インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

南ア・ラマポーザ大統領は弾劾回避も、政治不安が拭えた訳ではない

~政治、経済ともに視界不良が続くなか、ランド相場は外部環境に揺さぶられる展開が続く可能性~

西濵 徹

要旨
  • 南アフリカではラマポーザ大統領に対する汚職疑惑が噴出している。ラマポーザ氏は報告書への異議を申し立てるとともに、与党ANCも党役員会で弾劾手続きへの反対を決定し、16日に議会で審議された弾劾の是非を審議する委員会設置案は反対多数で否決された。しかし、ANC内で離反の動きがみられるなか、仮に議長選でラマポーザ氏が再選を果たした場合も、ANCを取り巻く状況には厳しい展開が待ち受けている。
  • 同国経済を巡っては慢性的な電力不足に加え、物価高と金利高の共存など悪材料が山積するが、7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+6.63%とプラス成長となった。しかし、これは洪水被害で下振れした前期の反動が影響しており、輸出再開の動きが景気を押し上げる一方、家計消費の減少が輸入を下押しして景気を一段と押し上げるなど、足下の景気動向は見た目以上に厳しい状況にあると捉えることが出来る。
  • 足下の企業マインドは外需の改善を追い風に改善する動きがみられる一方、世界経済はスタグフレーションに陥る懸念がくすぶるなど厳しい状況は避けられそうにない。政治不信がくすぶるなかで先行きは2024年の次期総選挙に向けて労働組合が活動を活発化させることも予想される。ラマポーザ氏は弾劾こそ回避したが、政治及び経済ともに視界不良が続くとみられ、ランド相場は外部環境に揺さぶられる展開が続こう。

南アフリカでは、議会に設置された独立調査委員会がラマポーザ大統領に対して不正金銭の取得による汚職疑惑が噴出していることを巡り、先月末にラマポーザ大統領の偽証を示唆する判断を下したことをきっかけに政局が混乱する可能性が高まった(注1)。ラマポーザ大統領が率いる与党ANC(アフリカ民族会議)は今月16~20日の予定で党大会の開催を予定しており、党大会において実施される議長選ではラマポーザ氏の再選が確実視されてきた。しかし、汚職疑惑が噴出したことで一転して雲行きが怪しくなっていた。というのも、2017年の前回議長選ではラマポーザ氏とズマ前大統領の元妻であるドラミニ=ズマ氏との間で党を二分する苛烈な選挙戦が展開されるとともに、その後も両陣営の遺恨状態が続いてきたことを勘案すれば、汚職疑惑を理由に失脚したズマ氏の支持者にとっては格好の攻撃材料となることが予想される。なお、ラマポーザ大統領は調査委員会の報告書に対して異議申し立てを行うとともに、憲法裁判所に対して報告結果を巡る審査を求める対応をみせている。また、ANCは幹部会議を開催し、議会対応を巡って仮に弾劾を求める動きが出た場合は全党で一致して反対する方針を決定した。こうしたなか、16日に議会下院(国民議会)はラマポーザ大統領に対する弾劾の是非を審議する委員会の設置案に関する審議が行われ、反対多数で否決されて弾劾手続きを開始しないことを決定した。しかし、議会下院(400議席)においてANCは240議席と多数派を占めているものの、反対票は214に留まっており、ANCの所属議員の一部は賛成票を投じたほか、多数の棄権票が生じたことが明らかになっている。ラマポーザ大統領自身に対する弾劾手続きは阻止されたものの、議長選についてはANC内でもラマポーザ氏の資質を問う声が少なからずあることが示されたことを勘案すれば、混乱する可能性も考えられる。なお、ラマポーザ氏が議長選において再選を果たした場合、2024年に実施が予定される次期総選挙を経て大統領として3期目入りする可能性が高いと見込まれる。ただし、2019年の前回総選挙においてANCの得票率は1994年の民主化以降で最も低い水準に留まったほか(注2)、昨年実施された統一地方選挙においてはANCの得票率が初めて50%を下回る水準に留まるなど、ANCを取り巻く状況は厳しさを増している(注3)。こうした状況を勘案すれば、仮にラマポーザ氏が議長選に再選を果たした場合においても、こうした『脛に傷を持つ』トップの下でANCを巡る環境が好転するとは見通しにくく、厳しい選挙戦を余儀なくされる可能性は高いと予想される。

