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2024.05.21
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「熱波」が招くアジアの食料インフレ、「食料安全保障」の動きも影響
~異常気象による供給懸念、原油底入れ、通貨安懸念も重なり、中銀は難しい対応を迫られる展開~
西濵 徹
- 要旨
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- ここ数年の世界経済ではウクライナ戦争を受けた商品高が物価上昇を招き、新興国では主要国中銀の金融引き締めによる自国通貨安が輸入インフレを招いてインフレが上振れした。アジア新興国では商品高や米ドル高の一巡により昨年以降のインフレは頭打ちに転じ、足下では一見落ち着きを取り戻している。しかし、異常気象や食料安全保障による囲い込みなどが影響して食料品物価が上昇しており、アジアでは主食のコメがそうした影響に晒されている。年明け以降も熱波で各国の農業生産は下振れしており、中東情勢の不透明感を受けた原油価格の底入れも重なり、生活必需品を中心に物価上昇圧力が強まっている。景気は勢いを欠くも中銀は物価と為替の動向を警戒せざるを得ず、当面は難しい対応を迫られる展開が続く。異常気象を前提にした経済活動の在り方を模索していく必要性は日増しに高まっていると捉えられる。
ここ数年の世界経済を巡っては、ロシアによるウクライナ侵攻を機に欧米などがロシアに対する経済制裁を強化したことを受けて、原油や天然ガスなどのエネルギー資源のほか、小麦やとうもろこしをはじめとする穀物の供給懸念が高まり、これらの市況が大きく上振れして物価を押し上げる動きに直面した。こうした市況の上振れによる物価上昇の動きは、コロナ禍一巡による世界経済の回復の動きと相俟って全世界的なインフレ昂進を招き、コロナ禍対応を目的に全世界の中銀は異例の金融緩和に舵を切る動きをみせてきたものの、一転して物価安定を目的とする金融引き締めを余儀なくされた。他方、米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀による金融引き締めは、全世界的な金融緩和を背景に『カネ余り』の様相を強めた国際金融市場におけるマネーの動きに影響を与えた。結果、こうしたマネーの動きを反映して米ドルなど主要通貨が上昇する背後で新興国通貨に対する調整圧力が強まり、新興国では自国通貨安による輸入インフレの動きが物価上昇の動きを一段と増幅させた。こうした事態を受けて、多くの新興国中銀は物価と為替の安定を目的とする金融引き締めを迫られるなど難しい対応を迫られる展開が続いてきた。なお、一昨年末以降はウクライナ戦争を機にした原油や天然ガス、小麦やとうもろこしなどの市況上振れの動きが一巡するとともに、米ドルなど主要通貨の上昇圧力も幾分緩和したことも重なり、上昇したインフレは一転して頭打ちする動きをみせた。アジア新興国においても、一昨年末から昨年初めにかけて多くの国でインフレが昂進する展開が続いたものの、その後は頭打ちの動きを強めており、一見すると物価は落ち着きを取り戻している様子がうかがえる。しかし、ここ数年はエルニーニョ現象をはじめとする世界的な異常気象が世界的な農業生産に悪影響を与えるなど不安定化する動きがみられるなか、食料安全保障の観点から調達先の多様化を進める動きの一方、調達先の安定化を目的とした『囲い込み』の動きも広がりをみせるなど新たな供給懸念となる可能性が高まっている。こうしたなか、昨年は世界最大のコメ輸出国であるインドが雨不足に見舞われるとともに、農業生産が下振れして供給懸念が高まったことを受け、最高級品種のバスマティ米以外のすべての白米の輸出を禁止したほか、タマネギの輸出に高関税を課すなど囲い込みの動きを活発化させた。インドがこうした動きをみせた背景には、4月から実施されている総選挙を前にモディ政権が物価抑制を目指すとともに、総選挙後の政権3期目入りを盤石にしたいとの『内向き姿勢』が大きく影響したと考えられる。ただし、多くのアジア新興国において主食のコメ供給はインド、タイ、ベトナム、パキスタンなど数ヶ国の輸出に大きく依存しており、インドによる輸出禁止は国際価格を押し上げるとともに、アジアの食卓を大きく揺さぶっている。とりわけ食料品を海外からの輸入に依存する国々にとっては、米ドル高による自国通貨安を受けた輸入インフレの動きも重なる形でインフレ圧力が増幅される事態に直面している。さらに、年明け以降もアジア新興国では熱波が頻発するとともに、1-3月のGDP統計では農林漁業の生産が低迷するなど供給懸念が高まる動きが顕在化しており、足下で高止まりする食料品価格が一段と上振れする可能性も高まっている。また、昨年後半以降の中東情勢を巡る不透明感の高まりを受けて国際原油価格は底入れしており、エネルギー価格にも上昇圧力が掛かるなど生活必需品を中心にインフレ圧力が強まっている。よって、上述のように足下のインフレ率は比較的落ち着いた推移をみせているものの、生活必需品を中心とするインフレの動きは家計部門を取り巻く環境を厳しくするほか、足下では米ドル高の動きに一服感が出ているものの、先行きも米ドル相場の動向に揺さぶられやすい展開が続くことも予想される。各国の景気は外需を巡る不透明感などが重石となる形で勢いを欠くなか、インフレ鈍化を受けて一部の国では政府が中銀に景気下支えに向けた金融緩和への圧力を強める動きをみせるが、中銀は物価や為替への影響を警戒して慎重姿勢を崩すことができないにある。異常気象という不可抗力が幅広く経済に悪影響を与えるなかで、こうした状況を前提に新たな取り組みを進めていく必要性が高まっている。


西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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