- HOME
- レポート一覧
- ビジネス環境レポート
- 国連未来サミットでBeyond GDP枠組み策定に合意
- Illuminating Tomorrow
-
2024.11.20
ライフデザイン
SDGs・ESG
幸せ・well-being・QOL
持続可能な社会(SDGs)
国連未来サミットでBeyond GDP枠組み策定に合意
~ウェルビーイングはBeyond GDP指標の三本柱の一つに~
村上 隆晃
- 要旨
-
-
2024年9月に開催された国連未来サミットでは「未来のための協定」という合意文書が採択され、その中で「Beyond GDP」指標の策定がコミットされた。これはSDGsの目標達成を促進し、従来のGDPを補完する、人々のウェルビーイングや地球環境の持続可能性などを考慮した包括的な指標を開発する動きである。
-
背景には、GDPが経済成長を測る指標としては有効であるものの、社会や環境への負荷を十分に考慮できていないという長年にわたる課題がある。SDGsはその限界を補うために提唱されたが、その次の目標として国民が実感できる豊かさを表すBeyond GDP指標が国連未来サミットに向け議論されてきた。
-
国連未来サミットに至る過程では、Beyond GDP指標を開発するための行動として、(1)指標枠組み開発へのコミットメントの確認、(2)主要指標のダッシュボード開発、(3)統計能力の構築とデータ整備の3つが提言された。
-
具体的なBeyond GDP指標がどうなるかはこれからの議論によるが、国連による2022年の報告書では、Beyond GDP指標の案として、ウェルビーイングと主体性、生命と地球の尊重、不平等の縮小と連帯の拡大という3つのアウトカム達成を重視する枠組みが提案されている。
-
国連未来サミットを受け、今後、独立ハイレベル専門家グループが指標開発を進め、2025年の国連総会で報告される予定である。その後2030年のSDGs最終年を目標に、SDGsの次の目標に向けて議論が本格化していくことが予想される。
-
日本は、2024年の骨太方針で「Well-beingが高い社会の実現」を掲げるなど、ウェルビーイング向上を政策目標に掲げている。今後、国連主導のBeyond GDP指標策定に積極的に関与し、国際的な議論をリードしていくことが求められる。
-
Beyond GDPは単なる経済指標を超えて、持続可能な未来を実現するための重要な指針となる。日本としても、この動きを捉え、国民のウェルビーイング向上と地球環境保全を両立させる政策を積極的に推進していく必要がある。
-
- 目次
1.世界幸福度報告で日本の幸福度は50位前後
毎年3月20日は国際連合(以下「国連」)が定めた国際幸福デー(International Day of Happiness)であり、「世界幸福度報告」(World Happiness Report、以下「報告」)が刊行され、各国の幸福度がランキング形式で公表される。ウェルビーイングについては、GDPのように国際的なコンセンサスのある測定法はまだないが、この幸福度ランキングは日本でも新聞報道等で取り上げられることが多く、ウェルビーイングに関連する指標としては認知度が高い。
今年も2024年の報告が発表され、フィンランドが7年連続で首位をキープするなど北欧勢が上位を占める傾向は変わらなかった(資料1)。

日本のランキングは51位であり、GDPで世界4位の経済大国としては低い順位に見える。村上(2023)でも触れているが、国連では2030年を期限とするSDGsの目標達成を促進し、国民が実感できる豊かさを表す「Beyond GDP(GDPを超えて)」という枠組みが議論されている。Beyond GDPの柱の一つとして、ウェルビーイングが取り上げられる可能性がある。
日本においても2024年の「経済財政運営と改革の基本方針」、いわゆる骨太の方針で5つのVisionの一つとして「誰もが活躍できるWell-beingが高い社会の実現」が掲げられるなどウェルビーイング向上は政策の主要なアウトカムとして取り上げられるようになっている(資料2)。

