- Reserch Report
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2026.04.17
Financial Well-being
資産形成・資産運用
世界幸福度調査に見るファイナンシャル・ウェルビーイングの重要性
~2026年世界幸福度ランキングが公表~
村上 隆晃
- 要旨
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世界幸福度報告は、毎年3月20日の国際幸福デーに公表される国際比較レポートで、各国の幸福度をランキング形式で示す。東アジア諸国では低めに出やすいという課題はあるものの、世界全体の幸福度の動向や長期的な変化を捉えるうえで有用な指標として注目されている。
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2026年版では、フィンランドが7.764点で9年連続首位となり、アイスランドやデンマークなど北欧諸国が上位を占めた。日本は6.130点で147か国中61位だったが、重要なのは順位そのものではない。長期推移でみると、日本の幸福度はリーマン・ショック後にいったん低下した後、近年は持ち直し、直近では過去最高水準を維持している。日本の幸福度を考えるうえでは、国際的な順位よりも、時系列の変化とその背景を丁寧に捉える視点が必要である。
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本稿ではGallup World Pollの個票データを用いた重回帰分析により、日本人の幸福度を説明する要因を検証している。その結果、最も影響が大きかったのは「家計満足度」であり、人生の自由度や社会的支えを上回った。注目すべきは、客観的な世帯収入の多寡よりも、「今の収入で生活に余裕があると感じられるか」という主観的な経済的ゆとり感の方が、幸福度により強く関わっていた点である。日本人の幸福実感は、年収額そのものより、暮らし向きへの納得感に大きく左右されることが示されている。
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こうした分析結果を踏まえ、本稿ではファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)の重要性を示す。FWBとは、単に貯蓄や投資を増やすことではなく、現在から将来にわたって経済的な安心感を持ち、自分らしい選択ができる状態を指す。お金を人生の目的ではなく、よりよく生きるための手段として捉える視点が重要である。
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さらにファイナンシャル・ウェルビーイング分科会の調査から、家計満足度が高い人ほどFWBも高い傾向にあることが示された。因果関係を統計的に断定することはできないものの、家計満足度を引き上げることがFWBの向上につながり、ひいては幸福度全体の底上げにも結びつく可能性を示唆している。日本の幸福度を左右するのは年収額そのものより家計満足度であり、その改善にはFWBの視点が重要といえる。
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- 目次
1. 日本の幸福度は過去最高水準を継続
毎年3月20日、国際連合が定める国際幸福デーに公表される「世界幸福度報告」(以下「報告」)では、各国の幸福度がランキング形式で示される(世界幸福度ランキング)。このランキングは、例えば日本など東アジアの国では低く出る傾向があるなど一定の課題はあるが、世界各国の幸福度のトレンドを把握することができる指標として注目されている。
この幸福度については、自分の生活の状態について、0から10までの11段階の「はしご」として捉え、考えうる最悪の生活をはしごの最下段である0段目、最善の生活を最上段である10段目として、現在自分がはしごの何段目にいるかを問うことによって得られる指標である(報告では考案者の名を取って「キャントリルの階梯」と記載されることが多い)。
国際連合の関係機関が発表しているこの幸福度ランキングは新聞報道等で取り上げられることも多く、ウェルビーイングに関連する国際標準的な指標として認知度が高い。
2026年の報告によると、世界幸福度ランキング(2023~25年の直近3年平均)で最も幸福な国はフィンランドの7.764点で、9年連続の首位となっている(資料1)(注1)。 2位アイスランド、3位デンマーク、5位スウェーデン、6位ノルウェーなど毎年北欧諸国が上位にランキングされている。日本は6.130点で147か国中の61位であった。

ただし、ランキングの順位もさることながらランキングの背景にある幸福度の変動やその要因に目を向けることが、国民の幸福度向上を考える上ではより重要である。
そうした観点から日本の幸福度の長期的な推移をみる(資料2)。日本の幸福度は、2008年のリーマン・ショックからタイムラグを置く形で2009-11年にピークを打ち、その後低下局面に入った。幸福度がボトムを打つのは2017-19年であり、その後コロナ禍の期間(2021~23年)を含めて上昇局面に入った。2021-23年に少し低下したものの、直近6.130点と過去最高水準にある。

