- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- ベトナム、4-6月GDPは前年比+8.39%に加速も、目標のハードルは高い
- Asia Trends
-
2026.07.03
アジア経済
原油
アジア経済見通し
その他アジア経済
株価
為替
トランプ関税
イラン情勢
ベトナム、4-6月GDPは前年比+8.39%に加速も、目標のハードルは高い
~市場を取り巻く環境は改善するなか、先行きは「身の丈」が重要になるか~
西濵 徹
- 要旨
-
-
ベトナムは一次エネルギーの石炭比率が高く原油高の直接的影響は限定的とみられたが、代替需要拡大とインドネシアの石炭囲い込みにより石炭価格が高止まりしている。加えて、原油埋蔵量は豊富ながら開発・精製能力が乏しく、原油輸入の8割を中東に依存する構造的な脆弱性を抱える。国家備蓄も15日分と極めて薄く、政府はアフリカ等からの調達交渉加速や関税引き下げ、補助金による価格抑制で対応してきたが、3月以降インフレ率は中銀目標を上回った。米国とイランによる停戦合意を受け原油高は一服しつつあるものの、先行きはエルニーニョによる干ばつ・電力不足リスクが残り、インフレ高止まりの可能性は依然高い。
-
1月の共産党大会で、2026年からの5ヵ年計画における平均成長率目標が「10%以上」に引き上げられたが、1-3月の実質GDP成長率は前年比+7.83%に鈍化した。4-6月期は前年比+8.39%に加速し、米国による関税の実質引き下げや世界的なAI関連投資を追い風に輸出が景気をけん引したほか、対内直接投資の流入拡大により固定資本投資も拡大した。一方、個人消費はインフレと需要抑制策の影響で鈍化した。ただし、年前半の成長率は+8.26%にとどまり、年間目標を達成するためには年後半+10.6%以上の成長が必要と試算される。中東情勢の不透明感も踏まえると目標実現ハードルは極めて高い。
-
FTSEラッセルが今年4月にベトナムを「新興国市場」に格上げすることを正式に決定し、9月から2027年にかけて段階的に指数組み入れが行われる予定で、海外資金流入やIPO市場拡大による市場の厚み増加が期待される。一方、中東情勢緊迫化を受けたリスクオフでドン相場・主要株価指数は調整したが、足元は落ち着きを取り戻しつつある。当面は内外の不透明要因を抱えつつ外部環境の影響を受けやすい展開が続くとみられ、政府が過度な目標達成に固執せず、身の丈に合った目標設定とロードマップを構築できるかが注目される。
-
- 目次
【中東情勢の緊迫化を受けインフレ急伸、先行きも高止まりの懸念】
ベトナム経済を巡っては、中東情勢の緊迫化を受けた原油高による悪影響が懸念された。なお、同国は一次エネルギーに占める石炭比率が5割弱とアジア新興国のなかで比較的高く、原油高による直接的な影響は小さいとみられた。しかし、原油高を受けた代替需要の拡大に加え、世界最大の石炭輸出国であるインドネシアが自国供給を優先する囲い込みに動いたことも重なり、石炭価格は高止まりしている。このため、エネルギー価格上昇の影響を免れない状況が続いている。
同国はASEAN(東南アジア諸国連合)のなかで最大の原油埋蔵量を有するものの、その開発は十分に進まず、産油量は低迷している。そのうえ、精製能力の乏しさも重なり、原油や石油製品の貿易収支はGDP比▲3%程度の赤字と試算される。さらに、原油輸入の8割を中東に依存しており、原油高の進行によりマクロ面で景気の足を引っ張る懸念が高まった。また、原油の国家備蓄は15日分、石油会社など民間備蓄を合わせても約65日分にとどまり、エネルギー安全保障は極めて脆弱である。したがって、政府は原油確保に向けてアフリカなどからの調達交渉を加速させる一方、消費抑制に向けた取り組みを強化した。一方で、原油高による物価上昇を抑えるべく、激変緩和措置として石油製品の最恵国待遇輸入関税をゼロに引き下げるとともに、補助金による価格抑制に動いた。
とはいえ、3月以降のインフレ率は中銀目標(4.5%)を上回る伸びに加速するなど、インフレ圧力が顕在化した(図1)。足元では、米国とイランによる停戦合意を受けて原油高は一服しており、原油高を理由とするインフレ圧力は後退しつつある。加えて、調達先の多様化やそれに伴う供給拡大の動きも追い風に、足元ではアジアのナフサ価格も中東情勢の緊迫化前の水準に下落しており、川上段階のインフレ圧力の後退が進む期待は高まっている。しかし、足元ではエルニーニョ現象が発生しており、同国では高温や干ばつによる農業生産への悪影響に加え、電力不足リスクが高まることも懸念される。このため、先行きもインフレが高止まりする可能性は高い。

【4-6月GDPは前年比+8.39%に加速も、通年目標のハードルは高い】
ベトナムでは、1月に開催された共産党大会(第14回全国代表者大会)で、2026年から始まる5ヵ年計画が承認され、対象期間の平均経済成長率目標が「10%以上」に引き上げられた(注1)。今年はその初年度であり、目標実現へ良好なスタートを切ることを目指したものの、1-3月の実質GDP成長率は前年同期比+7.83%に鈍化し、1年ぶりに8%を下回る伸びにとどまった(注2)。前述のように、インフレ加速に加え、エネルギー消費抑制策も景気の足かせとなることが懸念されたものの、4-6月の実質GDP成長率は前年同期比+8.39%に加速し、2四半期ぶりに8%を上回る伸びとなった(図2)。

