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2022.09.01
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インド、4-6月は前年比+13.5%と堅調が続くも、国内外に課題山積
~世界経済の減速懸念、物価高と金利高の共存にルピー安懸念、政策余地は狭まる難局に直面も~
西濵 徹
- 要旨
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- 一昨年来のコロナ禍に際してインドは度々感染拡大に見舞われたが、足下の感染動向は落ち着いており、行動制限の緩和により経済活動の正常化が進んでいる。他方、幅広い商品市況の上振れが世界的にインフレを招くなかでインドのインフレ率も上振れしており、中銀は5月以降断続的な利上げを迫られている。ルピー安懸念もくすぶるなか、先行きのインドは物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念がある。
- コロナ禍の収束が進んでいることも追い風に、4-6月の実質GDP成長率は前年比+13.5%に加速。当研究所が試算した季調値ベースの前期比年率ベースの成長率も二桁成長となるなど底入れが進む。外需の堅調さに加え、行動制限緩和によるペントアップ・ディマンドの発現が家計消費など内需を押し上げる好循環が続く。また、すべての分野で生産拡大が確認されている上、季調値ベースの実質GDPはコロナ禍前を大きく上回ると試算されるなど、足下のインド経済はコロナ禍の影響を完全に克服したと捉えられる。
- 先行きは世界経済を巡る不透明感が高まるなど、外需をけん引役にした景気底入れは難しくなっている。他方、物価高と金利高が共存するなか、金融市場では米FRBなどのタカ派傾斜を受けたルピー安圧力がくすぶる上、過去数年の財政悪化も重なり政策的な対応余地は狭まっている。当研究所が先月、今年度の経済成長率見通しを+7.1%としたが、現時点では先行きに対する不透明感の高まりを理由にこれを据え置く。
一昨年来のコロナ禍を巡って、インドは度々世界的な感染拡大の中心地となるとともに、その度に感染対策を目的とする行動制限が景気に冷や水を浴びせる事態に直面してきた。年明け以降も感染力の強い変異株による感染再拡大の動きが同様の事態に発展することが懸念されたものの、ワクチン接種が進んだことに加え、過去の感染拡大を通じて集団免疫の獲得が期待されたことも重なり、政府は経済活動の正常化を優先する『ウィズ・コロナ』戦略を維持した。また、年明け以降の感染動向は過去の波に匹敵する水準となるなど急拡大したものの、1月末には早くも頭打ちに転じたほか、感染力の強さに対して重症化率が低いことに加え、同国の平均年齢の低さも理由に死亡者数の拡大ペースは緩やかに留まるなど深刻化は避けられた。こうしたことから、年明け以降の感染再拡大にも拘らず企業マインドの下振れは過去の感染拡大時点と比べて小幅に留まるなど、実体経済に対する影響は限定的であったと捉えられるとともに、その後の感染動向の改善を受けて企業マインドは再び底入れするなど、比較的早期に影響は収束したとみられる。他方、昨年以降の世界経済の回復を追い風に原油や石炭などエネルギー資源価格の底入れが進んできたほか、年明け以降はウクライナ情勢の悪化による供給不安も重なり、幅広い商品市況が上振れするなど世界的にインフレが顕在化する動きがみられる。インドは国内の原油消費量の約7割を輸入に依存している上、昨年後半には石炭の国際価格の急騰を理由とする需給ひっ迫を理由に電力不足が発生して計画停電が実施される事態に直面したものの(注1)、幅広い商品市況の上振れを受けてインフレ率は中銀(インド準備銀行)の定めるインフレ目標を上回る水準に加速している。インドでは他の新興国及び地域に対してインフレ率が比較的低水準で推移してきたため、中銀は金融緩和を維持して景気下支えを図ってきたものの、インフレ昂進を理由に5月に緊急利上げに舵を切るとともに(注2)、その後も6月(注3)及び8月(注4)の定例会合で追加利上げに動くなど一転金融引き締めの動きを強めてきた。足下ではインフレ率が頭打ちする兆候がうかがえるものの、世界的なインフレが続くなかで物価抑制を目的に米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀はタカ派傾斜を強める姿勢をみせており(注5)、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国を中心に資金流出に見舞われる可能性が高まっている。インドは慢性的に財政赤字と経常赤字の『双子の赤字』を抱える上、インフレも顕在化するなど経済のファンダメンタルズは脆弱ななか、7月半ばに通貨ルピー相場は一時過去最安値を更新したほか、足下でも再び最安値をうかがう水準で推移するなど、輸入物価を通じてインフレが一段と昂進する懸念がくすぶる。インドでは家計消費など内需が経済成長のけん引役となるなか、物価高と金利高の共存は景気に冷や水を浴びせる懸念がくすぶる。


