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2024.05.31
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わが国のメタボ人口の将来推計
~2050年度までに400万人減の一方、メタボ該当割合引き下げが急務~
谷口 智明
- 要旨
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- 2024年度より「健康日本21(第三次)」がスタートした。本稿では「健康日本21(第三次)」の概要を説明した上で、生活習慣病予防におけるメタボリックシンドローム該当者・予備群の状況、及び2050年度までの「メタボ人口」(メタボ該当者・予備群の人口)の推移等について考察したい。
- 「健康日本21(第三次)」は2035年度までを計画期間とし、次の4つを基本的方向とする(①健康寿命の延伸・健康格差の縮小、②個人の行動と健康状態の改善、③社会環境の質の向上、④ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり)。前計画の検証を踏まえ、50項目程度の具体的目標が設けられている。特に、前計画の目標のうち「悪化している」と評価された4項目のうちの一つに「メタボ該当者・予備群の減少」があり、引き続き、改善が必要となる。
- 特定健診(対象40~74歳)の結果によると、メタボ該当者の割合は年齢や性別により異なる。特に高齢者や男性で高い傾向にあり、男女間では約3倍もの差が生じている。時系列では、2020年度が最近のピークで、その後も高止まり傾向といえる。また2020年度はコロナ禍の影響もあり、やや異なる動きがみられた。
- 2050年度までのメタボ人口を試算したところ、2020年度のピーク(約1,715万人)から減少し、2050年度には約1,330万人(ピーク比約400万人減)と推計された。この要因は、メタボ該当者割合の趨勢を上回る対象人口の減少と人口構成の変化であり、人口減少と高齢化という2つの潮流がメタボ人口にも影響を与える結果となった。
- メタボ人口が減少に転じるとはいえ、一人ひとりの健康状態が向上したとは言えない。本質的には年齢階級別のメタボ該当者・予備群の割合を継続的に引き下げることが重要であり、これまでの特定健診で蓄積されたデータに基づく年齢階級毎の傾向やその要因の分析等が必要である。併せて、NDBデータ等を活用した健康増進・予防に関するエビデンスの見える化と、行動変容を促すためのわかりやすい広報が求められる。より実効性があり誰一人取り残さない健康づくりが展開され、個人のウェルビーイング向上にも寄与することを期待したい。
- 目次
1.はじめに
内臓脂肪や腹囲が気になる方にとって、2024年4月に日本初の内臓脂肪減少薬が発売されたことは記憶に新しいのではないだろうか。時を同じくして2024年度より国民と社会が一体となった健康づくり対策「健康日本21(第三次)」もスタートした。
そこで、本稿では「健康日本21(第三次)」の概要を説明した上で、2024年5月に公表された「2022年度特定健康診査・特定保健指導の実施状況」等の時系列データに基づき、メタボリックシンドローム(以下、「メタボ」)該当者・予備群の状況、さらに2050年度までのメタボ該当者・予備群人口(以下、「メタボ人口」)の推移等について考察したい。
2.「健康日本21(第三次)」とは
(1)「健康日本21(第三次)」のビジョンおよび基本的な方向
健康日本21とは、健康増進法に基づいて策定される「国民の健康増進の総合的な推進を図るための基本的方針」のことで、正式には「二十一世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」という。こうした健康づくり運動は、1978年度から累次にわたり取り組まれており、2000年度からスタートした「第3次国民健康づくり」以降「健康日本21」と呼ばれている。
そして、2024年度からは、前計画の活動評価も踏まえ、2035年度までの12年間を計画期間とする「健康日本21(第三次)」が開始されたところである(資料1)。