当社が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの経済成長率も3四半期ぶりに二桁成長になるとともに、そのペースはコロナ禍直後の2021年10-12月以来の水準になるなど、足元の景気は持ち直しの動きを強めている。インフレ加速による実質購買力に下押し圧力がかかるとともに、需要抑制策も影響して個人消費の伸びは鈍化した。一方で、2月に米連邦最高裁がいわゆる「トランプ関税」への違憲判決を下した結果、米国による関税は実質的に引き下げられるなど対米輸出のハードルが低下したことに加え、世界的なAI(人工知能)関連投資の旺盛さも追い風に、輸出は前年比+20.18%と伸びが加速して景気をけん引している。また、こうした外需の堅調さを追い風に、対内直接投資の流入が大幅に拡大するとともに(図3)、企業部門の設備投資は活発化しており、共産党大会を経てインフラなど公共投資に進捗がみられることも重なり、固定資本投資も押し上げられた。なお、内需の堅調さに加え、原油や石油製品などの調達を活発化させたことを反映して、輸入も前年比+26.44%に大幅に伸びが加速した。

ベトナム政府は1-3月から新基準によるGDP統計を公表しているものの、断続的なデータとなっており、その連続性などに問題があることに注意する必要がある。さらに、今回は総資本投資の伸びの大幅な加速が成長率を押し上げたものの、その内訳は示されていない。仮に在庫投資が拡大していれば、数字と景気実態との乖離が広がっている可能性がある。なお、前述したように、共産党・政府は2026年の経済成長率目標を10%以上としたものの、年前半の経済成長率は+8.26%にとどまっている。仮にこの目標を実現するためには、年後半の経済成長率を+10.6%以上に引き上げる必要があると試算される。足元では原油高の動きは一服しているものの、中東情勢は依然として予断を許さない状況が続いており、一段の景気加速を見込むことは難しい。このため、2026年の経済成長率目標の実現のハードルは極めて高いと考えられる。
【市場環境は着実に改善、「身の丈」に合った目標設定が重要に】
金融市場においては、ベトナムが高い経済成長を実現していることが注目されるなか、2025年10月に株式指数算出会社であるFTSEラッセルが同国を「新興国市場」に格上げする方針を発表した。そして、同社は今年4月に正式決定するとともに、今年9月から2027年にかけてベトナム株を段階的に同社算出の「グローバル株式指数」に組み入れることを明らかにした。今後はパッシブ投資家による資金流入が期待されることで海外からの資金流入が活発化するほか、IPO(新規株式公開)市場も拡大して株式市場のすそ野が広がるなど厚みが増すことも期待される。
ここ数ヵ月の金融市場では、中東情勢の緊迫化を受けた投資家心理の冷え込みによる「リスクオフ」の強まりを反映して、ドン相場や主要株価指数(VN指数)はともに調整の動きをみせた。足元では、米国とイランによる停戦合意を受けた原油高の一服も追い風に落ち着きを取り戻す動きをみせているものの(図4)、しばらくは外部環境の影響を受けやすい展開が続くことは避けられない。その一方、前述したように同国金融市場を取り巻く環境は着実に改善しており、「その後」を見据えた動きをみせる可能性も高まっている。当面の実体経済については、国内・外双方に不透明要因が山積しており、過度な期待を抱くことは禁物であるうえ、政府が目標実現に固執することへの警戒感は残るものの、身の丈に合った目標設定とその実現に向けたロードマップを構築できるかが注目される。

注1 1月26日付レポート「ベトナム共産党大会、ラム党書記長再任、高成長を目指す方針へ」
注2 4月9日付レポート「ベトナムの高成長目標に暗雲、1-3月GDPは前年比+7.83%に鈍化」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
韓国・6月輸出入額はともに過去最高を更新(Asia Weekly) ~半導体がけん引役となるも、幅広い分野で輸出拡大を促す動き~
アジア経済
西濵 徹
-
南アフリカで反不法移民デモ拡大、その背景と今後の影響は ~統一地方選を前にした政治運動が影響を増幅、金融市場への影響はどうなる~
新興国経済
西濵 徹
-
ロシア、産油国が石油不足に陥る苦境の背景とは ~ウクライナによるドローン攻撃が奏功も、ウクライナ戦争の行方は見通せない展開が続こう~
新興国経済
西濵 徹
-
インドネシア、前教育相に有罪判決、市場はガバナンス懸念を強めるか ~ナディム氏は控訴へ、裁判の政治性を巡る議論が市場の信認を左右する可能性も~
アジア経済
西濵 徹
-
AI・半導体は韓国経済の救世主となるか ~成長のエンジンだが、「K字型経済」の元凶にも、持続可能な成長につなげられるか~
アジア経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
インドネシア、前教育相に有罪判決、市場はガバナンス懸念を強めるか ~ナディム氏は控訴へ、裁判の政治性を巡る議論が市場の信認を左右する可能性も~
アジア経済
西濵 徹
-
AI・半導体は韓国経済の救世主となるか ~成長のエンジンだが、「K字型経済」の元凶にも、持続可能な成長につなげられるか~
アジア経済
西濵 徹
-
雇用なき成長続く中国、金融市場は追加緩和観測を強める ~中銀は翌日物リバースレポ取引再開、金融緩和観測が高まる一因に~
アジア経済
西濵 徹
-
韓国・李政権の支持率が急落、就任後最低水準に ~8月の代表選へ主導権争い激化、その行方は良好な日韓関係に影響を与える可能性も~
アジア経済
西濵 徹
-
調整の動きを強める豪ドル相場の行方 ~FRBの利上げ観測の一方、RBAの利上げ余地は乏しいが、当面は調整ペース鈍化か~
アジア経済
西濵 徹

