ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

2025年の世界幸福度ランキングに注目

~日本の幸福度向上にはファイナンシャル・ウェルビーイングが重要~

村上 隆晃

要旨
  • 毎年3月20日は国際連合が定める国際幸福デーに当たり、世界幸福度ランキングが公表される。2025年のランキングでは、フィンランドが8年連続の首位となるなど、毎年北欧諸国が上位を占めている。日本は147か国中の55位であった。
  • ランキングの順位もさることながらランキングの背景にある幸福度の変動やその要因に目を向けることが、国民の幸福度向上を考える上ではより重要である。
  • そうした観点から日本の幸福度の推移をみると、近年コロナ禍の期間(2020~23年)を含めて上昇局面に入っており、2025年は6.147点と過去最高水準にある。
  • 本稿ではこの原因をウェルビーイング学会が公表する「主観的ウェルビーイング実感調査」の個票データを基に探った。具体的には、ウェルビーイング実感が高い人の割合と、①経済指標、②世帯属性、③主観的指標との相関関係をみた。
  • ポイントを挙げると、①世帯属性や経済指標に比べて、「人生選択の自由度」や「家計満足度」といった主観的指標と相関がある項目が多い、②世帯属性では「客観的な所得(世帯年収)」のみ相関がある、③経済指標については「物価上昇率」以外ほとんど相関がない、というものであった。
  • ウェルビーイング実感が高い人の割合と相関関係が強かった「人生選択の自由度」、「家計満足度」について、四半期ごとに集計した時系列データを用いて直近のウェルビーイング実感上昇局面における寄与率を確認したところ約82%と上昇の大半を占めていた。この「人生選択の自由度」と「家計満足度」は、近年注目されるファイナンシャル・ウェルビーイングと強い関係がある。
  • ファイナンシャル・ウェルビーイングとは、経済的な安心感を持って、人生を楽しむための選択ができる状態を指す。ファイナンシャル・ウェルビーイングの向上は、「人生選択の自由度」や「家計満足度」の引き上げを通じて日本のウェルビーイング実感を向上させる。将来に対する不透明性を高めるニュースに接することが多い今日であるからこそ、個人としても長期的な目線を持ち、自身のファイナンシャル・ウェルビーイング向上に取り組むことが重要と考える。
目次

1. 日本の幸福度はコロナを経るも上昇

毎年3月20日、国際連合が定める国際幸福デーに公表される「世界幸福度報告」(以下「報告」)では、各国の幸福度がランキング形式で示される(世界幸福度ランキング)。このランキングは、例えば日本など東アジアの国では低く出る傾向があるなど一定の課題はあるが、世界各国の幸福度のトレンドを把握することができる指標として注目されている。

この幸福度については、自分の生活の状態について、0から10までの11段階の「はしご」として捉え、考えうる最悪の生活をはしごの最下段である0段目、最善の生活を最上段である10段目として、現在自分がはしごの何段目にいるかを問うことによって得られる指標である(報告では考案者の名を取って「キャントリルの階梯」と記載されることが多い)。

国際連合の関係機関が発表しているこの幸福度ランキングは新聞報道等で取り上げられることも多く、ウェルビーイングに関連する国際標準的な指標として認知度が高い。

2025年の報告によると、世界幸福度ランキング(2022~24年の直近3年平均)で最も幸福な国はフィンランドの7.736点で、8年連続の首位となっている(資料1)(注1)。2位デンマーク、3位アイスランド、4位スウェーデンなど毎年北欧諸国が上位にランキングされている。日本は6.147点で147か国中の55位であった。

図表
図表

ただし、ランキングの順位もさることながらランキングの背景にある幸福度の変動やその要因に目を向けることが、国民の幸福度向上を考える上ではより重要である。

そうした観点から日本の幸福度の長期的な推移を見てみる(資料2)。日本の幸福度は、2008年のリーマン・ショックからタイムラグを置く形で2009-11年にピークを打ち、その後低下局面に入った。幸福度がボトムを打つのは2017-19年であり、その後コロナ禍の期間(2020~23年)を含めて上昇局面に入った。2021-23年に少し低下したものの、直近6.147点と過去最高水準にある。

この背景について村上(2023c)では、幸福度の上昇局面において、「報告」の推計モデルでは経済水準(一人当たりGDP)の向上による押し上げが健康寿命の低下による引き下げで減殺されるも全体としてはプラスに働いたと説明している。しかし実際の日本の経済水準と健康寿命の数値はこの間ほぼ横ばいであり、両者の影響が限定的であったことも併せて示している。つまり「報告」の推計モデルはこの間の日本の幸福度上昇を十分説明できていないということになる。

