インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ブラジル中銀は4会合連続の利下げも、先行きの明言を避ける

~物価上振れリスクの傾斜を警戒、当面はエルニーニョによる電力への影響にも注意~

西濵 徹

要旨
  • ブラジル中銀は8月の定例会合で政策金利(Selic)を25pt引き下げ、14.00%とした。利下げは4会合連続で、2会合連続の全会一致による決定となった。一方、足元のインフレ率は鈍化しているものの、依然として中銀の目標レンジを上回っており、中長期のインフレ期待も高止まりしているなど、中銀は難しい政策運営を迫られている。
  • 声明では、世界経済の不確実性や国内経済の減速を認めつつ、労働市場の逼迫やインフレリスクへの警戒を維持した。また、2028年時点でもインフレ率は目標を上回るとの見通しを示し、政府の景気刺激策が物価上昇圧力を強める可能性を指摘した。今回の利下げの背景には、10月の大統領選を控えた政治的要因も影響したとみられる。ただし、中銀は今後についてはインフレ期待の高止まりや不確実性を踏まえ、慎重な金融政策運営を継続する姿勢を示した。
  • 金融市場では追加利下げ期待が残る一方、財政悪化懸念やレアル安、2026年のスーパーエルニーニョによる食料・電力価格の上昇リスク、米国との関係悪化など、インフレや経済活動を巡る下振れ・上振れ要因が多く、中銀は当面慎重な対応を続けると見込まれる。

ブラジル中央銀行は、8月4~5日の日程で開催した定例の金融政策委員会(COPOM)で政策金利(Selicレート)を25bp引き下げ、14.00%とすることを決定した。中銀による利下げ決定は4会合連続となるほか、2会合連続で全会一致により決定され、Selicレートも2025年3月以来の低水準となる。イラン情勢の悪化による原油高を受け、鈍化基調が続いたインフレ率は2月を境に加速に転じ、中銀の定めるインフレ目標レンジ(3±1.5%)の上限を上回る水準となった。その後は米国とイランの停戦合意による原油高の一服を反映して、6月のインフレ率は前年比+4.64%、コアインフレ率も同+4.60%と伸びは鈍化に転じたものの、ともに目標レンジの上限を上回る(図1)。中銀は伝統的に「タカ派」色が強く、過去にはインフレ率が目標レンジの中央値を上回ると利上げを決定することもあった。しかし、中銀は一段の金融緩和に踏み切るなど、難しい政策運営を迫られていることがうかがえる。

図表
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会合後に公表した声明文では、足元の世界経済について「イラン情勢や一部の先進国の金融政策の不透明感などから、不確実な状況にある」としたうえで、「資産価格や商品価格のボラティリティが高まり、新興国経済には慎重な対応が求められる」との認識を示した。一方で、同国経済については「前回会合以降、経済活動は減速が示唆される」としつつ、「分野ごとに状況はまちまちであり、労働市場はひっ迫している」ものの(図2)、「インフレは着実に減速している」との見方を示した。しかし、2026年のインフレ予想を+5.1%と従来見通し(+5.2%)から下方修正する一方、2027年については+3.8%と従来見通し(+3.7%)から上方修正し、金融政策の対象期間である2028年1-3月時点も+3.2%と目標の中央値(3%)を上回るとの見方を示した。また、物価を巡るリスクについて「上下双方に振れる可能性は通常より高く、上振れリスクに傾いている」との認識を示すとともに、上振れ要因のひとつに引き続き「政府による消費刺激策が金融政策の波及経路を弱めること」を挙げた。

図表
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こうした状況にもかかわらず、中銀が追加利下げを決定した背景には、政治的要因が影響している。同国では10月に大統領選挙(第1回投票)の実施が予定されており、現職のルラ大統領は再選への出馬を表明している(注1)。このため、政府は景気刺激策を講じる方針を示すとともに、金融政策についても利下げ余地に言及するなど、中銀への「圧力」を強めてきた。中銀は今回、追加利下げを決定したものの、先行きについては「長期のインフレ期待が引き続き抑制されておらず、価格設定行動に影響を与え、ディスインフレのコストを高める可能性を注視している」との考えを示した。そのうえで、「不確実性の高さ、インフレ期待のアンカー喪失、シナリオを巡るリスクの高まりを勘案すれば、冷静さと慎重さが求められる」、「インフレ目標への収束を確実にすべく、金融政策を適切に引き締め的な水準に維持できるよう状況の推移を引き続き注視する」と慎重な姿勢を示した。

金融市場では、依然として追加利下げ期待が根強い。その結果、金融市場では、イラン情勢の悪化を受けた原油高が交易条件の改善を通じた景気押し上げにつながるとの期待から、レアル相場は上昇し、主要株式指数(ボベスパ指数)も時価総額上位の資源関連株を中心に上昇して一時最高値を更新した(図3)。しかし、ルラ政権が燃料抑制へ補助金拡充に動いたことで財政政策への懸念に加え、需要喚起による物価への影響が警戒される形でレアル相場は上値が抑えられている。株式市場では、補助金拡充による企業の収益圧迫が懸念され、上値を抑える要因となった。中銀は「継続的なレアル安」をインフレ上振れリスクのひとつに挙げており、その動向が懸念される。さらに、2026年はスーパーエルニーニョが発生しており、ブラジルでは北部・北東部・中西部で降雨不足と熱波が発生するほか、南部では降雨過多となる傾向がある。その結果、農業生産の悪化による食料インフレに加え、電力の約6割を水力発電に依存するなかで電力不足が物価を押し上げるだけでなく、幅広い経済活動にも悪影響を及ぼす懸念もある。米国との関係悪化が経済活動や物価に与える影響にも注意が必要であり、中銀は当面慎重な政策運営を志向すると予想される。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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