- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- メキシコ中銀、2会合連続の金利据え置きも「ややタカ派」色を強める
- World Trends
-
2026.08.07
新興国経済
原油
新興国金融政策
メキシコ経済
為替
トランプ政権
トランプ関税
イラン情勢
メキシコ中銀、2会合連続の金利据え置きも「ややタカ派」色を強める
~ペソ相場は堅調な動きをみせる一方、USMCAを巡る動きには引き続き要注意~
西濵 徹
- 要旨
-
-
メキシコ中銀は8月6日の理事会で、全会一致で政策金利を6.50%に据え置くことを決定した。中銀は6月に続いて2会合連続で金利を据え置いた。イラン情勢悪化による原油高のほか、1月からの最低賃金の引き上げもインフレ要因として警戒された。しかし、原油高の一服や燃料補助金、生鮮食料品価格の下落が重なり、6月のインフレ率は前年比+3.37%と目標レンジ内に収まり、7月前半にかけても伸びは一段と鈍化している。4-6月の実質GDP成長率は持ち直しの動きが確認されたが、これはFIFAワールドカップ2026によるサービス業押し上げが主因であり、先行きについては反動による下押しが見込まれる。
-
声明文では、足元の世界経済を「横ばい」としつつ、イラン情勢の不確実性を指摘。国内経済は持ち直しとしたものの、需給の緩みによる下振れリスクを指摘した。物価面では想定を下回る鈍化を認めつつ、鈍化ペースは従来見通しより緩やかになるとの見方を示し、リスクは「上向きに偏っている」とした。今回の声明は前回6月に比べややタカ派色が強まったものの、短期的なインフレの下振れを踏まえると早期利上げの可能性は低いとみられる。為替市場では、日米協調介入によりペソの対円相場は下落した一方、ドル指数下落を受けペソの対ドルレートは堅調に推移した。タカ派姿勢を受け、先行きのペソ相場は堅調に推移する可能性があるが、USMCAを巡る米通商政策の動向には引き続き注意が必要である。
-
【短期的なインフレ鈍化も、メキシコ中銀は2会合連続で金利据え置き】
メキシコ銀行(中銀)は、8月6日に開催した定例理事会において、政策金利を6.50%に据え置くことを決定した。中銀は、2024年3月にコロナ禍一巡後初の利下げに踏み切り、その後も一時休止を挟みつつ断続的な利下げを実施した。2026年5月まで2年以上にわたって累計475bpの利下げを実施し、金利水準も2022年5月以来の低さとなるなど、金融緩和を段階的に進めてきた。一方、中銀は5月の定例会合において、短期的なインフレの上振れ懸念が高まっていることを理由に利下げサイクルの終了を示唆し、6月の定例会合で利下げを休止したほか、今回も2会合連続で金利を据え置いた。
背景には、イラン情勢の悪化を受けた原油高によるエネルギー価格の上昇がある。メキシコは産油国であるものの、近年は油田の老朽化や設備の不備を理由に産油量はピークの半分に落ち込んでいる。加えて、国内の石油精製施設も不足しており、原油を輸出する一方で石油製品を輸入に依存している。この結果、原油や石油製品、天然ガスの貿易収支はGDP比▲0.5%の赤字と試算されるなど、原油高はマクロ面で景気の足かせとなることが懸念される。また、政府は1月から最低賃金を13%と大幅に引き上げたため、インフレを促すことが懸念された。しかし、原油高の一服や燃料補助金政策の実施に加え、生鮮食料品の価格下落も重なり、直近6月のインフレ率は前年比+3.37%と目標レンジ(3±1%)の範囲内に収まるなど落ち着きを取り戻している(図1)。さらに、7月前半にかけてもインフレの伸びは一段と鈍化している。このため、足元のインフレは想定に比べて下振れしている可能性がある。

一方で、4-6月の実質GDP成長率(速報値)は前年同期比+2.2%と2年ぶりの高い伸びとなっている(図2)。前期比年率ベースの成長率も+6.17%と前期(同▲2.44%)から2四半期ぶりにプラス成長に転じ、コロナ禍直後の2020年10-12月以来の高い伸びとなった。ただし、これは6月から7月にかけて開催されたFIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップ2026により、サービス業の生産が大きく押し上げられたことが影響している。政府は、2026年通年の経済成長率見通しを+1.8~2.8%としたうえで、少なくとも「成長の基盤」と認識する+1.5%を上回ることは確実との見方を示している。とはいえ、先行きの景気には反動による下押し圧力がかかる展開が予想される。