また、石破首相、岸田前首相の所信表明演説においても幸福度やウェルビーイングの向上を目指すことが掲げられている(資料3)。さらに石破首相は、国民の一人ひとりが豊かで幸せな社会の構築を目指すことを目標に、官民で総合的な「幸福度・満足度」の指標を策定し、共有するとしており、国際的なBeyond GDP策定の動きに日本としても対応していくことを謳っている。

日本国民が腹落ちしてウェルビーイング向上に取組むに当たっては、Beyond GDPでのウェルビーイングがどのような指標になるかは重要と考えられる。そこで本稿では2024年9月22~23日に開催された国連未来サミットを取り上げ、そこに至るまでの過程でBeyond GDPについてどのようなことが議論されたのか、サミットでは何が合意され、今後どのようなロードマップを辿る見込みかについて整理する。
2.国連未来サミットへの過程で議論されたBeyond GDPの枠組み
グテーレス国連事務総長は2021年9月に“Our Common Agenda”報告書(以下、OCA)を提出し、SDGsを始めとする既存の国際的なコミットメント達成に向けた取組みを加速すること、起こりつつある課題と機会に対処するために具体的な行動を起こすことを目的として国連未来サミットの開催を提案した。
外務省が作成した資料(資料4)によると、OCAのポイントとしてグローバル・ガバナンスの強化や若者・未来世代(将来の世代)との連携、国連の改革が挙げられている。さらにこれらと並ぶ位置づけで、③社会契約の刷新として、信頼、包摂・参加、人々の福祉(ウェルビーイング)と地球環境を考慮した、GDPを補完するBeyond GDP指標の作成を挙げている点が注目される。

OCAを受け、2023年3~9月にかけて、国連加盟国が「未来のサミット」の準備を進めるにあたり、議論を支援することを目的としたテーマ別政策概要レポートが公表された。全部で11のテーマ別レポートが公表され、Beyond GDPに関するレポートは4番目のレポートであった(資料5)。

「政策概要4:Beyond GDP」の目的は、Beyond GDP指標がGDPを補完し、人々のウェルビーイングと地球のサステナビリティ向上に繋がる政策立案のための包括的なものとなるよう開発するプロセスを定めるものである。
GDPは経済成長を測る上で不可欠な指標であるが、不平等、レジリエンス、サステナビリティ、無償のケアワークといった環境や社会に関するリスクを捨象していること、資源の枯渇、環境劣化、生物多様性の損失といった負の外部性を適切に評価できないこと、デジタル化やデータ開発といった新たな現象を十分に捉えきれていないことなどから、真の持続可能な開発を測るには不十分という指摘がなされてきた。国家および国際的な政策立案、特に開発資金調達を支援するためには、より正確で包括的な指標が必要であることは以前から認識されていた。政策概要4では、GDPを超えるためのステップが提案されており、関連するイニシアティブを基盤とし、今後予定されている国民経済計算体系(注1)の改訂を最大限に活用することが提言されている。
SDGsとの関連では、SDGs自体がそもそもGDPの欠点を補うことを意識して策定された。中でもSDGsの目標17の19番目のターゲット(注2)は、2030年までに持続可能な成長を測定する補完的な指標の策定と途上国の能力開発支援を求めている。Beyond GDPは、政府の政策立案方法を根本的に変え、目標達成を加速させる投資を促し、誰一人取り残さないことを可能にすることを目指すものである。
そのための提言として、(1)Beyond GDP指標枠組み開発へのコミットメントの確認、(2)主要指標の価値ダッシュボードの開発、(3)統計能力の構築とデータ整備の3つを提示している。以下、順にその概要を確認する。
1.Beyond GDP指標枠組み開発へのコミットメントの確認
国連加盟国は国連未来サミットでSDGsの次を担う指標の枠組み開発へコミットメントすることとされている(後述する通り採択された)。この枠組みがどのようになるかはこれからの議論を待つことになる。
一つ参考になるものとして、国連が2022年に発表した「Valuing What Counts」報告書ではBeyond GDPの基礎的な枠組みが提案されているので、紹介する。(a)ウェルビーイングと主体性、(b)生命と地球の尊重、(c)不平等の縮小と連帯の拡大、の3つのアウトカム(成果)を達成するよう設計される。また、(a)参加型ガバナンスとより強固な制度、(b)革新的で倫理的な経済、(c)脆弱性からレジリエンスへの3つのプロセス要素に基づくべきである(資料6、詳細は村上(2023)P2~5を参照)。

