インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

コロンビアは2年連続で高成長も足下の景気は頭打ちの様相

~同国初の左派ペトロ政権を取り巻く状況は急速に厳しさを増している可能性~

西濵 徹

要旨
  • 南米コロンビアでは昨年、同国初の左派政権であるペトロ政権が誕生した。コロナ禍で経済が疲弊するなかで社会経済格差の縮小を目指すとともに、左派ゲリラとの和平交渉を目指す姿勢が後押ししたが、現状では見通しの立たない状況が続く。他方、足下のインフレ率は一段と加速する展開が続いており、通貨ペソ相場も調整がくすぶるなか、中銀は先月の定例会合でも75bpの大幅利上げを実施するなど難しい対応が続く。中銀のビジャル総裁は追加利上げも辞さない考えを示しており、景気への悪影響が避けられなくなっている。
  • なお、昨年の経済成長率は+7.5%と前年(+11.0%)から2年連続の高成長となったが、ゲタにより押し上げられたことに注意が必要である。事実、10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+2.70%、中期的な基調を示す前年比ベースでも+2.9%と鈍化するなど頭打ちの様相を強めている。物価高と金利高の共存により幅広く内需が下振れしたほか、世界経済の減速を受けて外需も弱含むなど、景気は厳しさを増している。足下では家計、企業ともにマインドが下振れするなど一段と頭打ちの様相を強めていると捉えることが出来る。
  • 今年の経済成長率はゲタのプラス幅が大幅に縮小しているほか、国内外で景気の不透明感が高まるなど、左派政権は誕生から1年足らずながら、経済運営を巡って極めて厳しい状況に立たされていると言える。

南米のコロンビアにおいては、昨年6月の大統領選(決選投票)において左派のグスタボ・ペトロ氏が勝利し、8月の大統領就任を経て同国で初めての左派政権が誕生した(注1)。ここ数年の中南米諸国では『ピンクの潮流』と呼ばれる動きが広がりをみせているが、伝統的に米国との関係が深いとされる同国において左派政権が誕生したことは、足下における動きが極めて強いものとなっている証左と捉えることが出来る。ピンクの潮流が同国に及んだ背景には、ここ数年の同国経済がコロナ禍で疲弊する一方、商品高による生活必需品を中心とするインフレが国民生活を直撃するなか、ペトロ氏が掲げた社会経済格差の解消を目的とする政権公約が大きく影響したと考えられる。さらに、同国では長年に亘って左派ゲリラによる散発的なテロ攻撃の発生が治安悪化を招く状況が続いており、ペトロ氏が同国最大の武装組織であるELN(民族解放軍)との和平交渉再開を目指す姿勢をみせたことも、支持拡大に繋がったとみられる。こうしたなか、政府は昨年末以降にELNとの和平交渉を再開させたほか、ペトロ大統領は停戦合意に至ったことを発表したものの、直後にELNは停戦合意そのものを否定するといったドタバタ劇が露呈する動きがみられた(注2)。その後も両者による和平交渉は継続している模様であるなど一定の前進がうかがえるものの、依然としてその道筋は見通しにくい状況が続いている。他方、インフレ抑制を目的に中銀は一昨年10月に5年強ぶりの利上げに動いたほか、その後も断続的な利上げ実施に加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ペソ安に伴う輸入インフレへの対応を理由に大幅利上げを迫られており、物価高と金利高の共存が家計消費など内需に冷や水を浴びせることが懸念される。こうした状況の一方、昨年末以降は世界経済の減速懸念を受けた商品高の動きに一服感が出たほか、米ドル高の一巡によりペソ安圧力も後退したにも拘らず、1月のインフレ率は前年比+13.25%と前月(同+13.12%)から加速して20年以上ぶりの水準で高止まりする展開が続いている。よって、中銀は先月の定例会合においても75bpの大幅追加利上げの実施を決定しており、これを受けて政策金利は12.75%と23年以上ぶりの水準となっているものの、同行のビジャル総裁は一昨年後半以降の利上げ局面が依然として終了していないとの見方を示すなど、難しい対応に直面している。中銀がこうした対応をみせる背景には、昨年末以降は底入れしてきたペソ相場が頭打ちに転じていることも影響しているとみられるものの、外部環境に左右されやすい厳しい状況を示唆していると捉えられる。

図表1
図表1

図表2
図表2

他方、物価高と金利高の共存など内需を巡る状況には厳しさが増しているものの、同国経済を巡っては原油をはじめとする商品市況の上振れの動きを追い風に、比較的早期にコロナ禍を受けて下振れした景気は底入れしてきた。さらに、昨年以降は感染収束が進んだことで行動制限が緩和されたことで経済活動の正常化が進むとともに、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復を追い風に外需も押し上げられるなど、内・外需双方で景気の底入れを促す動きが強まった。結果、昨年通年の経済成長率は+7.5%と前年(+11.0%)から伸びが鈍化したものの、2年連続となる高い経済成長を実現している。しかし、昨年の経済成長率についてはゲタが+5.6ptと前年(+5.4pt)と同様に大幅なプラスであったことに加え、四半期ごとの動きをみると高成長を実現したという高揚感にはほど遠い状況にあると捉えることが出来る。というのも、10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+2.70%と前期(同+1.87%)から伸びが加速するも勢いの乏しい展開が続いている上、中期的な基調を示す前年同期比ベースでも+2.9%と前期(同+7.8%)から伸びが一段と鈍化するなど頭打ちの様相を強めている。行動制限の緩和による経済活動の正常化を受けたペントアップ・ディマンド発現の動きが一巡していることに加え、物価高と金利高の共存による実質購買力への下押し圧力の動きも重なり家計消費が弱含んでいるほか、企業部門による設備投資需要も弱含むなど総じて内需に下押し圧力が掛かる動きが顕在化している。さらに、世界経済の減速懸念の高まりを受けて輸出に下押し圧力が掛かるなど内・外需ともに景気の足を引っ張る事態となっている。他方、内需の弱さを反映して輸入は輸出を上回るペースで減少しており、それに伴い前期比年率ベースでは純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度が+5.42ptと成長率そのものを上回る水準となるなど、足下の景気は見た目以上に厳しい状況にあると捉えられる。なお、昨年末以降の中国によるゼロコロナ終了の動きは、中国景気のみならず世界経済にも追い風になると期待されるほか、そうした期待を反映して商品市況は底打ちする動きがみられるものの、同国の輸出に占める中国向けは1割弱に留まる一方、米国向けは4分の1強を占めるなど米国経済への依存度が高いことを勘案すれば、外需の不透明感が高まることは避けられない。事実、足下では家計のみならず、企業部門もともにマインドが下振れするなど景気を取り巻く環境は厳しさを増していると捉えられる。

図表3
図表3

図表4
図表4

なお、上述のように昨年の経済成長率は2年連続で高い伸びとなったものの、ゲタによって大幅に押し上げられている上、年末にかけて頭打ちの様相を強めていることを勘案すれば、表面的な数字をそのまま評価することは難しい。また、今年の経済成長率についてはゲタのプラス幅が+1.0ptに大きく縮小しており、急速に伸びが鈍化することが避けられないと予想される。さらに、今後も物価高と金利高の共存状態が続くと見込まれる上、中銀は物価、及び為替の安定を目的に一段の利上げ実施も辞さない考えを示していることを勘案すれば、景気を取り巻く状況は一層厳しい状況となることも考えられる。その意味では、同国初の左派政権にとっては発足から1年経たない状況にあるものの、すでに極めて難しい状況に直面していると言える。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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