インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

米国がイランへの制裁強化発表も、事態打開の見通しは立たず

~米国は二次制裁の拡大を発表、イランも徹底抗戦の構え、事態のさらなる長期化も~

西濵 徹

要旨
  • 米国とイスラエルによる対イラン軍事作戦の開始からまもなく半年が経過するが、事態収束の見通しは立っていない。両国は核・ミサイル開発能力の破壊を目的に軍事作戦を実施し、ハメネイ師ら要人殺害など一定の成果を上げたものの、その後はイランによる報復攻撃やホルムズ海峡封鎖、米国の逆封鎖など攻撃の応酬が続いた。6月17日には14項目の「覚書」により60日間の停戦・追加協議が合意されたが、ホルムズ海峡管理を巡る認識の相違やフーシ派を通じた緊張拡大により、事態収拾は進まなかった。覚書はイラン側の主張が反映されたとの見方が強く、イランは賠償や制裁全面解除など6項目の新条件を提示。米国も対抗し協議は平行線をたどり、8月16日に協議期間は終了した。
  • トランプ大統領は「経済版Dデー」としてイランへの経済圧力強化を表明。これを受けて、ベッセント財務長官は8月24日、デジタル資産・海運・航空・金・技術の5分野を新たに対象とする二次制裁を発表し、核・ミサイル技術やサイバー攻撃関与を理由に約60の個人・団体・船舶を制裁指定した。ただし、即時発動は見送られており、現時点ではその効果は不透明である。イラン産原油輸出の約9割を占める中国の金融機関は制裁対象から除外されており、これは9月24日の米中首脳会談やレアアース輸出・対中関税を巡る交渉への配慮とみられる。一方で、イラン側も徹底抗戦の姿勢を崩しておらず、パキスタンの仲介による協議進展が伝えられるものの、依然として見通しは立たない状況にある。
  • オバマ政権期のイラン核合意による経済制裁解除の経緯を経て、トランプ第1次政権は2018年に合意離脱・制裁再開に踏み切った。第2次政権下でも制裁強化を続ける中、イスラエルとの軍事作戦で局面打開を狙ったとみられるが、開始から半年を経ても当初目的の達成にはほど遠く、今回の制裁強化戦略も奏功していない。事態のこう着長期化の可能性が高まっており、世界経済・金融市場は引き続きイラン情勢に翻弄される展開が続くとみられる。
目次

【イラン情勢の悪化からまもなく半年、事態収束の見通しは依然みえず】

米国とイスラエルが合同でイランに対する軍事作戦を開始してからまもなく半年が経過しようとしている。軍事作戦に踏み切った理由に、イスラエルは自国への脅威の除去を挙げた。米国もイランによる差し迫った脅威の排除により米国民を守ることと説明した。さらに、イランによる差し迫った脅威として、核開発計画の再構築、米国などを脅かす長距離ミサイルの開発を挙げ、核兵器とミサイル、関連産業の完全な破壊を目指したと説明した。両国による攻撃では、最高指導者であったハメネイ師のほか、多数の体制要人を殺害するなど一定の成果を上げた。

しかし、その後はイランが中東の米軍基地や関連施設、米国と関係が深い国々への報復攻撃のほか、ホルムズ海峡の事実上の封鎖に動いた。米国もホルムズ海峡の逆封鎖に動くとともに、イランに対して報復攻撃を実施するなど、双方による攻撃の応酬が続いた。その背後では、パキスタンなど仲介国の介入を通じて米国とイランは水面下での協議を実施するなど、事態のさらなるエスカレートの回避を模索する動きがみられた。そして、両国は6月17日に停戦合意に向けた14項目の「覚書」に署名し、60日間の停戦期間を設けて追加協議を行うことで合意した。とはいえ、覚書の内容を巡っては、両国の主張に数多くの相違点があったことから、協議の行方は見通せない状況にあった。

事実、ホルムズ海峡の管理を巡る双方の認識の違いは、停戦合意後も度々双方による攻撃を引き起こすなど、事態収拾が見通せない状況を招いた。さらに、イランはイエメンの親イラン勢力(フーシ派)を通じ、バブ・エル・マンデブ海峡の封鎖を警告するなど、事態が中東全体に広がる懸念も高まった。その後、フーシ派はサウジアラビアに海上封鎖を宣言し、サウジが主導する有志連合が船舶への脅威に武力で対応する方針を示したことで戦火が拡大した。