同国はコロナ禍に際して度々感染拡大に直面し、その度に行動制限が強化されて実体経済に悪影響が出る事態に見舞われたものの、年明け以降は感染一服を受けて行動制限は緩和されて経済活動の正常化が進むなど『ポストコロナ』に向けた動きが前進している。他方、ウクライナ情勢の悪化による商品高を受けた世界的なインフレの動きは同国においても食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招いており、中銀は昨年末以降断続的な利上げ実施を余儀なくされるなど(注4)、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。さらに、同国は慢性的な電力不足状態が続いているにも拘らず、世界的な石炭価格の上振れを受けて一次エネルギーの大宗を占める石炭が輸出に回ることで電力不足が深刻化しており、計画停電の実施が長期化するなど幅広い経済活動に悪影響が出る状況が続いている。ただし、7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+6.63%と前期(同▲2.91%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じている上、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+4.1%と前期(同+0.2%)から伸びが加速するなど底打ちしている。これは今年4月に同国東部において史上最悪と称される規模の大洪水が発生して様々なインフラに甚大な被害が出るとともに、それに伴い4-6月は3四半期ぶりのマイナス成長に陥る一方(注5)、その影響が一巡したことを受けた反動が出ていることが影響している。これを受けて実質GDPの水準はコロナ禍の影響が及ぶ直前の2020年1-3月を上回るなど、マクロ的にコロナ禍の影響をようやく克服していると捉えられる。なお、産業別のGDPの動きは前期に大きく下振れした農林漁業や鉱業、製造業、建設業など幅広い分野で拡大に転じている一方、公益関連の生産は減少傾向が続いており、これは電力不足が影響していると捉えられる。また、需要項目別ではダーバン港の機能再開を受けて輸出は拡大して景気を押し上げる一方、経済活動の正常化を受けたペントアップ・ディマンドの一巡に加え、物価高と金利高の共存も重なり家計消費は減少に転じており、この動きを反映して輸入に下押し圧力が掛かる動きもみられる。こうした状況を勘案すれば、景気を巡る動向は見た目よりも厳しい状況にあると捉えることが出来る。

図表1
図表1

図表2
図表2

なお、足下の景気を巡っては、物価高と金利高の共存が冷や水を浴びせる懸念があるほか、計画停電の長期化など不透明要因が山積しているものの、経済活動の正常化の動きが進むなかで製造業を中心に雇用拡大の動きが広がるなど改善を促す兆しもみられる。こうした動きを反映して足下の企業マインドは好不況の分かれ目となる水準を上回るなど景気回復に繋がる動きがみられ、外需を中心とする受注動向の改善がけん引役になっている。ただし、先行きについては欧米など主要国においても物価高と金利高の共存を受けてコロナ禍からの回復が続いた流れが変化しつつある上、ゼロコロナ戦略の転換を図る中国経済を巡っても不透明感が残るなど、世界経済はスタグフレーションに陥る懸念はくすぶっている。さらに、今後は2024年の次期総選挙が近付くなど『政治の季節』が意識されるなか、与党ANCに対して強力な影響力を有する労働組合の活動が活発化するなど経済活動を左右する動きが顕在化するほか、賃金引き上げ要求を受けてインフレが上振れすることも予想されるなど、様々な面で景気に影響を与えることも考えられる。ラマポーザ大統領の弾劾手続きが回避されたものの、今後も政局の混乱が懸念されるほか、先行きは景気回復の道筋が描きにくい展開が続くと予想されるなか、通貨ランド相場は引き続き外部環境に揺さぶられる展開が続くであろう。

図表3
図表3

図表4
図表4

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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