「健康日本21(第三次)」では「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」をビジョンとし、「誰一人取り残さない健康づくりの展開(Inclusion)」「より実効性をもつ取組の推進(Implementation)」を図ることとされた。そして、ビジョン実現のための基本的方向(目標)は、①健康寿命の延伸・健康格差の縮小、②個人の行動と健康状態の改善、③社会環境の質の向上、④ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり、の4つである。更に、こうした方向に基づき、50項目程度の具体的目標を設定し、中間及び最終評価が行われる(資料2)。なお、目標の評価については、計画開始後6年の2029年を目途に中間評価を行うとともに、計画開始後10年の2033年を目途に最終評価を行うこととされている。

(2)「健康日本21(第二次)」を通じて残された「メタボ減少」課題
2013年度より開始された前計画「健康日本 21(第二次)」では、合計53項目の目標が設定され、2022年に最終評価がまとめられた。取り組みによって目標達成した項目がある一方、次期計画期間で改善すべき課題も明らかとなった。
例えば、健康寿命の延伸は、平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加を目標としている。2019年(評価年)の平均寿命は、2010年(目標策定時の現状)と比較して男性で1.86年、女性で1.15年延びたところ、健康寿命は、男性で2.26年、女性で1.76年延伸したことから、男女ともに目標を達成したといえる。
一方で、目標のうち「悪化している」結果となった4項目のうちの一つに「メタボリックシンドローム該当者・予備群の減少」(注1)があり、引き続き「健康日本21(第三次)」において、改善を要する項目といえる。
メタボは、内臓脂肪の蓄積を共通の要因として、危険因子である血糖高値、脂質異常、血圧高値を呈する病態であり、重複数が多いほど、心血管疾患や脳梗塞等の脳血管疾患、糖尿病といった生活習慣病の発症リスクが高くなることが分かっている。一方、内臓脂肪を減少させることで、それらの発症リスクを低減することができる。そこで、次章では厚生労働省が毎年とりまとめている「特定健康診査・特定保健指導の実施状況」等に基づき、メタボ人口の2050年度までの推計を試みたい。
3.2050年度までの「メタボ人口」の将来推計
(1)性・年齢階級別のメタボ該当者・予備群の割合~コロナ禍で変化も
「特定健康診査・特定保健指導」(以下、特定健康診査は「特定健診」という)は、2008年4月に生活習慣病の予防・健康づくりに資する新たな仕組みとして、40~74歳を対象に導入された。腹囲の計測等によりメタボ該当者・予備群の発見に着目した検査項目となっている(資料3)

厚生労働省が毎年取りまとめる「特定健康診査・特定保健指導の実施状況」によると、特定健診の受診者に対して、性・年齢階級別(5歳階級)にメタボ該当者・予備群の割合が公表されている。そこで、まず性・年齢階級別のメタボ該当者の割合について、その推移をみてみたい(資料4)。

メタボ該当者の割合は、男女とも高齢になるほど高くなる傾向にあり、年齢階級の上下で数倍の差がある。時系列でみると、男女とも2014年度頃までは概ね横ばいから減少傾向にあったが、2020年度にかけて増加後、やや高止まりの状態にあることがわかる。特に2019年度から2020年度にかけて、これまでの傾向とは少し異なる動きがみられた。ちょうどこの時期は、新型コロナウイルス感染症が蔓延した時期とも重なる。コロナ禍による外出自粛やテレワーク等に伴う運動不足、ストレス等の影響もあり、メタボ該当者の割合が増加したのではないかとの見方もある。その後、徐々に日常生活が戻るにつれて、横ばいもしくはやや減少傾向を示す年齢層もある。
次に、性別でみると、該当者の割合は各年ともに女性よりも男性の方がかなり高くなっている。例えば、2022年度の年齢階級70~74歳でみると、男性35.1%に対して女性13.3%、同年度の40~74歳平均では男性24.5%に対して女性7.2%となっており、男女で約3倍もの差がある。一方で、厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、メタボ判定によって予防を主眼とする生活習慣病(高血圧症、糖尿病、脂質異常症等)で通院者する人の割合(通院者率)は、男女で極端な差はない(注2)。従って、この点については後述するが、これまで蓄積された特定健診結果と医療データに基づいた男女のメタボ判定基準の検証が必要ではないかと感じざるを得ない。
(2) 「メタボ人口」の将来推計~人口減少・人口構成の変化で今後は減少