覚書の内容を巡っては、おおむねイラン側の主張が反映されていたとみられ、米国が早期の事態妥結を狙って「譲歩」を迫られたとの見方が広がりをみせた。その後も両国の協議が進展する兆しがみられず、イランは米国に対して6項目からなる新たな条件を提示した。具体的には、①戦争に伴う損害の完全な補償(賠償金の支払い)、②イランに対する経済制裁の全面解除、③凍結されたイラン資産の無条件解放、④米軍によるイラン周辺地域や港湾封鎖の撤収・解除、⑤イランに対する侵略・攻撃・暗殺の完全停止、⑥ホルムズ海峡におけるイランの主権行使の容認、とされる。これに対して、米国も対抗する構えをみせたことで協議は平行線をたどり、8月16日に60日間の協議期間は終了した(注1)。

【米国は5分野を対象とする二次制裁強化を発表、イランも徹底抗戦の構え】

その後、トランプ米大統領はイランに対する経済的圧力を強化する「経済版Dデー」に動く方針を明らかにした。そして、米国のベッセント財務長官は8月24日、その一環として、イランとビジネス関係を持つ国々に関係断絶を警告し、応じなければ二次制裁の対象にすると表明した。デジタル資産、海運、航空、金、技術の5分野を新たな対象に追加し、米財務省は、イランに関連する核・ミサイル技術、サイバー攻撃への関与を理由に、約60の個人・団体・船舶を新たに制裁対象に指定した。そして、今回の措置を「経済的追放作戦」と命名し、イランの金融網に対して経済的な猛攻を仕掛けるとした。ただし、即時発動には踏み切らず、その理由について、ベッセント氏は「世界の金融システムを吹き飛ばしたい訳ではない。基準を示したうえで猶予期間を設けることが重要と考える」とした。このため、今回の制裁拡大の動きが局面打開につながるかは不透明である。

この背景には、中国との関係も影響した可能性がある。今回の制裁強化の対象には、中国の金融機関が含まれていない。米国による経済制裁を理由に多くの国がイラン産原油の輸入を中止するなか、イランの原油輸出の約9割が中国向けとされ、産油量の半分が中国向け輸出に割り当てられているとされる。このため、中国はイラン産原油の最大の輸入国となっており、中国の金融機関はイランの原油取引を助長したと考えられる。にもかかわらず、今回の制裁強化では中国の金融機関は対象外とされた。これは、9月24日に米中首脳会談の開催が予定されるなか、仮に中国の金融機関を制裁対象に加えれば、2025年11月に合意した中国産レアアース(希土類)の輸出継続と米国の対中関税抑制策の延長交渉に悪影響を与えることを考慮したと考えられる。この点について、ベッセント氏はいかなる国も制裁の射程外ではないとしたうえで、「イラン産原油を賃金や弾圧に転換するエコシステムの一部として取引を仲介すれば標的となる」と述べた。

一方で、イラン側も「米国の制裁に対して万全の準備を行っているうえ、独自の手段があり、勝負の仕方も心得ている、我々の防衛はもはや防御にとどまらず、敵は攻撃を覚悟すべき(マダニザデ経済財務相)」と表明するなど、徹底抗戦する構えをみせる。革命防衛隊の報道官も、イランのインフラが脅威に晒されれば、米国の重要な権益やエネルギーの要衝に大打撃を与えると警告するなど、報復も辞さない考えを示す。その背後では、仲介役となってきたパキスタンが、イランと「覚書」の復活に関する協議を行い、大きな進展があったと評価することを明らかにしているものの、見通しが立ちにくい状況は変わっていない。

【世界経済や金融市場はイラン情勢に翻弄される展開が続くか】

米国とイランの関係を巡っては、オバマ政権の下でイラン核合意が締結された。この合意の下、イランは、濃縮度3.67%以下、低濃縮UF6の貯蔵量300kg以下、ナタンズの濃縮用遠心分離機5,060基以下とするなど、IAEA(国際原子力機関)による通常の保障措置より厳格な検証・制限を受け入れた。このため、米国や欧州などは、イランによる義務履行の見返りとしてイランに対する経済制裁を解除した。しかし、トランプ第1次政権の下で米国は2018年に核合意からの離脱を一方的に表明し、イラン産原油の全面禁輸をはじめとする経済制裁を再開させるとともに、イランへの圧力を強めた。

そして、トランプ第2次政権の下でも、米国はイランに対する経済制裁を段階的に強化する動きをみせてきた。しかし、事態打開の見通しが立たないなか、イスラエルとの軍事作戦により局面打開を図ろうとしたと考えられる。とはいえ、軍事作戦の開始から半年が経とうとしているにもかかわらず、当初の目的(核開発施設の破壊、核燃料の奪取、テロ支援能力の排除)達成にはほど遠い状況が続いている。こうしたなかで、米国は経済制裁の強化に動いた格好であるものの、結果的に、米国の戦略は奏功しなかったと評価せざるを得ない。今回の制裁強化も成果が見通せず、こう着した状況が一段と長期化する可能性も高まっている。このため、世界経済や金融市場は引き続きイラン情勢の行方に翻弄される展開が続くとみられる。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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