2. 日本の幸福度を説明する最大の要因はファイナンシャル・ウェルビーイングに通じる家計満足度
ウェルビーイング学会(2026)によると、世界幸福度報告では、世界各国の国レベルの幸福度について、1.人生の自由度、2.社会的な支え、3.一人あたりGDP、4.寛容さ、5.腐敗の少なさ、6.健康寿命の6つの世界共通の変動要因で説明している。さらに2006年~2025年におけるG7諸国の幸福度/ウェルビーイングの変動を統計的に分析すると、「人生の自由度」と「腐敗の少なさ」のみが、強く説明する要因であるとされている。
そこで1章でみた日本の幸福度の変動要因を個人のレベルでさらに幅広く探るため、ウェルビーイング学会(注2)の協力を得て、世界幸福度報告の基となるGallup社の「Gallup World Poll」の個票データを基に重回帰分析(注3)という統計的手法を用いて、日本の幸福度を説明する要因について検討してみる。
幸福度、ウェルビーイングについては、世界幸福度報告と同じ「現在の生活について、最悪の生活を0点、最も理想的な生活を10点とし、0~10点の11段階で評価する」生活評価点数(以下、WB点数)を用いる。WB点数を結果(被説明変数)、13個の変数を要因(説明変数)とする重回帰分析を実施した(資料3)。分析の予測精度はさほど高くない(調整済決定係数:0.241)ものの、主観的な幸福度は個人により多面的なものであり、個人差の要素を考慮すると、決定係数が高すぎないことは不自然ではない。各説明変数について統計的に有意な影響があることを確認できた。
分析結果をみると、生活評価に対する影響度が大きいのは、1位 家計満足度、2位 人生の自由度、3位 社会的支えとなっている。
2位以下に2倍以上の差を付けて影響の大きい家計満足度は「1点:現在の所得で生活するのは非常に困難」「2点:現在の所得で生活するのは困難」「3点:現在の収入で十分生活できる」「4点:現在の収入で快適に生活できる」の4段階で聴取している説明変数であり、点数が高いほど主観的に経済的なゆとりを感じているということになる。一方、客観的な世帯収入の水準(五分位)の係数は0.071と、家計満足度の5分の1程度にとどまる点も注目される。
家計満足度の影響は、人生の自由度や社会的支えを上回り、客観的な世帯収入水準の数倍に達している。個々人のウェルビーイングにとっては、世帯収入自体よりも、その収入をどう受け止めるかという家計満足度がより重要であることを意味する。
この観点から注目されるのがファイナンシャル・ウェルビーイング(以下、FWB)という考え方である。

3. 家計満足度とFWBは相互に強め合う関係
FWBについては、日本の金融経済教育推進機構(以下、J-FLEC)を始め、アメリカやイギリス、OECDといった公的な機関がそれぞれ定義を行っている(資料4)。最大公約数的にまとめていうと、FWBとは、「世帯収入に対する主観的満足度であり、経済的な安心感を持ち、現在から将来にかけて人生を楽しむための選択ができる状態」といえる。
単にお金を貯めましょう、とか、投資をしましょう、といった狭い概念ではなく、消費者にとってお金面の生活全般に関わることである。お金をツールとして、それぞれの人が重視する、様々な選択ができる状態で、人生を楽しみ、ウェルビーイング全般を向上させるのに役立てる、そういった状態を実現しようという考え方といってもよい。

FWBの概念についてさらに詳しく知るため、アメリカ金融消費者保護局による、ファイナンシャル・ウェルビーイングに関する4つの要素をみてみよう(資料5)。横軸に「現在」と「将来」という時点による区分、縦軸に「経済的な備え」という守りの要素と「選択の自由」という前向きな要素による区分となっている。「現在」の「経済的な備え」でいうと、月々や日々の家計をコントロールすること、「将来」に向けては、不意に襲い掛かる経済的なショック(たとえば、自分や家族の病気・ケガに伴う入院や収入の途絶など)を吸収する能力があることがキーとなっている。一方、「選択の自由」については、「現在」の人生を楽しむための経済的な自由度が確保されていること、「将来」の経済的な目標を達成するための軌道に乗っていると実感できることが挙げられている。
いずれも主観的な評価であり、この4つができていると感じるほど、FWBが向上する、という点がポイントである。また、家計満足度はFWBにおける4つの要素のうち、主として現在の経済的な備えや選択の自由といった構成要素に近い指標といえるだろう。

次にFWBと家計満足度の関係を統計データに基づいて確認する。
ウェルビーイング学会ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会では、FWBの度合いを測定する指標として、日本版ファイナンシャル・ウェルビーイング度(以下、FWB度)という指標を設定し、測定している(資料6)。具体的には、「資産形成や資産活用など、足元および将来の計画」について、現在および将来の満足度を0~10点で聴取し、右側のような条件で、高い、中ぐらい、低いの3段階に区分している。

