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2024.06.21
アジア経済
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インドネシア中銀、ルピア安も通貨防衛の利上げに動かず静観を維持
~ペリー総裁はルピア安に苛立ちを隠さないが、ルピア相場や政策運営は外部環境如何の展開が続く~
西濵 徹
- 要旨
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- インドネシアでは昨年後半以降のインフレ率が中銀目標の域内で推移するなど落ち着いた動きをみせている。中銀は物価と為替の安定を目的に断続利上げに動いたが、インフレが頭打ちに転じたことで利上げ局面を休止させた。しかし、その後もルピア安の動きが強まる度に通貨防衛を目的とする再利上げを余儀なくされてきた。中銀はルピア相場の安定へ積極的な為替介入に動いているが、外貨準備高は国際金融市場の動揺への耐性が十分ではない水準に留まるなか、足下のルピア相場は4月の通貨防衛を目的とする利上げ時点を下回るなど難しい状況に直面している。こうした状況ながら、中銀は20日の定例会合で政策金利を2会合連続で6.25%に据え置くなど様子見姿勢を維持している。景気や経常収支、物価に対する見方を維持するとともに、ルピアの安定に向けて為替介入やプロ向け金融商品で対応する考えを示す。ペリー総裁はルピア安に歯止めが掛からない状況に苛立ちを隠さないが、先行きもルピア相場や金融政策は米FRBの動きなど外部要因に左右されることにより自律的な政策運営は難しい展開が続くであろう。
インドネシアでは、昨年後半以降のインフレ率が中銀目標の域内で推移しており、ここ数年は商品高や米ドル高を受けた通貨ルピア安に加え、コロナ禍一巡による経済活動の正常化も追い風にインフレが昂進してきた状況は大きく好転している。なお、インフレは一時7年ぶりの高水準となったことを受けて、中銀は物価と為替の安定を目的とする断続利上げを余儀なくされたものの、その後はインフレが頭打ちに転じたことを受けて中銀は昨年2月に利上げ局面を休止させた。その後は上述のように昨年後半以降は中銀目標の域内で推移するなどインフレは落ち着いた動きをみせているが、国際金融市場では度々米ドル高の動きが再燃してルピア相場は調整の動きを強めるなど輸入インフレが懸念される事態に直面した。よって、中銀は昨年10月(注1)、今年4月(注2)と通貨防衛を目的とする利上げに動くなど難しい対応を迫られており、インフレが落ち着いているにも拘らず金融引き締めの手綱を緩められない状況が続いている。なお、中銀による4月の通貨防衛を目的とする利上げ実施後のルピア相場は米ドル高一服の動きも追い風に一旦落ち着きを取り戻したため、先月の定例会合では再び様子見姿勢に転じる余地が生まれた(注3)。しかし、その後のルピア相場は再び調整の動きを強めるとともに、通貨防衛を目的とする利上げを決定した時点と比較しても安値水準で推移するなど中銀は再び難しい状況に直面している。中銀はルピア安に際してこれまでもスポット市場、ルピア建ノンデリバラブル・フォワード市場、債券市場の3市場での『トリプル介入』を実施しているが、その原資となる外貨準備高を巡ってはIMF(国際通貨基金)が示す国際金融市場の動揺への耐性の有無の基準とするARA(適正水準評価)に照らして「適正水準(100~150%)」の下限を下回るなど必ずしも十分とは言えない状況にある。さらに、先月末以降は米ドル高の動きが再燃するとともに、今月初めにジョコ大統領の肝煎り政策である首都機能移転を担当する首都庁のスサントノ長官とラハジョエ副長官が突然辞任を表明するなど計画の混乱をうかがわせる動きが顕在化しており、ルピア安の動きが強まる事態に直面している。こうした状況ながら、中銀は20日に開催した定例会合において政策金利である7日物リバースレポ金利を2会合連続で6.25%に据え置いている。会合後に公表した声明文では、国際金融市場について「主要国の金融政策を巡るバラつきや地政学リスクを理由に極めて不確実性の高い状況にある」、「米ドル高が多くの通貨に調整圧力を強め、新興国への資金流入を抑えている」との認識を示している。その一方、同国経済について「家計消費など内需の力強さを追い風に今年の経済成長率は+4.7~5.5%になる」、対外収支についても「先行きは貿易赤字の縮小や資金流入を追い風に今年の経常赤字のGDP比は▲0.9~▲0.1%になる」といずれも従来見通しを据え置いている。また、ルピア相場については「世界経済を巡る不確実性の高まりやとりわけ米国の金融政策が重石になっている」、「国内では資金還流に伴う米ドル需要と財政上の懸念を理由に調整圧力が掛かっている」としつつ、「韓国ウォン、タイバーツ、メキシコペソ、ブラジルレアル、日本円に比べて調整の動きは緩やかなものに留まっている」ほか「先行きは為替介入を含む安定化策に歩を併せる形で安定が見込まれる」との見方を示している。物価動向についても「年内は目標域内での推移が見込まれる」ほか、「輸入インフレ圧力は管理可能」との認識を示しており、「ルピア相場の安定に向けて中銀が発行するプロ向け金融商品(SRBI(中銀が保有する国債を担保にしたルピア建短期債)、SVBI(外国為替証券商品)、SUVBI(外国為替スクーク))の最適化を図る」との考えを示している。その上で、先行きの政策運営について「インフレを目標域に抑えるべく先手を打つもの」としつつ、「ルピア相場の安定と経済の持続的成長に資するものであるべき」との認識をしめしている。会合後に記者会見に臨んだ同行のペリー総裁は、足下のルピア相場について「経済のファンダメンタルズに照らせば1ドル=16000ルピアを下回っているべき」との認識を示しつつ、「我々はルピア相場が強含みするとのトレンドを信じており、日ごとに金融市場のセンチメントが変化するなかで相場は動くがトレンドは変わらない」との見方を示している。その上で、「金融政策のツールは為替介入、公開市場操作、政策金利がある」とした上で、「現時点では為替介入とプロ向け金融商品を組み合わせて対応している」としつつ、「政策金利の利下げ余地について尋ねられれば『ある』と答えるが、それは金融市場環境如何になる」との考えを示している。ペリー総裁の発言はルピア安圧力に歯止めが掛からない状況への苛立ちともみられる一方、足下では異常気象を理由とする食料品など生活必需品を中心とする物価上昇の動きが続いており(注4)、今後は足下のルピア安による輸入インフレの影響が顕在化しやすい状況を勘案すれば、現状の引き締め姿勢の維持による様子見を続けざるを得ないのが実情である。先行きのルピア相場や金融政策は米FRBの動向など外部環境がカギを握ることは避けられず、引き続き自立的な政策運営を行うハードルは高い展開が続くであろう。



注1 2023年10月19日付レポート「インドネシア中銀、ルピア安の加速に直面するなかで9会合ぶりの利上げ再開」
注2 4月24日付レポート「インドネシア中銀は「安定」を重視して6会合ぶりの利上げを決定」
注3 5月22日付レポート「インドネシア中銀、通貨防衛の必要性後退で再び様子見に転じる」
注4 5月21日付レポート「「熱波」が招くアジアの食料インフレ、「食料安全保障」の動きも影響」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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