蜜月』を演出して圧勝を果たしたものの、マルコス氏や側近が主導する憲法改正の動きに加え(注4)、南シナ海問題や麻薬対策などで路線転換を図ったことを機にドゥテルテ氏が反発する動きをみせるなど関係に不透明感が増す懸念が高まった。こうしたなか、19日にサラ副大統領は兼務する教育相を辞任することを明らかにする一方、その理由について明確にされなかったことで、マルコス家とドゥテルテ家の間で確執が強まっていることが影響しているとの見方が広がっている。サラ氏は副大統領職に留まるとしており、大統領と副大統領の間で意向に違いが生じる可能性が高まっている。なお、同国の大統領選と副大統領選が個別に実施されるため、ドゥテルテ前政権下で副大統領となったロブレド氏とは確執が生じる展開が続いたものの、政策運営に問題が生じることはなかったことを勘案すれば、直接的な影響は限定的と捉えられる。他方、サラ氏を巡っては元々大統領選に推す声が大きかったにも拘らず、副大統領候補としてマルコス氏とタッグを組むことで両者の圧勝をもたらしたため、両家の確執は派閥争いなど新たな闘争を招いて様々な政策運営に影響を与える可能性が懸念される。次期大統領選までは4年近くある一方、来年に予定される中間選挙に向けて両陣営の対立が激化することも予想され、そのことがペソ相場の足かせとなる可能性にも注意する必要が高まっている。


注1 2023年10月27日付レポート「フィリピン中銀、利上げに「後手」との認識を示しつつ緊急利上げ決定」
注2 5月21日付レポート「「熱波」が招くアジアの食料インフレ、「食料安全保障」の動きも影響」
注3 5月16日付レポート「フィリピン中銀、通貨防衛の切迫感後退でタカ派スタンスも後退」
注4 1月29日付レポート「フィリピンを二分する懸念が高まっている憲法改正問題とは」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