図表
図表

2. 日本の幸福度、ウェルビーイング実感を左右するのは経済指標よりも主観的指標

それでは、日本の幸福度を左右する要因は何であろうか。それを確認するため、ウェルビーイング学会(注2)が公表する「主観的ウェルビーイング実感調査」(以下「ウェルビーイング実感調査」)の個票データを基に探ってみたい。

ウェルビーイング学会は日本版Well-being Initiative(注3)、Global Wellbeing Initiative(注4)の協力を得て、世界で初めて四半期に一度の「ウェルビーイング実感調査」を2021年第2四半期(4~6月期)以降公表している(注5)。2025年3月には直近となる2024年第4四半期(10~12月期)の調査結果を公表した。

資料3は、日本におけるウェルビーイング実感が高い人と低い人の割合の推移を示したものである。ウェルビーイング実感が高い人の割合はこの期間に上下しているので、この変動要因について分析する。

図表
図表

ここからは、ウェルビーイング実感が高い人の割合と、変動要因候補の各種変数との関係性を分析する(資料4)。変動要因の候補としては、①経済指標(一人当たりGDP、物価上昇率など)、②世帯属性(客観的な所得(世帯年収)、最終学歴など)、③主観的指標(人生選択の自由度、健康問題の有無、家計満足度(所得に対する主観的な感情)など)を設定した。

資料4のグラフは、ウェルビーイング実感が高い人の割合と、経済指標、人々の属性、主観的指標の主な指標について、相関係数(注6)という統計指標で関係性を図にしたものである。

棒グラフが右の方に伸びている指標ほど、ウェルビーイング実感との相関が強い項目となる。一点、留意いただきたいのは、●を付けた項目は「負の相関」がある項目で、例えば上から二番目の「健康問題の有無」のように、健康に問題があると感じる人が多いほど、ウェルビーイング実感の高い人が少なくなる、といった逆の関係性がある。また、白抜きの棒グラフのように相関係数が0.2未満の指標は、両者にほとんど相関関係がないことを意味している。

図表
図表

まず目立つ特徴として、世帯属性や経済指標に比べて、「人生選択の自由度」や「家計満足度」、「健康問題の有無」、「最低生活費の有無」など主観的指標に「相関がある」項目が多いことがわかる。

世帯属性では、唯一「客観的な所得(世帯年収)」が「相関がある」という結果になっており、ウェルビーイング実感の向上に重要といえそうである。他は「地域性(大都市+)」、「最終学歴」、「婚姻状態」、「世帯員数」に「弱い相関がある」。

経済指標については、一人当たり実質GDPなど代表的なものを抽出して分析したが、この期間では物価上昇率を除いて、「ほとんど相関がない」という結果になった。一方、経済指標ではないが、オリンピックの盛り上がりが人々のウェルビーイング実感に与える影響を測るため、参考としてGoogle トレンドにおける「オリンピック」というワードに関する検索度数を分析に加えたところ、正の「相関がある」結果となった。東京オリンピックなど一時的な要因でウェルビーイング実感が急に高まる期間を挟んだため、経済指標の説明力が下がった可能性がある。

3. 日本のウェルビーイング底上げにはファイナンシャル・ウェルビーイング向上が重要

資料4でみたウェルビーイング実感が高い人の割合と各種指標の関係については、相関関係をみたもので、因果関係をみたものではない。そこで両者の因果関係をみるため、ウェルビーイング実感が高い人の割合を被説明変数、各種指標を説明変数として重回帰分析(注7)を行うこととする。ただし、前項で用いた個票データで重回帰分析を行うと、個人ごとの違いが大きく、適合度が高まりにくいことから、ここでは四半期ごとに集計した時系列の平均値データを用いて重回帰分析を行う。この場合、分析の対象となる期間が2021年第2四半期から2024第4四半期までの15四半期とサンプル数が小規模であること、変数間に相関があり、多重共線性(注8)の問題があることから、説明変数については、ウェルビーイング実感が高い人の割合と相関が高く、かつ有意性を確保できる2つの変数「人生選択の自由度」「家計満足度」に絞り込んで分析を実施した。

