やはり、トルコ中銀総裁は「ちょっと何言ってるかわからない」

~利下げ実施も「十分引き締まっている」との認識を示すなど、大きくハト派姿勢に傾いている模様~

西濵 徹

要旨
  • トルコでは、ここ数年のリラ安による輸入物価の押し上げに加え、国際原油価格の上昇も重なりインフレ率の加速が続いている。こうした状況にも拘らず、中銀は9月の定例会合で100bpの利下げ実施に踏み切り、実質金利のマイナス幅は拡大している。国際原油価格のさらなる上振れも懸念されるなか、中銀のカブジュオール総裁は国内投資家を対象とするオンライン会見において、足下の政策運営について「十分引き締まっている」との認識を示した模様である。中銀はコアインフレ率を重視しており、足下で頭打ちするなかでハト派姿勢に傾いているとみられる。よって、今後も金融市場環境もお構いなしに追加利下げに動く可能性もあろう。

トルコにおいては、ここ数年に亘る通貨リラ安の進展に伴い輸入物価に押し上げ圧力が掛かりやすい状況が続くなか、昨年後半以降の国際原油価格の上昇も重なり、インフレ率は中銀の定めるインフレ目標を大きく上回る推移が続いている上、年明け以降は一段と加速するなどインフレ懸念が強まる状況にある。こうした状況にも拘らず、中銀は先月末に開催した定例会合において政策金利である1週間物レポ金利を100bp引き下げて18.00%とするなど、インフレが加速しているなかで金融緩和に動く『定石』では考えられない政策決定を行った(注1)。中銀がこのように定石では考えられない動きをみせる背景には、「高インフレは高金利が元凶」という『トンデモ理論』を信奉するエルドアン大統領が度々中銀に対して早期の利下げ実施を求めてきたことがあり(注2)、3月には物価抑制とリラ相場の防衛を目的に利上げを実施した同行のアーバル前総裁が直後に更迭されたことも影響している(注3)。なお、中銀の利下げ実施後に公表された直近9月のインフレ率は前年同月比+19.58%と一段と加速しており、実質金利のマイナス幅は拡大するなどインフレの加速に繋がる動きがみられるなか、その後のリラ相場は一時最安値を更新する事態を招いている。また、今月初めに開催された主要産油国の枠組(OPECプラス)の閣僚級会合においては小幅の協調減産縮小の維持が決定されており、世界経済の回復が続くなかで需給のタイト化により国際原油価格の上昇が期待されるなど(注4)、原油輸入国であるトルコにとっては物価上昇に加え、貿易収支の悪化による対外収支の悪化など経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さが増す可能性がある。こうしたなか、今月6日に中銀のカブジュオール総裁は国内投資家に対して実施したオンライン会見において「コアインフレ率が短期的に下方トレンドにあり、足下の政策運営は物価抑制への対応として十分に引き締まっている」との認識を示した模様であり、政策運営に当たって「コアインフレ率の動きだけを判断材料としている訳ではない」と述べたとされる。なお、中銀が重視しているとみられるコアインフレ率は6月を境に頭打ちしているものの、依然高水準で推移している上、前月比ではコアインフレ率の上昇ペースがインフレ率を上回るなど今後も頭打ちの動きを強めるかは見通しが立たない状況にある。先行きの政策運営について明確なスタンスは示していないものの、「政策運営を通じて早期の物価抑制を図るべく起こり得るリスクを考慮する」と述べる一方、「中銀は過去1年以上に亘って引き締め政策を実施しており、先月の利下げ実施後もスタンスは変化していない」と述べた模様だが、利下げ実施を以って引き締め姿勢の維持とすることは無理がある。なお、総裁による投資家を対象とするオンライン会見については国内投資家向けも海外投資家向けもともに報道機関は参加出来ず、出席者を通じた仄聞に拠らざるを得ない状況にあるが、中銀はハト派姿勢に大きく傾いている模様であり、今後もコアインフレ率の動向に応じて追加利下げを実施する可能性が見込まれる。米FRB(連邦準備制度理事会)による量的緩和政策の縮小が見込まれるなど新興国向けマネーフローの逆風が懸念されるにも拘らず、今後も中銀は構わずハト派姿勢を強めることも考えられる。

図 1 リラ相場(対ドル)の推移
図 1 リラ相場(対ドル)の推移

図 2 コアインフレ率の推移
図 2 コアインフレ率の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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