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2022.04.12
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ウクライナ問題を機に新興国で広がる「シン・アラブの春」の懸念
~生活必需品を中心とするインフレ、金融市場環境の厳しさも政治情勢の混乱を招くリスクに~
西濵 徹
- 要旨
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- 昨年来の世界経済は主要国を中心に回復が進むが、主要産油国は協調減産の小幅縮小を維持したため、国際商品市況は底入れの動きを強めてきた。これを受けて、主要国中銀は正常化を進めるなど新興国にとっては資金流出に繋がりやすい環境にある。こうしたなか、ウクライナ情勢の悪化は原油などエネルギー資源に加え、穀物輸出の減少を招いており、生活必需品を中心とするインフレに繋がっている。こうした動きは景気回復の途上の新興国にとり経済のファンダメンタルズの悪化を招く上、景気に悪影響を与えやすい。穀物価格の急騰はいわゆる「アラブの春」の遠因になったなか、すでに一部の新興国で反政府デモが活発化する動きもみられる。国際金融市場では主要国中銀がタカ派姿勢への傾斜を強めるなど新興国を取り巻く状況は厳しさを増す懸念があるなか、ウクライナ問題を機に政治不安が顕在化する可能性は高まっている。
昨年来の世界経済を巡っては、欧米など主要国のみならず、新興国においてもワクチン接種が進展するとともに経済活動の正常化を図る動きが広がりをみせており、コロナ禍からの回復の動きを強める展開が続いてきた。一方、一昨年来のコロナ禍による世界経済の減速を受けて国際原油価格は大きく調整したため、主要産油国の集まりであるOPECプラスは過去最大の協調減産に動いたものの、昨年以降は世界経済の回復が進んでいることを理由に協調減産を段階的に縮小させてきた。しかし、OPECプラスによる協調減産の縮小は小幅なものに留められる一方、世界経済の回復を追い風にした需要底入れにより世界的な需給ひっ迫が意識されたため、国際原油価格は底入れの動きを強めてきた。国際原油価格の上昇の動きは全世界的にインフレを招くなか、欧米をはじめとする主要国では経済活動の正常化の進展も追い風にインフレ圧力が強まっている。一昨年以降のコロナ禍後の国際金融市場を巡っては、全世界的な金融緩和を追い風にそれまで以上に『カネ余り』の様相を強めてきたものの、インフレの昂進を理由に金融緩和を先導した米FRB(連邦準備制度理事会)をはじめとする主要国中銀は正常化の動きを進めており、カネ余りの手仕舞いが意識されている。結果、全世界的にカネ余りの様相が強まったことや主要国を中心とする金利低下も追い風に、一部のマネーはより高い収益を求めて新興国に回帰する動きがみられたものの、そうした流れは大きく変化することが避けられなくなっている。こうした動きに伴う新興国における通貨安の動きは、上述のように国際原油価格の上昇の動きと相俟って輸入インフレを招くことが懸念されており、新興国のなかには主要国に先立つ形で金融政策の正常化を進める動きもみられた。新興国を巡っては、経済構造面で相対的に輸出依存度が高いため、主要国を中心とする世界経済の回復の動きは外需の回復を促すものの、金融政策の正常化を進めている新興国では物価高と金利高の共存が家計消費など内需の足かせとなるなど、景気に冷や水を浴びせることが懸念された。こうしたなか、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて欧米諸国などがロシアに対する経済制裁を強化するなど、ロシアを世界経済から切り離す動きをみせており、その後の国際金融市場においてはロシア産の原油及び天然ガスのほか、石炭の供給が細ることを警戒して国際価格は上振れしている。さらに、ウクライナ情勢の悪化を受けて、ロシア及びウクライナは小麦や大麦、トウモロコシなど主要穀物の一大生産地であり、両国を併せると世界の穀物輸出の3分の1を占めるなかで供給が細ることが警戒されている。上述のように足下の世界経済は主要国を中心に回復の動きが続いているものの、コロナ禍からの回復が進んでいるにも拘らず、世界的な人の移動は回復途上の展開が続いている。よって、経済に占める観光関連の割合が高い国のほか、製造業などをはじめとする輸出産業の厚みが乏しい国は、対外収支の改善が遅れるなかで生活必需品を中心とする物価上昇に直面しており、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さが増している。さらに、エネルギーと食料品など生活必需品を中心とするインフレの動きは、家計消費に占める生活必需品の割合が相対的に高い新興国にとって重石になりやすく、景気回復が遅れるなかで家計消費を取り巻く状況を一段と厳しくしている。こうしたなか、足下においてはスリランカ(注1)やパキスタン(注2)といった南アジアのほか、ペルー(注3)など中南米においても生活必需品を中心とする物価上昇をきっかけに反政府デモの動きが広がるなど、新興国で政情不安が意識される動きがみられる。新興国における生活必需品の価格上昇をきっかけとする政情不安というと、2010年から12年にかけて中東及び北アフリカ地域において反政府デモの動きが広がるとともに、一部の国においては政権崩壊に至ったいわゆる「アラブの春」が記憶に新しい。このきっかけは、2010年に干ばつに伴う不作を理由にロシアが穀物の禁輸に動き、ロシアからの穀物輸入に依存する中東及び北アフリカ地域において穀物価格が急騰したことが引き金になったとされ、足下においてはロシアとウクライナによる穀物輸出の減少により需給が急激にひっ迫して物価上昇を招くことが懸念される。その上、足下の国際金融市場では国際商品市況の上振れを理由に米FRBなど主要国中銀はタカ派姿勢を強めており、新興国通貨には調整圧力が掛かりやすいなど、新興国を取り巻く状況はこれまで以上に厳しさを増すことも予想される。その意味では、新興国においてはウクライナ情勢の悪化をきっかけにした商品市況の上振れを受けて政治状況が急速に悪化する可能性に注意が必要になっていると言えよう。


注1 4月4日付レポート「スリランカ、経済危機を巡る暴動を受けて全土に非常事態宣言を発令」
注2 4月4日付レポート「パキスタン・カーン首相が議会解散を要請、新たな地政学リスクの火種に」
注3 4月6日付レポート「ペルー、政局混乱の裏で反政府デモ激化、政府は外出禁止令を発令」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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