インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インドネシアルピアに新たな懸念、中銀への政治圧力が強まるか

~中銀の独立性が一段と毀損される可能性、ルピア安に歯止めがかかりにくい展開も~

西濵 徹

要旨
  • プラボウォ政権の拡張的な財政運営と中央銀行の独立性低下への懸念を背景に、ルピア相場の下落が続いている。政権は2029年までに経済成長率8%達成を目標に掲げ、学校給食無償化など大規模な歳出拡大策を推進してきた。しかし歳入減と重なり、2025年の財政赤字はGDP比▲2.92%とコロナ禍を除けば約20年ぶりの水準に悪化した。原油高に伴う燃料補助金の膨張や輸出規制強化も、財政・対外収支の悪化懸念に拍車をかけている。

  • 加えて議会は、中銀の使命に「経済成長・雇用支援」を追加し、議会が中銀などに拘束力ある勧告を行える権限を盛り込んだ法改正を可決した。中銀への政治介入がより容易となり、独立性の一段の低下が懸念される。さらに、政権肝いりの学校給食事業をめぐる汚職逮捕者も出るなど政権基盤の不安定化も表面化している。中銀は5月の定例会合で大幅利上げに踏み切ったものの、制度・政治両面からの圧力が強まるなか、先行きのルピア相場はさらなる下落リスクが高い状況にある。

インドネシア金融市場では、プラボウォ政権による拡張的な財政運営を警戒して、ルピア相場は調整が続いてきた。年明け以降は、中銀副総裁にプラボウォ大統領の甥であるトマス・ジワンドノ元財務副大臣が就任したことで、その独立性への懸念が高まったことも、ルピア相場の調整を加速させた。なお、中銀を巡ってはここ数年、独立性の毀損につながる動きがたびたび顕在化してきた。そのうえ、政権与党(グリンドラ党)の財務担当を務めるトマス氏が副総裁に就任したことを受けて、中銀の政策運営が景気下支えに一段とコミットせざるを得なくなるとの懸念が高まった。

背景には、プラボウォ大統領が自身の任期が満了する2029年までに経済成長率を8%に引き上げるという目標を掲げていることがある。同国の経済成長率はここ数年5%程度で推移しており、その実現には成長率を3pt押し上げる必要がある。そのため、プラボウォ政権は公約に掲げた学校給食無償化のほか、公務員給与の引き上げ、低所得者向け現金給付と住宅建設、無償での健康診断の実施や病院増設・学校改築など歳出の増大につながる施策に動いた。しかし、歳出が増大する一方で歳入は減少した結果、2025年の財政赤字はGDP比▲2.92%と法定上限(同▲3%)に近付き、コロナ禍を除けば約20年ぶりの赤字幅となるなど財政状況は急速に悪化している。

中東情勢の緊迫化により原油などエネルギー資源価格は高止まりしているものの、プラボウォ政権は国民生活への影響を懸念し、補助金を通じてガソリンなど燃料価格の上昇を抑えている。今年度予算における想定原油価格は1バレル=70ドルであり、足元の原油価格はこの水準を大幅に上回るなかで補助金は膨張しており、財政状況のさらなる悪化を招く懸念が高まっている。政府はパーム油をはじめとする主要一次産品の輸出への統制を強化する方針を明らかにしたものの、金融市場においてはかえって対外収支の悪化を招くとの懸念が強まり、ルピア安に歯止めがかからない事態につながっている(図1)。

図表
図表

さらに、インドネシアルピアの下落を加速させる懸念が高まっている。インドネシア議会は4日、金融システムの監督・規制を規定する金融部門発展強化法(P2SK法)の改正案を可決した。今回の改正では、中銀が担う使命に「経済成長と雇用創出の支援」が加えられるとともに、議会に、対して独立した金融規制当局(金融サービス庁(OJK))や中銀に対して拘束力を持つ勧告を行う権限を付与する内容が盛り込まれた。これは、中銀への政治介入がこれまで以上に容易になることを意味する。さらに、中銀の理事会メンバーを解任するための新たな仕組みも盛り込まれた模様であるものの、現時点においてはその詳細は明らかになっていない。この改正について、プルバヤ財務相は中銀の独立性を維持するとの考えを示しているものの、経済成長を志向する政治的圧力が制度化されることにより、中銀の独立性がこれまで以上に危ぶまれる。

折しも検察は3日、プラボウォ政権の肝いり政策である学校給食無償化事業を担う国家栄養庁の前長官と前副長官2人の計3人を事業に関連する汚職容疑で逮捕するなど、政権の足元を揺るがす懸念も高まっている(注1)。足元のルピア相場は最安値を更新する展開が続いているが(図1)、先行きも一段と調整の動きをみせる可能性は高まっている。中銀は5月の定例会合でルピア相場の安定を目的に大幅利上げに動いたものの(注2)、前述した法改正の影響も懸念されるなかで難しい対応を迫られるであろう。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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