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2025.01.24
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デンマークの高齢者同士の共住から学ぶ
~日本でも「遠い親戚より近くの他人」は実現するのか~
福澤 涼子
- 目次
1.独居高齢者の割合が日本よりも多いデンマーク
現在、日本の高齢者の約5人に1人(19.0%)がひとり暮らしをしているが、2040年には約4人に1人(26.5%)まで増える見込みである(注1)。同居家族の機能は、日常的な生活の援助から、交流相手、緊急時のサポートまで多岐にわたるため、ひとり暮らしの場合、誰が・どのようにこれらを補完していくかが課題となる。
そこで世界に目を向けてみると、日本よりも高齢者の独居率の高い国のひとつに、デンマークがある。高齢者の独居割合は38%で、コペンハーゲンを含む首都圏では40%を超えている(デンマーク統計局2019)。
日本同様、高齢者の孤立が問題視されるデンマークでは、拙稿(「老後にシェアハウスで暮らすという選択~北欧を中心に広がるシニア向けコ・ハウジングとは~」)で述べたように、プライベートな生活空間と共有スペースを組み合わせ、近隣同士の交流を奨励する「コ・ハウジング」という住まいが高齢者から人気を集めている。
本稿では、2024年9月に行ったデンマークでの現地調査を通じて、コ・ハウジングが日本でも将来的な孤立対策となりえるのかを検討していく。
2.介護の社会化が進む国
デンマークは、スウェーデンとドイツに隣接する北欧諸国の1つである。国土は約4.3万平方キロメートルで九州とほぼ同じ面積をもつが、人口は約598万人であり(デンマーク統計局2024年)、千葉県民の630万人よりも少ない。

高い就業率と高い税率に支えられた福祉国家であり、個人の生活を社会が支える仕組みが整っている。たとえば、高齢期には、手厚い年金や住宅手当があり、住まいや暮らしの心配も少なく、必要と判断された介護サービスや医療はすべて無料で提供される。結果として、家族の介護負担も少ないうえに、法律の観点でも親を子どもが扶養する義務はなく、「高齢の親の世話を子どもがすべきである」という考えをもつ人は日本と比べて少ない傾向にある(注2)。
3.デンマークの高齢者が、一人で生活することが困難になったときに住みたい場所
子どもが同居して親の面倒をみるケースの少ないデンマークでは、ひとり暮らしの高齢者が多くなる。デンマーク最大の高齢者団体(Ældre Sagen)の調査(注3)によると、デンマークの独居高齢者の43%が、中度または重度の孤独を経験していて、うつ病など心理的影響ほか、心疾患など身体への悪影響が懸念されている。デンマークは幸福度の高さでも有名だが、孤独感を抱く高齢者は、そうでない高齢者より、幸福度も大きく落ちる結果であった。
図表2は、同団体がデンマークの高齢者に一人で生活することが難しくなった場合の希望の住まいをたずねたものである。充実した在宅介護サービスがあるものの、14%はコ・ハウジングを選択し、一定のニーズがあることがうかがえる。デンマークでは施設から在宅へと介護方針をシフトし、長寿化も伴って高齢者が自宅で過ごす期間が長期化するなか、在宅サービスでは行き届かないようなつながりを生む住まいに関心が集まっていると考えられる。「遠い親戚より近くの他人」という言葉があるように、子どもに面倒をみてもらうという期待が少ないからこそ、他人との助け合いを選択しているとも捉えることができるだろう。

4.デンマークでコ・ハウジングが支持される理由
今回の訪問では、合計6か所のコ・ハウジングに住む20人以上からアンケートやインタビューへの回答を得たが、彼らの転居理由としての多く聞かれたのも、やはり孤独の回避である。ある高齢の男性は「妻が亡くなったあと、つながりがなくなった。日常生活のなかでは郵便の配達員としか人と話す機会がなかった」と当時の状況を語った。デンマークでは、広い庭付きの戸建てに一人で住む高齢者も少なくないため、管理の負担感や孤独感から転居を検討する人も多いようだ。
また、別の理由としては、同世代の友人を作ったり、旅行やイベント、共食などの活動を楽しみたいという内容も多く挙げられた。シニア期をよりアクティブに楽しむためにコ・ハウジングを選ぶということである。コ・ハウジングに転居する年代も60代が最も多く、まだ活発で元気なうちに転居することで、周囲と趣味の活動やイベントを楽しむことができ、コミュニティにもスムーズに馴染むことができる。