【物価目標の実現時期の後ずれを示唆、タカ派色の強さ確認でペソ相場はどうなる?】
会合後に公表した声明文では、5人の理事による全会一致で決定したことを明らかにした。そのうえで、世界経済について「足元の景気は横ばいでの推移が続いている」とする一方、「イラン情勢を巡る不確実性が残る」との見方を示した。同国経済について「足元で持ち直しの動きが確認された」ものの、「予測期間を通じて需給の緩みが続くと見込まれ、経済活動に大きな下振れリスクがある」との見方を示した。
物価動向については「足元で想定を下回る伸びに鈍化している」とする一方、「より長期のインフレ期待は目標を上回る水準で安定している」とした。「インフレ率、コアインフレ率ともに、予測期間を通じて鈍化が見込まれる」としつつ、「その鈍化ペースは従来見通しに比べて緩やかになる」との見方を示した(図3)。物価の上振れリスクとして「①コアインフレの高止まり、②通商政策や地政学リスクによるインフレ圧力、③異常気象の影響、④コスト上昇圧力、⑤ペソ安」を、下振れリスクに「①景気減速、②コスト転嫁の下振れ、③ペソ高」を挙げるとともに、リスクは「上向きに偏っている」との認識を示した。加えて、「FRB(米連邦準備制度理事会)の政策変更や地政学リスクが不確実性を高めている」とした。

政策決定について「為替レートの影響、需要サイドの圧力がないこと、引き締め度合いを考慮した」として、「現行水準に維持することが適切」とした。先行きについても「現行水準に維持することが適切」とするとともに、「低く安定したインフレ環境を定着させるための取り組みを継続する必要性を強調する」との考えを示した。今回の声明文のトーンは、6月の前回会合時点に比べてややタカ派色の強い内容となったものの、短期的なインフレ見通しが下振れしていることを勘案すれば、早期に利上げなどを行う可能性は低いと見込まれる。
金融市場においては、日本と米国による協調介入の影響で、ペソの対円相場は下振れした(図4)。一方で、ドル指数が下振れしたことによりペソの対ドルレートは堅調な動きをみせており、足元では円に対しても持ち直しの動きを強めている。中銀がややタカ派色の強い姿勢を示したことを受けて、先行きのペソ相場は引き続き堅調な動きをみせる可能性がある。とはいえ、米国の通商政策に翻弄される可能性は残り、なかでもUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)を巡る動きがペソ相場に影響を与えるリスクには引き続き注意が必要である。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
中国・7月輸出入はハイテク関連がけん引役となる展開(Asia Weekly) ~米国向け輸出は関税発動を前にした駆け込みも重なり、持ち直しの動きが続く~
アジア経済
西濵 徹
-
フィリピン、2026年も経済成長率目標の達成は極めて困難か ~景気低迷とスキャンダルで政権の死に体化は必至、ペソ相場も低迷が続く可能性~
アジア経済
西濵 徹
-
ブラジル中銀は4会合連続の利下げも、先行きの明言を避ける ~物価上振れリスクの傾斜を警戒、当面はエルニーニョによる電力への影響にも注意~
新興国経済
西濵 徹
-
インドネシア、金融市場は堅調な景気の背後にある政策リスクを警戒 ~政府・中銀は成長重視姿勢維持も、金融市場は「格下げ」を警戒する対照的な状況~
アジア経済
西濵 徹
-
インド中銀は様子見姿勢維持、予防的利上げに慎重で「データ」確認へ ~為替安定化策で「時間稼ぎ」により景気に配慮も、「金融政策の遅れ」に陥るリスクも~
アジア経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
ブラジル中銀は4会合連続の利下げも、先行きの明言を避ける ~物価上振れリスクの傾斜を警戒、当面はエルニーニョによる電力への影響にも注意~
新興国経済
西濵 徹
-
米国とブラジルの緊張高まる、大統領選へ米国が圧力を強める動きも ~ルラ氏優位のなか、トランプ政権の介入懸念も重なり、米国とブラジルの対立が激化~
新興国経済
西濵 徹
-
OPEC有志7ヵ国、9月の増産合意で自主減産の解除完了へ ~今後は協調減産の行方に注目も、結束維持と価格安定の間で難しい舵取りが続く~
新興国経済
西濵 徹
-
米国の攻撃停止でトランプ氏の思惑通りイラン情勢は平常化するか ~ホルムズ海峡を巡る米国とイランの対立に加え、フーシ派が新たなリスク要因に~
新興国経済
西濵 徹
-
ロシア中銀が事前予想に反して利下げ、政府と市場の板挟みが続く ~ウクライナ戦争も見通せないうえ、エネルギーや食料品などのインフレ懸念は高まる~
新興国経済
西濵 徹