続いて、各年の性・年齢階級別のメタボ該当者・予備群の割合、わが国の年齢階級別人口と将来推計人口を用いて、特定健診開始時から2050年度までのメタボ人口、つまりメタボ該当者・予備群の男女別人口(年齢調整なしの実数)を試算し、その推移をみてみたい(資料5)。なお、試算の前提については資料5の(注)を参照いただきたい(注4)。

まず2022年度の特定健診結果より、メタボ人口は約1,671万人(メタボ該当者約978万人、予備群約694万人)となった。特定健診の対象となる40~74歳(約5,900万人)の約4人に1人が該当する。性別でみると、男性は約1,275万人(同約753万人・同約522万人)、女性は約397万人(同約225万人・同約172万人)であり、男性が女性の約3倍を占めた。
メタボ人口は、2020年度にピーク(約1,715万人)を付けた後、減少傾向に転じ、2050年度には約1,330万人とピークから約400万人、2022年度からは340万人減少する見込みである。その要因は、人口減少および人口構成の変化だ。つまり、生産年齢人口減少の余波を受けて、対象年齢の人口も減少に転じている。併せて、人口のボリュームゾーンであり、メタボ該当者割合の高まる高齢層を迎えた団塊世代が、2025年には全員75歳以上となるなど、特定健診の対象集団から外れていくといった点も考えられる。このように、人口減少と高齢化という2つの潮流がメタボ人口に影響を与える結果となった。
4.おわりに
(1)「年齢階級別の該当者割合」引き下げが急務
2050年度に向けて、年齢階級別メタボ該当者・予備群の割合が足元の状況で推移するとすれば、メタボ人口は減少する。まさに人口減少のインパクトを見せつけられた思いである。一方、資料4で示した該当者割合の推移をみると、男女の違いはあるものの、高止まり傾向といえる。つまり、こうした該当者割合の趨勢を上回る人口減少により、メタボ人口は減少に転じるとはいえ、結果として一人ひとりの健康状態が良い方向に向かったとは言えない。従って、年齢階級別に該当者割合をいかに継続的に引き下げていくかが本質的な課題であり、改善が急がれる。
「健康日本21(第三次)」で目標とする「メタボ該当者・予備群の減少」の評価方法は、2008年3月31日の性・年齢階級別人口を基準として、評価年の年齢階級別の各該当者割合を掛け合わせる形で、該当者数を算定する。基準人口を置くことで、該当者割合が低下すれば、該当者数も減少方向に動く点では、筆者が考える方向性と一致するものの、次の(2)で述べるようなデータに基づき、年齢階級毎の動きやその要因をよく分析する必要があろう。
(2)求められる「NDBオープンデータ」等を駆使したエビデンスの分析・広報
厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」によると、「20歳の時の体重から10kg以上増えた方」は、血圧、脂質異常症、高尿酸血症の有病率が高く、メタボ該当例が多いとのエビデンスが明記されている。
特定健診・特定保健指導は、スタートから既に15年以上経過し、これまでの健診結果のデータも蓄積されつつある。例えば、厚生労働省のHPには「NDB(匿名医療保険等関連情報)オープンデータ」のサイトが設けられている。レセプトデータは 2009年度から、特定健診・特定保健指導データは2008年度から蓄積されており、世界でも有数の規模と悉皆性(しっかいせい:全ての患者情報が網羅されている)を誇るデータベースであると説明している。
一方で、前述の「20歳の時の体重から10kg以上増えた方」のエビデンスは、岩手県地域住民コホート調査のデータを用いて解析されたものである。そこで、当サイトをみると、公開されているのは性年齢別や都道府県別等に集計されたエクセルデータが中心で、それぞれの傾向はみえるものの、医療データと組み合わせて、メタボ予防等に向けたエビデンスを導くことは難しい。特定健診受診者の健診結果と医療情報といった機微性の高い情報との組み合わせが必要となるため、情報公開には制約があることは理解できる。
そこで、2024年4月には「改正次世代医療基盤法」が施行され、国が認定した事業者等に対して、新たに「仮名加工医療情報」(注4)の作成・提供が可能になるとともに、「匿名加工医療情報」(注5)とNDB等の公的データベースを連結解析可能な状態で研究者等に提供できるよう制度改正された。つまり、医療情報を活用した研究の可能性が更に拡大したことから、今後、公的医療機関や研究機関等での分析及び結果のわかりやすい広報が一層求められる。
併せて、前述した男女別のメタボ判定基準の在り方についても検証し、有効性の高い予防に向けたPDCAを回す必要がある(注6)。
