生命保険は人々のウェルビーイング向上に役立つか①

~生保加入者のウェルビーイング点数は有意に高い~

村上 隆晃

目次

1. 生命保険とウェルビーイングの接点

ウェルビーイングは、人とのつながりや健康、お金など生活の様々な分野が「満ち足りて幸せな状態」を意味する概念であり、国際的にも「GDPを超える指標(Beyond GDP)」の重要な構成要素として注目されている(村上(2024c)を参照)。日本においても、内閣府やウェルビーイング学会(村上(2024a)(2025)を参照)などが年1回あるいは四半期に1回、生活満足度などの指標による定量的把握を進めている。近年はファイナンシャル・ウェルビーイングというコンセプトでウェルビーイングと金融行動や経済的な安心感との関連が議論されている(村上(2024b)(2025)を参照)。

生命保険は、疾病や死亡、老後、介護など人生におけるリスクへの備えを提供する金融商品であり、経済的セーフティネットとしての役割を持つ。このため、生命保険加入が個人の将来不安を軽減し、心理的安心感を高めることでウェルビーイングに寄与する可能性が高いと考えられる(村上(2024b))。

柳瀬(2024)では、ウェルビーイングが生命保険業界でも注目度が高まりつつあること、生命保険文化センター主催の「生命保険・生活保障に関する調査の学術的活用のあり方に関する研究会」での議論を通じて、「2024年度 生命保険に関する全国実態調査」(以下、「実態調査」)に内閣府がウェルビーイングの代表的な指標として計測している生活満足度(内閣府(2024)P3を参照)に関する質問項目が追加されたことを報告している。

そこで、複数回にわたって、実態調査の個票データを基に生命保険加入とウェルビーイングの関係を多角的に分析して報告する。

2. 生命保険加入者のウェルビーイング点数は有意に高い

前述したように2024年度に実施された実態調査では、人々のウェルビーイングについて、現在の生活に対する満足度(生活満足度がウェルビーイングの代表的指標であることから、本稿では「ウェルビーイング点数」と呼ぶ)として聴取している(注1)。この調査結果を集計し、ウェルビーイング点数の平均点をみると5.94点となる(資料1)。これは日本におけるウェルビーイングの代表的な指標の一つである内閣府「満足度・生活の質に関する調査」による総合的な生活満足度の直近調査結果(2024年)5.89点に近い水準といえる(注2)。また、実態調査のウェルビーイング点数の点数別分布をみると、5点にピークが一つあり、7、8点の区分にもう一つ山がある双峰型の分布となっている点が特徴である。これも内閣府の結果と同様の傾向であり、実態調査でとらえたウェルビーイング点数が一定の信頼度を持つものと考えられる。

図表1
図表1

このウェルビーイング点数について、生命保険への加入有無で水準が異なるのかを確認すると、加入者は非加入者に比べて平均点数が有意に高いことが判明した(資料2)(注3)。

この差は、生命保険への加入が将来の経済的不安を軽減する「安心感」を与えていること、また経済的備えがあることで現在の生活に対する満足度を高めている可能性を示唆する。

図表2
図表2

3. 世帯属性などを考慮しても、生命保険加入はウェルビーイングにプラス

生命保険加入の有無がウェルビーイング点数に与える影響について、世帯属性などを考慮した場合でも、影響があるのかをみるため、ウェルビーイング点数を被説明変数、生命保険加入の有無と世帯年収や学歴など各種の世帯属性を説明変数として重回帰分析(注4)を行うこととする。

資料3で重回帰分析の結果をみると、モデル全体の適合度を示す調整済み決定係数は0.091と高くないが、分散分析の結果は統計的に有意である(有意確率:0.000)。これはモデルで用いた説明変数で被説明変数を説明することが妥当であることを意味する。

そこでウェルビーイング点数に与える影響度の大きさでみると、まず世帯年収(0.279)が最も大きな変数となっていることがわかる。ただし、世帯年収等の説明変数を加えても、生命保険加入の有無(0.066)も有意であること、加えて学歴(0.086)や年齢(0.071)、職業(0.059)と同程度の影響度を持つことが読み取れる。

この結果から、民間の生命保険に加入できるだけの収入があるからウェルビーイング点数が高いのではという指摘に対して、収入の多さがウェルビーイングを押し上げる効果があることは確かであるが、それとは別に生命保険に加入していることによるウェルビーイング向上効果があることも認められる、ということになる。

次回は生命保険の加入有無だけではなく、支払っている保険料など加入水準を引き上げることがウェルビーイング向上に寄与するかについて分析する。

以 上

【注釈】

  1. 「お宅では、全体として現在の生活にどの程度満足していますか」という質問に対して、「全く満足していない」の0点から「非常に満足している」の10点までの11段階で回答する形式。

  2. 「あなたは全体として現在の生活にどの程度満足していますか。「全く満足していない」を0点、「非常に満足している」を10点とすると、何点くらいになると思いますか」という質問に対して、いずれか1つを選んで回答する形式。

  3. 生命保険加入有無によるウェルビーイング点数の平均値の差-0.43753について、t検定を行ったところ、t値-6.391、自由度3,974、有意確率0.000となり、有意差があるという結果になった。

  4. 重回帰分析とは、分析の対象となるデータ(被説明変数)について、複数のデータ(説明変数)で予測しようとする統計的な分析手法を指す。使用する説明変数で被説明変数をどの程度予測できるか、どの説明変数がどの程度重要か、といったことを理解するのに役立つ。各説明変数の標準偏回帰係数を計算することで、元の説明変数の大きさや単位の違いを揃えて影響度の大きさを比較できる。調整済み決定係数は重回帰分析の適合度=予測精度を示す指標であり、0~1の範囲の値を取る。絶対的な基準はないが、0.5以上あれば適合度が高いとされることが多い。

【参考文献】

村上 隆晃


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

村上 隆晃

むらかみ たかあき

政策調査部 フェロー
専⾨分野: Financial Well-being、資産形成・運用、金融経済教育

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