時評『世界国勢図会でつながる~気候変動問題を例に〜』

近藤 智洋

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気候変動のような地球規模課題は大事な課題とは思っていてもなかなかピンとは感じにくい場合があります。当研究所にも関連の深い矢野恒太記念会は昭和60年以来世界の社会・経済情勢を表とグラフで解説したデータブックである「世界国勢図会」を刊行しています。このデータの一部から、こうした気候変動問題と他の経済社会問題とのつながりを垣間見てみたいと思います。

[世界の温室効果ガス量の排出割合]

1990年に230億㌧強だった世界の温室効果ガスはこの約30年で356億㌧に増加しています。就中、中国の比率は10%から28%へ大きく増加しています。

[主要国の一次エネルギー供給構成]

日本は石炭が28%弱ですが中国は60%を超えます。世界の耳目が中国の今後の石炭火力比率方針に集まるのも理解できます。

[世界人口の地域別割合、国際機関の経済成長率見通し] 

世界人口のアジアの割合は80年時点でも直近でも60%前後ですが、欧州は15%から10%程度に減少しています。直近の世界総人口は80億弱で、そのうちアジアだけで40億人を超えますが、80年時点ではそもそも世界総人口が40億超程度でした。またアジアはIMFの見通しでは最も経済成長率が高い地域ですので、この地域の地球環境保全への期待と責任を感じます。

[家畜・畜産物の生産量の割合] 

牛は世界で15億頭超、豚は9.5億頭、最大保有国は前者がブラジル(14%)、後者は中国(43%)です。CO2よりも高い温室効果を有するメタンは畜産からも生じますが、その発生源の把握や制御の困難さが偲ばれます。

[つながりを深めるために]

世界国勢図会は日本国勢図会の姉妹版として刊行が開始され、人口、労働、経済、資源など各国の経済社会統計を経年的にまとめていますが、環境問題に特化した章はありません。これらのデータは、気候変動問題以前からの統計目的で収集されたものも多いのですが、こうしてみると各データ推移の背後の逐一に現下の気候変動問題とのつながりを感じます。

一方で、こうした経緯からこれらのデータはそれぞれに異なった単位が使われています。温室効果ガス排出量はCO2㌧(フロンやメタンなど様々な温室効果ガスをCO2に揃えたもの)ですし、電力消費量はkWhが、またエネルギー消費は石油換算㌧が使われます。もちろんこれらの数値は適切に換算することが可能なのですが、それらの大小増減を瞬時に把握し、気候変動問題への影響やつながりの変化を身近に感じ取るにはある程度の習熟が必要かもしれません。ご紹介したデータ以外でも例えば森林吸収源で使われる単位には炭素換算㌧(C㌧)が、CO2でもその濃度にはppm(100万分の1)が、同じように小さい単位でも金融ではベーシスポイント(1万分の1)が多く使われます。

気候変動問題に限らずつながりを深めていくときの最初のとっかかりは、自分がよく知っている分野の隣の分野が用いている単位や物差しの理解を少し深めることかもしれません。外国を理解するときに現地語を勉強したり、楽器の演奏には楽譜が、古典の理解には古典文法が、コンピューターにはプログラムコードなどが、その分野の単位や物差しに相当するのでしょう。

当研究所が昨年上梓した「「幸せ」視点のライフデザイン」では、お金、健康と並んでつながりを強化する重要性を謳っています。当研究所は経済面と生活面との両面を有しており、メンバーそれぞれが専門分野を深く掘り下げて調査研究に勤しむ一方で、それぞれの専門知識が自ずとつながることで、そのシナジー効果が生じることを企図しています。個人生活でも研究活動でもそれぞれの得意分野を持ちつつ、データなどに現れた自分のお隣の方の努力の足跡をパラパラと眺めて、その推移や相互関係の含蓄を噛みしめたり、それぞれで使われている単位・物差しの特徴や史的背景に思いを馳せたりすることは、意外につながりの強化に有効なのかもしれません。

近藤 智洋


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。