2.主要指標ダッシュボードの開発
国連加盟国は、Beyond GDPの進捗を把握可能な主要指標(10~20の指標)からなるダッシュボードを開発する独立したハイレベル専門家グループの設立が必要と指摘している。
ダッシュボードとしてどのような指標が選ばれるかは、今後の検討によるところである。ただ、指標を選択する際の視点が前述の国連報告書で提案されているので、イメージアップのためにポイントを説明する(資料7)。
まず、ウェルビーイングと主体性については、健康・医学面のウェルビーイング、経済的なウェルビーイング、生活水準、社会的なウェルビーイング、自己開発、主観的ウェルビーイング、身体的自律性・安全性が挙げられている。生命と地球の尊重については、環境影響指標、自然資本、環境悪化と資源枯渇、世代間移転、生物多様性の損失が挙げられている。不平等の是正と連帯の強化については、結果の不平等、機会の不均等、世代間の不平等、所得と富の不平等、有給労働と無給労働の不平等が挙げられている。

3.統計能力の構築とデータ整備
さらに国家レベルでの統計能力開発とデータ収集を強化し、GDPを超える取り組みを支援し、目標に関する報告のギャップを埋めるために、統計能力開発とデータ・リソースが必要と指摘されている。
3.国連未来サミットの「未来のための協定」でBeyond GDP指標策定にコミット
国連未来サミットでは、より安全で平和、持続可能で包摂的な世界を現在の世代だけではなく、将来の世代のためにも実現するための具体的な行動を誓う成果文書として「未来のための協定」(Pact for the Future、以下「協定」)が採択された。この協定は、国連と加盟国が協力し、持続可能な開発と平和を実現するための具体的な行動計画として位置づけられている。
国連未来サミットには、国連加盟国の国家元首および政府関係者、オブザーバー、政府間組織、国連システム、市民社会、非政府組織から4,000人以上が参加し、協定の内容を深めた。さらに多様な関係者の参加を促すためのより広範な取り組みとして、9月20~21日にはアクション・デーが開催され、社会のあらゆる層を代表する7,000人以上が参加した。
協定は前文と5つの章、および2つの付属文書からから成り立っている(資料8)。国連加盟国は協定を採択することで、「SDGsと気候変動に関するパリ協定を推進し、達成状況の改善を目指す」、「平和で包摂的、公正な社会を維持するための努力を倍加し、紛争の根本原因に対処する」、「科学技術やイノベーションが人々や地球環境に役立つよう協力する」、「若者の意見に耳を傾け、国家レベルや世界レベルでの意思決定に参加させる」といった行動を取ることにコミットを示した。
中でもⅤ章の国際的な目標達成のための管理監視体制(グローバル・ガバナンス)の変革は、大きく3つの内容に分類できると考えられる。一点目は安全保障理事会を始めとする国連制度の改革であり、二点目は途上国の発展をよりサポートするための国際金融制度の改革である。三点目は国際的な協力枠組みの促進であり、その一点目にBeyond GDPの取組みが挙げられている。

協定では56個の行動項目が盛り込まれているが、53番目の行動項目として、国内総生産(GDP)を補完し、それを超えるための持続可能な開発の進捗状況を測る枠組み(Beyond GDP)を策定することがコミットされた(資料9)。Beyond GDPは、持続可能な開発の経済、社会、環境など多面的な進捗を反映すべきであり、開発金融や技術協力へのアクセスに関する指標も検討するとされている。検討に当たっては、ハイレベル専門家グループを設置し、その作業結果を2025年の第80回国連総会で発表するとされている。