同様に、転居して良かった点としても、誰かがいる安心感や、日々の交流の楽しさを挙げる人が多かった。たとえば、昼どきになってもカーテンが閉ったままの家があれば、訪ねて安否確認をするなどの日々の助け合いが行われ、安心感を得ている高齢者が多いようだ。
5.つながりと一人の時間、どちらも大切にする空間
次に、デンマークのコ・ハウジングの空間的な特徴をみる。コ・ハウジングは個人の占有スペースである住居と、共有スペースで構成される。写真1は、そのうちの共有部のものである。多くのコ・ハウジングでは、毎日~月に2回程度、住人同士で食事を作り、共に食べることによるコミュニケーションの機会があり、共有のダイニングが主な交流場所となっている。また、施設によっては、ライブラリーやスポーツジム、工作室、絵画室、裁縫室などが共有スペースとして備わり、住人は自由に使うことができる。1棟あたりの世帯数は10~30世帯が多いが、中には50世帯以上の大規模のものもあり、規模が大きいほど共有空間も充実している。

また、写真2のように各住戸の玄関脇には、中庭や廊下に向けて椅子やテーブルが置いてある。孤独を感じるときには、この場所に出れば、住人の誰かと自然に顔を合わせることになる。コ・ハウジングを建設する際には、このような偶発的な出会いをいかに創出していくかも重視される。

一方で、つながりをつくる空間だけではなく、プライベート空間も充実している。デンマークではかつて、孤立対策のために日本のシェアハウスのような水回り共有型の住まいが注目を集めたが、共同性が高すぎて広く普及するには至らなかった(注4)。現在、広がりを見せるコ・ハウジングでは、個人のプライベートスペースとして、トイレなどの水回りに加え、広いキッチンやリビング、寝室などがあることが多い。さらに、共有の中庭とは別に、各居室に隣と区切られた裏庭がついていることもあり、一人で外で過ごしたい時にはそちらを使用する。むやみに交流を促すのではなく、一人で過ごす時間も尊重された空間設計となっている。

6.コ・ハウジングに住むことを支える住宅の仕組み
住人同士のつながりを生むことと、個人の時間の確保の両方をかなえることができる空間である分、家賃の高さが懸念されるが、デンマーク独自の支援や仕組みによって、主に中流層の高齢者が多く住むことができている。
まず、デンマークでは、国民が良質な住まいで生活するために行政が支援するのは当然との認識があり、手厚い住宅費の補助がある。また、既存研究(注5)によると、コ・ハウジングのオーナーシップの形態として最も多くを占めるのが、社会住宅である(全体の36%)。これは、民間の非営利組織が提供する賃貸住宅で、日本の公営住宅のように低所得者を対象としたものではなく、デンマークでは広く定着している住まいの形態である。社会住宅の場合、住宅組織が住宅を新築したり取得するための費用のうち14%を行政が支援し(注6)、手頃な家賃で住居が提供されるよう賃料の上限が設定される。
また、次いで多いのが持ち家(27%)、協同組合住宅(26%)である。協同組合住宅も日本にはない形態で、持ち家と賃貸住宅の中間のような位置づけである。協同組合が不動産を所有し、組合員は住戸の使用権を得る。協同組合住宅のコ・ハウジングに住む人が退去を希望する場合、その使用権を誰に売却するかは協同組合が決めるなど、所有とは異なる概念であるために、価格が高騰するということも少ないようだ。
7.高齢者同士の自主運営で成り立つ
加えて、コ・ハウジングは、共有部の清掃や設備の管理、予算の管理、入居希望者との面談など、その運営のすべてを住人同士で担うことを基本としているため、居住費が抑えられている。
「デンマーク人が3人集まるとアソシエーション(組織、組合、協会)ができる」といわれるように、デンマーク人は協力しながら活動することが得意である。多くのコ・ハウジングも、「気の合う仲間と楽しく暮らしたい」と考えた高齢者たちが集い、建設を要望して実現した。そのため入居前から、各個室の広さやどのような共有部にするかなどについて、数年単位の話し合いが行われる。
そして、入居したあとも、住人たち自ら運営に関わる。あるコ・ハウジングでは、ひと月に1回の定例会議があり、日々の生活運営について議長を中心に住人全員で話し合う。住人は会計管理グループ、共有部の備品管理グループなど運営にかかわるいずれかの役割グループに属し、議題を出して運営方法やルールを改善していく。日本の高齢者同士の共住の場合にも、こうした高齢者同士の話し合いの機会はあるものの、多くの場合は運営を担う事業者が住人の声を拾い上げる形で行われ、会計や清掃、食事作りなども第三者に委ねていることが多いため、高齢者のみでこれほど組織化された運営を実現している点は特筆すべきである。