モデル全体の適合度を示す調整済み決定係数は0.546と一定の水準に達している。2つの変数のウェルビーイング実感が高い人の割合に対する影響度を示す標準偏回帰係数をみると、「人生選択の自由度」が0.630、「家計満足度」が0.454(いずれの係数も有意)という結果になっている。

図表
図表

直近のウェルビーイング実感が高い人の割合が増えた期間(2024年Q1:27%→2024年Q3:29%)について、この二つの変数の増減が与えた影響を図にしたものが資料6である。この期間「人生選択の自由度」に肯定回答した人の割合が増加したことで、ウェルビーイング実感が高い人の割合を0.97%ポイント押し上げた。同様に「家計満足度」が上昇したことで、0.66%ポイント割合を押し上げており、合計1.63%ポイントの押上効果があったことになる。この間のウェルビーイング実感が高い人の割合は2%ポイント増加しているので、両者の寄与度は約82%(=1.63÷2.00)となる。

つまり、「人生選択の自由度」と「家計満足度」はウェルビーイング実感が高い人の割合への影響が単に大きいというだけではなく、直近のウェルビーイング実感上昇局面において、上昇のかなりの部分が両者の増加で説明できるということである。

図表
図表

村上(2024)でも指摘しているが、この「人生選択の自由度」と「家計満足度(所得に対する主観的な感情)」は、近年注目されるファイナンシャル・ウェルビーイングと強い関係がある。ファイナンシャル・ウェルビーイングとは、現在から将来にかけての家計収支に満足し、経済的な安心感を持ち、人生を楽しむための選択ができる状態を指す。こうした概念であるため、ファイナンシャル・ウェルビーイングの向上は、「人生選択の自由度」や「家計満足度」の向上につながると考えられる。日本のウェルビーイング実感を向上させるためには、客観的な所得増加だけではなく、ファイナンシャル・ウェルビーイングの向上が重要である。これは、人々が感じる経済的なゆとり感を高めることを意味する。

個人レベルでは、着実な貯蓄の積み上げや住宅ローンの返済など、家計のコントロールが基本となる。また、緊急時に備えて貯蓄や保険による予備資金の確保も重要といえる。しかし、それ以上に大切なのは、自分の夢や目標に向けたライフデザインを考え、実行に移すことである。ライフデザインを通じて、目標達成への道筋が明確になり、実際の資産増加を待たずにウェルビーイング実感を高められる。

さらに、金融リテラシーの向上もファイナンシャル・ウェルビーイングを高める効果的な方法である。当研究所の調査結果(村上(2023b)P4参照)によると、金融リテラシーが高いほどファイナンシャル・ウェルビーイングも高くなる傾向が示されている。

個人の努力に加えて、国や地方自治体、事業者による支援も重要となる。政府の「資産所得倍増プラン」などの施策を通じて、金融経済教育の充実や資産形成支援が進められている(注9)。学校教育段階からの金融教育や様々な支援策の活用も、将来の経済的な安心感を得るために不可欠である(注10)。

最終的に、日本のウェルビーイング実感向上のためには、個人の努力と国などのサポートが相互に機能し合うことが求められる。2024年4月に設立された金融経済教育推進機構(J-FLEC)は、一般の消費者を対象に金融と経済の知識を普及・教育するための組織である。機構は特定の金融機関や金融商品に偏らないアドバイスを行う中立的なアドバイザーを認定し、企業や学校で金融経済教育を実施する。また、「家計管理」「生活設計」「資産形成」等に関して個人の状況に応じたアドバイスを無料で提供する。

政府は金融経済教育を受けた人の割合を現状の7%から、2028年度末を目途に米国並みの20%へ引き上げることを方針に掲げている。その実現には、今後5年間で1,200万人に金融経済教育を提供する必要があり、機構に加え民間金融機関の取組みも重要になると考えられる。

機構の設立を契機に多くの人が金融経済の知識を身につけ、適切な金融行動ができるようになることで、国民一人ひとりのファイナンシャル・ウェルビーイング向上に繋がることが期待される。

将来に対する不透明性を高めるニュースに接することが多い今日であるからこそ、国の支援も活用しながら個人としても長期的な目線を持ち、自身のファイナンシャル・ウェルビーイング向上に取り組むことが重要と考える。

以 上

【注釈】

  1. 「世界幸福度報告」では、毎年各国の幸福度について約1,000サンプルのアンケート調査を実施している。ただし、幸福度ランキングの算出に当たっては、調査結果の安定性の観点から直近3年分の平均値を基にしている点に留意が必要である。