このように、足下のインド経済を巡ってはコロナ禍による悪影響は大きく後退している一方、物価高と金利高の共存が経済成長のけん引役である家計消費など内需の足かせとなることが懸念されるものの、4-6月の実質GDP成長率は前年同期比+13.5%と前期(同+4.1%)から大きく加速して4四半期ぶりの二桁成長となるなど大きく底入れしている。なお、前年同期比の伸びが加速した背景には、前年の4-6月が感染再拡大を受けた行動制限の影響で景気に下押し圧力が掛かった反動が影響していることに留意する必要がある。しかし、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率も4四半期連続のプラス成長で推移している上、3四半期ぶりとなる二桁%に拡大していると試算されるなど、足下の景気は底入れの動きを強めている。また、インドは他のアジア諸国などと比較してコロナ禍の影響が遅れて到来したとみられるが、足下の実質GDPの水準はコロナ禍の影響が及ぶ直前の2020年1-3月と比較して+11.4%上回ると試算されるなど、マクロ的にもコロナ禍の影響を克服していると捉えられる。中国の『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥による景気減速やサプライチェーンの混乱による悪影響が懸念されたものの、欧米など主要国経済の堅調さや商品市況の上振れに伴う中東やアフリカなど新興国景気の底堅さも追い風に、輸出は拡大の動きを強めるなど外需が景気の底入れを促している。さらに、感染一服による行動制限の解除に加え、感染動向の改善を受けたペントアップ・ディマンドの発現も追い風に家計消費は拡大の動きを強めている。加えて内・外需の回復期待を追い風に企業部門による設備投資需要も堅調に推移するなど、景気回復に向けた好循環が進んでいる。他方、供給サイドの統計である実質GVA(総付加価値)成長率も4-6月は前年同期比+12.7%と前期(同+3.9%)から加速して4四半期ぶりの二桁成長となるなど大きく底入れしている。当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率も4四半期連続のプラス成長となっている上、ペースも加速して2四半期連続の二桁成長で推移しており、実質GVAの水準もコロナ禍の影響が及ぶ直前の2020年1-3月と比較して+12.4%上回ると試算される。農林漁業関連の生産は力強さを欠く一方、商品市況の上振れを受けて鉱業部門の生産は拡大の動きを強めているほか、内・外需の堅調さを反映して製造業の生産も底堅く推移している。また、家計消費など内需の底入れを受けてサービス業の生産も堅調な推移をみせている上、設備投資をはじめとする建設需要の旺盛さを反映して建設業の生産も押し上げられるなど、すべての分野で生産拡大の動きが続くなどコロナ禍の影響克服も追い風に景気の底入れが進んでいる。


ただし、先行きについては世界経済を巡る不透明感の高まりが外需の足かせとなることが懸念されるなど、コロナ禍からの景気回復の一助となってきた外需に下押し圧力が掛かる可能性が高まっている。他方、足下の家計消費は感染一服を受けた行動制限の解除によるペントアップ・ディマンドの発現がけん引役となっているものの、今後はこの動きの一巡が見込まれる一方、物価高と金利高の共存は実質購買力の下押し圧力となることが懸念される。さらに、国際金融市場においては米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜を理由とするルピー安圧力がくすぶるなど、輸入物価を通じたインフレの一段の昂進が懸念される展開が続いている。なお、インドの外貨準備高はIMF(国際通貨基金)が示す国際金融市場の動揺への耐性の有無の基準である適正水準評価(ARA:Assessing Reserve Adequacy)に照らせば、依然として『適正水準』を大きく上回るなど外貨不足に陥るリスクは極めて低いと捉えられる。ただし、足下の国際金融市場におけるルピー安圧力の高まりを受けて中銀は巨額の為替介入に追い込まれている可能性があり、その動きを反映して昨年末以降の外貨準備高は減少の動きを強めるなど、その耐性は着実に蝕まれている。一方、国内・外で景気に対する不透明感が高まることが懸念されるものの、物価高や為替安への懸念から金融緩和に動くことは難しくなっており、コロナ禍対応を目的とする歳出拡大を受けて過去数年の財政状況は悪化したこともあり、先行きの政策余地は狭まることも懸念される。当研究所は先月、定例の経済見通しの改訂に合わせてインドの今年度(2022-23年度)の経済成長率を+7.1%とする見通しを示したものの(注6)、足下の景気が想定より堅調であることが確認される一方、先行きに対する不透明感が高まっていることを受けて、現時点においてはこれを据え置く。

注1 2021年10月8日付レポート「変異株の次は電力不足、インドに次から次へと受難が降りかかる」
注2 5月6日付レポート「インド中銀、インフレ懸念に対応して緊急利上げを決定」
注3 6月8日付レポート「インド中銀、物価及び為替の懸念が高まるなかで追加利上げを決定」
注4 8月5日付レポート「インド中銀、物価及び為替の安定へ一段の「金融緩和の解除」」
注5 8月30日付レポート「FRBパウエル議長の言う「何らかの痛み」は新興国にどう影響する?」
注6 8月19日付レポート「グローバル(日米欧亜)経済見通し(2022年8月)」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