こうしたデータ分析に基づき、健康増進・予防に関するエビデンスを見える化し、行動変容を促すことは、取り組む側の納得感を高める上でも効果的であると考える。特定健診の対象から外れる75歳以降になっても有用ではないだろうか。その結果、「健康日本21(第三次)」が掲げる、より実効性があり誰一人取り残さない健康づくりが展開されることで、個人のウェルビーイング(幸せに満ち足りた状態)向上にも寄与することを期待したい。
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「健康日本21(第二次)」の53項目の目標のうち、悪化している項目は、「メタボリックシンドロームの該当者及び予備群の減少」「適正体重の子どもの増加」「睡眠による休養を十分とれていない者の割合の減少」「生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者(一日当たりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上の者)の割合の減少」の4項目であった。
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性別・疾病別の通院者率(人口千対)をみると、男女とも「高血圧症」が最も高く、次いで男性では「糖尿病」、「脂質異常症(高コレステロール血症等)」、女性では「脂質異常症(高コレステロール血症等)」となっており、通院率自体もメタボ該当者割合のように男女で極端な差はみられない。

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「健康日本21(第三次)」で示された「メタボリックシンドロームの該当者及び予備群の減少」の評価方法は、性別・年齢階層別(5歳階級)でメタボリックシンドローム該当者及び予備群の割合を算出し、2008年3月31日時点の住民基本台帳人口に乗じて年齢調整した推計値を算出するとされている。本稿で推計したメタボ人口は、総務省による各年10月1日現在の人口推計に基づいた人数であり、算定方法が異なることに留意が必要である。
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他の情報と照合しない限り、個人を特定できないよう加工されるが、匿名加工と異なり特異な値や希少疾患名等の削除等は不要な医療情報のこと。
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個人情報を個人が特定できないよう、また個人情報を復元できないように加工された医療情報のこと。
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新潟大学の研究チームは、日本の18~74歳の56万人の医療ビッグデータを分析し、メタボ診断におけるウエスト周囲長(WC)の基準値を、現行の「男性85cm、女性90cm」から「男性83cm、女性77cm」に修正するとともに、WCを必須項目にしなくても、心血管疾患の高リスク者のスクリーニング能力は変わらない等の研究結果を2024年3月に公表した。
なお、現在世界で使われている代表的なメタボ診断基準として、IDF(国際糖尿病連盟)基準、米国(NCEP-ATPⅢ)基準等も例示されている。
(https://www.niigata-u.ac.jp/news/2024/578851/)
【参考文献】
・厚生労働省(2022年)「健康日本21(第二次)最終評価報告書」
・厚生労働省(2023年)「健康日本21(第三次)の推進のための説明資料」
(その1)
(その2)
・厚生労働省健康・生活衛生局(2024年)「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」
・岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構、岩手医科大学内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科分野、日本医療研究開発機構(2023年)「成人期10㎏以上の体重増加と関連する生活習慣および生活習慣病を明らかに-岩手県地域住民コホート3万2千人での検討-」
・谷口智明(2023年)「【1 分解説】健康日本 21(第三次)とは?」
・谷口智明(2023年)「脱・メタボがもたらす医療費抑制のインパクト~健康増進・疾病予防に向けた行動変容で年間1兆円超の可能性~」
谷口 智明
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。