  2. ウェルビーイング学会は、ウェルビーイングに関する研究結果の公開や学術集会の開催などを通じて、分野横断的なウェルビーイング研究の進化と交流を推進するため2021年に設立された学会。

  3. 日本版Well-being Initiativeとは、2021年3月に日本経済新聞社が公益財団法人Well-being for Planet Earth、有志の企業や有識者・団体等と連携して発足した団体を指す。よりよい社会をデザインしていくためにWell-beingという概念と新指標を、これからの時代の社会アジェンダにすることを目指すこととしている。

  4. Global Wellbeing Initiativeとは、Well-being分野における、世界各地の研究者・技術者・国際機関の関係者とで形成されたコミュニティを指す。Well-beingの国際調査を行うGallup社(本社:米・ワシントンD.C.)や、ニューヨーク大学、オックスフォード大学、ハーバード大学などのアカデミアなどが含まれる。

  5. 「主観的ウェルビーイング実感調査」の結果については、日本版Well-being Initiative HP(https://well-being.nikkei.com/)で2021年第2四半期以降、継続的に公表されている。

  6. 相関係数とは2種類のデータの関係性を示す統計的な指標を指す。1から-1までの範囲の数値を取り、1に近いほど「正の相関」が強い。すなわち一方が増えれば、もう一方も増えるという関係性を表す。−1に近いほど「負の相関」が強く、「正の相関」とは逆に一方が増えると、もう一方が減るという関係になる。0に近いと、ほとんど相関がない、ということになる。

  7. 重回帰分析とは、分析の対象となるデータ(被説明変数)について、複数のデータ(説明変数)で予測しようとする統計的な分析手法を指す。使用する説明変数で被説明変数をどの程度予測できるか、どの説明変数がどの程度重要か、といったことを理解するのに役立つ。各説明変数の標準偏回帰係数を計算することで、元の説明変数の大きさや単位の違いを揃えて影響度の大きさを比較できる。調整済み決定係数は重回帰分析の適合度=予測精度を示す指標であり、0~1の範囲の値を取る。絶対的な基準はないが、0.5以上あれば適合度が高いとされることが多い。

  8. 多重共線性とは、重回帰分析の際に説明変数間に相関係数が高い組み合わせがあることをいう。この場合、推定される偏回帰係数は安定せず、正負の符号が逆転するなど誤った結果を導く可能性がある。

  9. 資産所得倍増プランの第三の柱「消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設」は、金融経済教育推進機構の創設を含む(藤丸(2023)P7を参照)。機構の役割のうち、「2.中立的な助言サービスの提供」では、機構が認定する中立的なアドバイザーが「ライフプランや銘柄推奨に関する個別具体的なアドバイス」を提供することが想定されている。

  10. 既に高等学校学習指導要領の改定で、2022年度から高校生に対する金融経済教育が義務化されている。また、金融経済教育推進機構の役割として、企業の雇用者向けセミナーや学校の授業への講師派遣事業を全国で拡大することが想定されている。

 

【参考文献】

  • Helliwell, J. F., Layard, R., Sachs, J. D., De Neve, J.-E., Aknin, L. B., & Wang, S. (Eds.). (2025). World Happiness Report 2025. University of Oxford: Wellbeing Research Centre

  • 日本版Well-being Initiative HP (2025).「生活の豊かさ実感、横ばい「仕事楽しい」女性の割合高く」『主観的ウェルビーイング(生活の豊かさ)実感調査2024年10〜12月期』

  • 藤丸敏・内閣府副大臣(金融)(2023)「資産所得倍増プランについて」『第13回 QUICK資産運用討論会「資産所得倍増プラン始動へ~金融ビジネスの今後~」』

  • 村上隆晃(2024)「ウェルビーイング実感の四半期調査に見るファイナンシャル・ウェルビーイングと賃上げの重要性」

  • 村上隆晃(2023a)「国民のファイナンシャル・ウェルビーイング向上に向けて(前編)~実際の年収増以上に経済的ゆとり感引き上げが効果的~」

  • 村上隆晃(2023b)「国民のファイナンシャル・ウェルビーイング向上に向けて(後編)~ライフデザインと金融リテラシーが鍵~」

  • 村上隆晃(2023c)「日本のウェルビーイング向上には賃上げも重要~「世界幸福度報告」2023年版より~」

村上 隆晃


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

村上 隆晃

むらかみ たかあき

総合調査部 研究理事
専⾨分野: well-being、生命保険マーケティング

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