4.2030年に向けた今後の道のり
最後に2030年のSDGs最終年に向けた今後のBeyond GDPに関するマイルストーンを確認する(資料10)。
2024年は国連未来サミットでBeyond GDP指標策定への大枠決議がマイルストーンに置かれており、予定通り決議された。2025年には30年ぶり2度目の国連Social Developmentサミットが開催される。前章で見た独立ハイレベル専門家グループの作業結果が報告され、Beyond GDPの内容が示される見込みである。SDGsの次の目標、すなわちポストSDGsがどのようなものになるか現時点では不明であるが、Beyond GDP指標はその行方に大きな影響を及ぼすものと考えられる。
こうした国際的な議論に向けて日本としての対外発信を行っていくために、同じ年に大阪・関西万博におけるテーマウィークの最終週でポストSDGsについて議論する予定である。2027年には国連SDGサミットが開催され、ポストSDGsの具体的な内容について議論が始まるとみられる。
ポストSDGsのアジェンダ設定に向けて日本が対外発信していくに当たっては、関西万博の場も含めて2027年までの期間に議論を重ねていく必要がある。2030年にはSDGs最終年を迎えるということで、ポストSDGsについて決議がなされると考えられる。日本でのG7開催が予定されており、日本としてポストSDGsの策定に向けてどのような貢献が可能か問われるといえよう。
ウェルビーイングを含むBeyond GDPは単なる経済指標を超えて、より持続可能な未来を実現するための重要な指針となる。日本としても、この動きを捉え、国民が経済や社会の豊かさを実感できるようウェルビーイングの向上と地球環境保全を両立させる政策を積極的に推進していく必要がある。

【注釈】
-
国民経済計算体系とは、一国の経済活動を体系的に記録するための国際的な会計基準である。国内総生産(GDP)などの指標を通じて、経済の全体像を把握するのに用いられる。国連が定めた基準に基づき各国で統一的に作成され、国際比較が可能な指標となっている。
-
SDGs目標17の19番目のターゲットは、次を参照。
https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/17-partnerships/
【参考文献】
-
Helliwell, J. F., Layard, R., Sachs, J. D., De Neve, J.-E., Aknin, L. B., & Wang, S. (Eds.). (2024年3月). “World Happiness Report 2024” University of Oxford: Wellbeing Research Centre.
-
United Nations (2021年8月) “Our Common Agenda”
-
United Nations (2023年5月) “Our Common Agenda Policy Brief 4 Valuing What Counts: Framework to Progress Beyond Gross Domestic Product”
-
United Nations (2024年9月) “Pact for the Future, Global Digital Compact and Declaration on Future Generations”
-
United Nations System (2022年8月) “Valuing What Counts – United Nations System-wide Contribution on Progress Beyond Gross Domestic Product (GDP)”
-
内田由紀子(2020年5月)「これからの幸福について 文化的幸福感のすすめ」
-
鈴木寛(2023)「日本をBeyond GDP先進国へ~ひとり一人が自らの意思で自身のキャリアや生き方を選択できる日本~」『日経Well-being Initiative社会指標委員会(2023年9月12日)』
-
第一生命経済研究所(2023)「ウェルビーイングを実現するライフデザイン」『ライフデザイン白書2024』
-
村上隆晃「SDGsの次を議論する国連未来サミット~ウェルビーイングが次のグローバル・アジェンダに~」(2023年11月)
-
村上隆晃「世界も注目を始めた東アジアの幸福観~「世界幸福度報告」2022年版より~」(2022年5月)
-
村上隆晃「日本のウェルビーイング向上には賃上げも重要~「世界幸福度報告」2023年版より~」(2023年5月)
-
村上隆晃「【1分解説】国連未来サミットとは?」(2023年6月)
村上 隆晃
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

