インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

フィリピン中銀、物価・為替安定を優先で3会合連続の利上げ

~インフレ高止まりとペソ安への警戒続く一方、景気減速が追加利上げのハードルに~

西濵 徹

要旨
  • フィリピン中央銀行は8月27日の金融政策委員会で、政策金利を25bp引き上げ5.00%とし、3会合連続の利上げを決定した。イラン情勢の悪化を受けた原油などエネルギー価格の上昇によりインフレ率は中銀の目標レンジ(2~4%)を大きく上回っており、7月も前年比+6.2%と高止まりしている。加えて、世界的に米ドル安・新興国通貨高が進むなかでもペソ相場は最安値圏で推移しており、輸入インフレへの懸念が続いている。さらに、スーパーエルニーニョによる農業生産への悪影響や農産品輸入の増加を通じた対外収支悪化への懸念もあり、中銀は物価と為替の安定を図るべく金融引き締めを強化した。

  • 中銀は、原油高の一服でインフレ率は鈍化しているものの、エルニーニョや賃金上昇、価格転嫁による二次的影響など上振れリスクは依然大きいと判断している。2026、27年のインフレ率は4%を上回ると見込む一方、2028年には3%近傍へ低下すると予想しており、段階的な利上げによってインフレ期待の安定を図る考えを示した。また、声明文から追加利上げに慎重な姿勢を示す文言を削除するなど、過去2会合に比べて「タカ派」色を強めることで、ペソ安への対応姿勢も鮮明にした。

  • 一方、レモロナ総裁は今回の利上げを「先手を打った措置」と位置付け、追加利上げは必要ないとの期待を示しつつも、必要に応じて追加引き締めを実施する余地を残した。景気は2026年上半期に鈍化し、利上げも先行きの景気の重石となることが予想されるため、追加利上げのハードルは高まっている。物価上振れリスクと景気下支えの両立を迫られるなか、中銀の政策運営は一段と難しさを増すとみられる。

目次

【インフレの高止まりとペソ安が続くなか、中銀は3会合連続の利上げ】

フィリピン中央銀行は、8月27日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利である翌日物リバースレポ金利を25bp引き上げ、5.00%とすることを決定した。同行は、4月の定例会合で約2年半ぶりの利上げに舵を切るとともに、6月の定例会合でも利上げを実施しており、今回で3会合連続の利上げとなる。これにより、政策金利は2025年9月以来の水準となる。

イラン情勢の悪化をきっかけとする原油・石油製品の供給懸念を受けて、同国政府は3月に「国家エネルギー非常事態」宣言を発令した。同国はエネルギー需要の9割以上を湾岸産油国からの輸入に依存しているうえ、原油備蓄も小規模にとどまるため、需給が急速にひっ迫した。イラン情勢は依然として不透明な展開が続いているものの、その後は中東以外の産油国などからの輸入を拡大させており、供給懸念は後退している。一方で、原油をはじめとするエネルギー資源価格の上昇を反映して、3月のインフレ率は2年半ぶりに中銀の目標レンジ(2~4%)を上回る伸びに加速し、その後の中銀による利上げ実施を後押しした。足元では原油高の動きに一服感が出ており、直近7月のインフレ率は前年比+6.2%に鈍化しているものの、目標レンジを上回る伸びで推移している(図1)。

図表1
図表1

このところの金融市場では、日本と米国による協調介入に加え、米国によるバイバック(長期国債の買い入れ消却)の倍増表明を受け、その後の米ドル指数が軟調な動きをみせている。その結果、MSCI新興国通貨指数が最高値を更新するなど、多くの新興国通貨が強含みする動きが確認されている。しかし、同国の通貨ペソ相場は下落して最安値圏で推移しており、輸入インフレが懸念されている(図2)。背景には、イラン情勢が依然不透明感が残るなかで原油などエネルギー価格が高止まりしていることがある。さらに、スーパーエルニーニョの発生により、アジアでは高温、少雨・干ばつによる農業生産への悪影響が懸念されており、同国は主食のコメをはじめ農産品の多くを輸入するなかで対外収支の悪化を招く懸念もある。このように、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が脆弱さを増すとの懸念もペソ相場の重石となっており、中銀は物価と為替の安定を図るべく一段の金融引き締めに舵を切った。

図表2
図表2

【景気は力強さを欠くなかで中銀は追加利上げに消極的か、難しい政策対応が続く】

会合後に公表した声明文では、足元の物価動向について「原油価格は依然動きが激しい状況が続いているものの、インフレ率は鈍化している」一方、「深刻なエルニーニョ現象が農作物価格に影響を与える可能性があり、インフレ率のさらなる上振れリスクになっている」との認識を示した。また、「賃金調整の可能性も注視する必要がある」ほか、「より幅広い分野での価格設定行動への影響や二次的な影響にも注意を払う必要がある」との見方を示した。そのため、今回の決定について「こうした物価へのリスクに対応するため、先手を打った金融政策の対応が求められる」とした。

今回の利上げ決定を踏まえたとしても「2026年および2027年のインフレ率は4%を上回る」との見通しを示した。一方で、コアインフレ率に関する最新の推計について「物価上昇圧力が広範に及んでいることを示している」としつつ、「インフレ率は2028年までに3%の目標の中央値近傍に落ち着きを取り戻す」との見方を示した。そして、「段階的な利上げはインフレ期待を安定させるとともに、二次的影響が生じるリスクを軽減させる」とした。景気動向について「2026年上半期は鈍化したものの、中期的な成長の基盤は維持されている」としたうえで、先行きについては「財政措置による下支えも追い風に、下半期には加速が見込まれる」との見通しを示した。

先行きの政策運営については「物価安定という主要任務に基づいて、インフレ率を3%に戻すべくあらゆる措置を講じる用意がある」と4月および6月会合と同じ主張を繰り返しており、追加利上げに含みを持たせる考えを示した。一方で、過去2回は「引き続き入手可能なデータに基づいて判断する」と追加利上げに慎重な姿勢を示していたものの、今回はそうした文言を削除しており、物価安定に主眼を置いた政策運営を強調したものと考えられる。これは、中銀が過去にペソ安容認とも取れる姿勢をみせたことで、足元においてもペソ安に歯止めがかからない一因になっているとの認識があるとみられ、「タカ派」に舵を切ったと捉えられる。

会合後の記者会見に臨んだレモロナ総裁は、物価見通しについて「2026年は+6.1%となるが、10-12月を境にピークアウトして2027年は+5.4%、2028年は+3.3%に鈍化する」との見通しを示した。そして、今回の利上げ決定は「先手を打ったもの」との認識を示すとともに、先行きの政策運営について「追加利上げは必要ないと期待している」との見方をにじませた。一方で、「政策余地はある」、「インフレ率を目標に回帰させるべく必要に応じて引き締めを実施する」と追加利上げに含みを持たせる考えを示した。景気動向について「2027年には多かれ少なかれ回復が見込まれる」としつつ、「利上げは景気の追い風となることはない」として、景気回復は緩やかなものにとどまるとの認識を示した。足元の同国経済は力強さを欠いており(注1)、中銀にとって追加利上げのハードルは高まっているものの、先行きの物価上昇に繋がる材料が山積するなかで政策運営は一段と難しさを増す展開が続くと予想される。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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