ウェルビーイング学会は日本版Well-being Initiative(注4)、Global Wellbeing Initiative(注5)の協力を得て、「四半期毎主観的ウェルビーイング調査」(以下、GDW調査)を2021年第2四半期(4~6月期)以降公表している。2025年第2四半期(4~6月期)の調査では、世界幸福度報告と同じ質問項目に加え、FWBに関する質問項目を追加しており、その一環で日本版FWB度についても聴取している。
このGDW調査のデータに基づき日本版FWB度と世界幸福度報告における家計満足度の関係をみると、家計満足度の区分が(現在の収入で生活するのは)「非常に困難」から「快適に暮らせる」まで改善していくと、FWB度も向上する関係にある。家計満足度が最も高い層ではFWB度の「高い」割合が半数を超える。

両者の間の因果関係までは統計データから自明ではないが、家計満足度とFWBには有意な関連がみられ、両者が相互に強め合う可能性が示唆される。
4. おわりに
国連の「世界幸福度報告2026」で、日本の幸福度は147か国中61位となった。順位だけを見れば、なお中位にとどまる。だが、見落としてはならないのは、日本の幸福度が直近で過去最高水準を維持していること、そしてその背景に「家計満足度」が大きく関わっている点である。
ここまでの分析の結果、日本人の幸福度を左右しているのは、年収の額そのものだけではないということである。世界幸福度報告の個票データを用いた分析では、日本の幸福度を説明する最大の要因は「家計満足度」であり、客観的な世帯収入水準よりも影響が大きいことが示された。物価高や将来不安が家計を圧迫するなか、いま問われているのは、いくら稼ぐかだけでなく、暮らしに余裕があると実感できる社会をどうつくるかである。
その意味では、幸福度を高めるカギとして、いま注目したいのがFWBである。これは単なる貯蓄や投資の多寡ではなく、現在と将来にわたって経済的な安心感を持ち、自分らしい選択ができる状態を指す。資料では、家計満足度が高まるほどFWBが高い人の割合も大きく上昇することが示された。日本の幸福度を左右するのは年収額そのものより家計満足度であり、その改善にはFWBの視点が重要といえる。
【注釈】
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「世界幸福度報告」では、毎年各国の幸福度について約1,000サンプルのアンケート調査を実施している。ただし、幸福度ランキングの算出に当たっては、調査結果の安定性の観点から直近3年分の平均値を基にしている点に留意が必要である。
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ウェルビーイング学会は、ウェルビーイングに関する研究結果の公開や学術集会の開催などを通じて、分野横断的なウェルビーイング研究の進化と交流を推進するため2021年に設立された学会。
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重回帰分析とは、分析の対象となるデータ(被説明変数)について、複数のデータ(説明変数)で予測しようとする統計的な分析手法を指す。使用する説明変数で被説明変数をどの程度予測できるか、どの説明変数がどの程度重要か、といったことを理解するのに役立つ。各説明変数の標準偏回帰係数を計算することで、元の説明変数の大きさや単位の違いを揃えて影響度の大きさを比較できる。
この重回帰分析でのモデル式の決定係数が小さいということは、生活評価(の高低)は性別や年齢、家計満足度、人生の自由度といった変数だけでは十分に説明できていない、ということになる。但し、各説明変数のt値は5%水準で有意であることから、ここで挙げた変数が影響を与えているということはいえる。 -
日本版Well-being Initiativeとは、2021年3月に日本経済新聞社が公益財団法人Well-being for Planet Earth、有志の企業や有識者・団体等と連携して発足した団体を指す。よりよい社会をデザインしていくためにWell-beingという概念と新指標を、これからの時代の社会アジェンダにすることを目指すこととしている。
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Global Wellbeing Initiativeとは、Well-being 分野における、世界各地の研究者・技術者・国際機関の関係者とで形成されたコミュニティを指す。Well-beingの国際調査を行うGallup 社(本社:米・ワシントン D.C.)や、ニューヨーク大学、オックスフォード大学、ハーバード大学などのアカデミアなどが含まれる。
【参考文献】
・Consumer Financial Protection Bureau (2017) “Financial well-being in America”
・Money & Pensions Service (2020)“The UK Strategy for Financial Wellbeing 2020-2030”
・OECD (2024)“G20 policy note on financial well-being”
・ウェルビーイング学会(2026)「日本版ワールドハピネスレポート2026」
・ウェルビーイング学会ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会編(2025)「よくわかるウェルビーイング&ファイナンシャル・ウェルビーイングQ&A~快適な『お金』との関係を実現するために~」
・村上隆晃(2025)「2025年の世界幸福度ランキングに注目~日本の幸福度向上にはファイナンシャル・ウェルビーイングが重要~」
・村上隆晃(2024)「ウェルビーイング実感の四半期調査に見るファイナンシャル・ウェルビーイングと賃上げの重要性」
村上 隆晃
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。