一方で「それぞれ意見の異なる個人なので、時には衝突する」という声も聞かれたように、住人同士の意思統一を図るのは決して簡単なことではない。意見が分かれたときには多数決で物事を決めることが多いようだが、なかには、全員の賛成が得られるまで何時間も同じ議題について話し合いを続けるところもある。高齢になれば自分の考えに固執しがちになるが、自分の希望がかなわないことを受け入れ、柔軟さや寛容さをもつことを求められる。
住民による自主運営は、費用が抑えられるというメリットだけでなく、役割を喪失しがちな高齢期に、それらが与えられる機会を生み、協力してイベントなどを実現する経験を通じて、住民同士の絆を深めることにもつながる。もちろん、年を重ねればできない仕事も増えてくるが、できる人がフォローし、あくまで自主運営で維持している。ただし、高齢者同士の善意による助け合いを維持するのは、決して簡単なことではない。実際、長い年月のたつコ・ハウジングでは、住民が高齢化し、徐々に元気な住人たちの負担が増しているという声もきかれた。だからこそ、60代など若い住民を優先的に入れつつ、年齢のバランスを取っていくことが、コ・ハウジングを自主運営で維持していくうえでは重要な視点だと認識されている。
8.「生活を楽しむ仲間」であることを支える社会システム
一方で、コ・ハウジングにおける助け合いの範囲が介護にまで及ばないのが福祉国家の強みである。デンマークでは24時間体制の在宅介護サービスが充実し、必要であれば昼夜問わず日に何度もヘルパーが訪問してくれるため、住人間で介護し合うことは基本的にない。だからこそ住人同士はあくまで「生活を楽しむ仲間」でいられるのである。
今回の訪問でも、9割近い高齢者が「介護が必要になった後もコ・ハウジングに住み続けたい」と回答し、実際に、訪問介護サービスを利用しながら住み続けるケースも少なくない。もちろん、認知症などを患い、ほかの住人に迷惑をかけてしまう場合には、介護サービス付きの住宅に移ることもある。高齢者たちは、「コ・ハウジングで最期を迎えたいとは思うけれど、もし多くの介護が必要になったとしても、自治体がどうにかしてくれるため心配していない」と話していた。将来的な介護不安が少ないからこそ、介護サービスのついていないコ・ハウジングへの転居を選択することや、自分たちでコ・ハウジングを運営していくことにもつながるのではないだろうか。
筆者は拙稿(「高齢者の共同居住は終の棲家になるのか」)において、日本における高齢者の共同居住で介護の支援まで居住者同士で行うのは限界があり、介護ニーズが高まっても住み続けられるかどうかは、本人の状況(家族の支援、資産・収入など)やその地域の状況にもよるということを述べた。デンマークでは、普遍的に手厚い高齢者への介護が提供されているからこそ、住民同士の介護負担は発生せず、コ・ハウジングに長く住み続けることができる。また、日本でコ・ハウジングのような住まいを作ることを検討する際には、当事者である高齢者だけで運営維持できるのかは定かでなく、第三者によるサポートが必要になるケースもあるだろう。加えて、デンマークに比べて日本は人口密度が高いため、広い土地を確保するのが困難であり、デンマーク同様の充実した空間のためには相当な初期費用も必要になる。日本でこうした住まいを普及させるには、これらの課題に対する行政の支援が求められるだろう。
このように、デンマークと日本では福祉制度、文化的背景、住宅の仕組みなど多くの違いがある。ただ、つながりを必要とする高齢者がいる点は日本も同様である。海外の事例から学びつつ、日本に合ったやり方で高齢者が孤立しないような住まいのあり方やシステムについて、模索していく必要があるのではないだろうか。
【注釈】
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国立社会保障・人口問題研究所の「全国将来人口推計(令和5年推計)」及び「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(令和6年推計)」の推計結果をもとに算出。
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既存研究によると、男女ともに60%以上が親の介護を子供の役割だと認識しておらず、高齢の親を世話扶養するのは国の責任だと思っており、日本の若者とは異なる介護規範があることが示されている。/磯部香「第1章 日本・中国・デンマークの若者のケア意識」宮坂靖子編著『ケアと家族愛を問う』(2022年)
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Ældre Sagen(2021)“ALDERENS MANGFOLDIGHED Fremtidsstudiet”
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上野勝代「北欧におけるシニア向けコ・ハウジングに関する研究-主としてデンマーク,のの場合」『住宅総合研究財団研究年報』No.22,1995年
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Jesper Ole Jensen &Marie Stender (2022) “Developer-driven co-housing in Denmark: strengths and weaknesses compared to resident-driven co-housing”
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辻 壽一, 馬場 麻衣「デンマークの住宅タイプと社会住宅の経営管理の特徴に関する研究」によると社会住宅取得資金の基本的な内訳は、入居者による保証金(2%)、自治体による資金融資(14%)、市中借入れの住宅ローン(84%)である。
【参考文献】
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辻 壽一, 馬場 麻衣「デンマークの住宅タイプと社会住宅の経営管理の特徴に関する研究」『日本建築学会計画系論文集』81 巻 730 号 p. 2813-2820, 2016 年
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デンマーク社会住宅局「Bofællesskaber」
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Ældre Sagen“ALDERENS MANGFOLDIGHED Fremtidsstudiet” 2021
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Ældre Sagen“5 tips hvis du overvejer bofællesskab”
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デンマーク統計局ホームページ“Andelen af danskere på mindst 65 år, der bor alene, er historisk lav“2019
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外務省ホームページ「デンマーク王国基礎データ」
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銭本隆行「地域包括ケアシステムにおける高齢者主体の地域活動に関する研究~日本とデンマークの比較を通して~」『日本医療大学紀要』6 91-103, 2020年
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上野勝代,石黒暢,佐々木伸子編著『シニアによる協働住宅とコミュニティづくり 日本とデンマークにおけるコ・ハウジングの実践』ミネルヴァ書房 2011年
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デンマーク大使館Facebookページ
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福澤涼子「老後にシェアハウスで暮らすという選択~北欧を中心に広がるシニア向けコ・ハウジングとは~」(2023年10月)
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福澤涼子「高齢者の共同居住は終の棲家になるのか~グループリビングにおける互助の価値~」(2024年4月)
福澤 涼子
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。