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ハンガリーは凍結された復興基金を受け取れるか?

~「脱オルバン」改革、EUが最終審査~

田中 理

要旨
  • ハンガリーは9月30日、欧州復興基金の最終支払い請求を欧州委員会に提出した。オルバン前政権下では、司法の独立性や汚職、公共調達の透明性などを巡る懸念から資金提供が凍結されてきたが、4月の政権交代後、マジャル政権はEUとの関係正常化に向けた改革を急速に進めてきた。新たな復興計画は総額約100億ユーロで、新政権は8月末までに必要な改革・投資条件を達成したとしている。ただ、今回の申請によって資金受領が確定した訳ではなく、欧州委員会が条件の達成状況を審査したうえで年末までに支払いの可否を判断する。巨額のEU資金を受領できるかは、新政権による「脱オルバン」改革の実効性と、悪化したEUとの関係修復の進展を占う試金石となる。

ハンガリーは9月30日、欧州復興基金の最終支払い請求を欧州委員会に提出した。復興基金は、コロナ危機からの経済復興に必要な財政資金を加盟国に提供する目的で2021年に創設され、南欧や東欧諸国に手厚く配分されてきた。復興基金を通じた財政支援は、①資金の一部を、返済を前提とする融資ではなく、返済が不要な補助金として提供する点や、②気候変動対策、デジタル化対応、ロシア産化石燃料依存の脱却といった欧州連合(EU)の優先課題、各国固有の構造問題などに取り組むことを追加の資金受領の条件としている点が、従来の財政支援の枠組みと異なる。復興基金からの追加の資金提供は2026年末で終了する。追加の資金受領を希望する国は、8月31日までに復興計画で合意した改革条件を達成し、それに基づいて、9月30日までに支払い請求をしなくてはならなかった。

ハンガリーはオルバン前首相の治世下で、法の支配など欧州連合(EU)の基本価値、ロシア制裁、ウクライナ支援などを巡って、EUとの対立を繰り返してきた。司法の独立性、汚職問題、公共調達の透明性などへの懸念があるとして、EUはハンガリーに対する復興基金からの資金提供を凍結してきた。資金提供を開始するには、司法の独立性やEU予算の保護などに関する27項目の条件(これをスーパー・マイルストーンと呼ぶ)を達成する必要があった。状況が大きく変わったのは、今年4月の総選挙で親EU政権が誕生したことだ(詳細は4月13日付けレポート「ハンガリーに親EU政権誕生へ」を参照されたい)。マジャル首相は5月にフォンデアライエン欧州委員長と会談し、凍結されてきたEU資金の解除に向けた改革に取り組むことを約束した。ハンガリー政府は前政権が提出した復興計画の見直しに着手し、6月に新たな計画を提出、EUはこれを7月に正式に承認した。

新たな復興計画は、返済不要の補助金が約65億ユーロ、返済が必要な融資が約35億ユーロの総額約100億ユーロで、資金受領の条件として67項目の改革と47項目の投資が盛り込まれた。新政権は発足直後から改革に着手し、公共放送の経営・編集体制の刷新、前政権が設置した治安機関の廃止、汚職やEU資金を監視する欧州検察庁への参加を決定したほか、7月には基本法(憲法に相当)を改正し、①前政権が選出した大統領の早期退任、②憲法裁判所判事の70歳定年制の復活、③憲法裁判所による予算や税制関連法に対する審査権限強化、④最高裁判所や司法行政トップの選出方法変更と任期短縮、⑤首相や国家議員の任期制限、⑥国家資産の回収・保護局の創設、⑦議会の3分の2以上の賛成が必要な法律の範囲を縮小するなどの改革に着手した(詳しくは8月12日付けレポート「ハンガリーで急速に進む「脱オルバン」改革」を参照されたい)。政府は8月末に、復興基金の受領に必要な条件を期限内に達成したと発表していた。

今回の申請により、ハンガリーが復興基金からの資金を受領できると確定した訳ではない。欧州委員会は提出された資料を基に、復興計画で記された定量・定性目標が達成されたかどうかを判断する。条件を満たしていないと判断された場合、支払いが留保されたり、減額されたりする可能性がある。条件未達と判断された部分について、来年以降に改革を追加して改めて資金を請求することは基本的にできない。新たな復興計画は約100億ユーロの総額のうち、事前資金として受け取った部分を除く、約91億ユーロが今回の最終審査の対象となる。欧州委員会は駆け込み申請をした他の加盟国からの支払い請求とともに、11月20日頃までに暫定評価をまとめ、閣僚理事会などの意見を踏まえ、12月末までに支払い決定を行う予定だ。9月だけで21ヶ国から総額1,054億ユーロの請求が提出されており、審査期間は極めて短い。

ハンガリーにとって今回の支払い請求は、単に約91億ユーロのEU資金を確保できるかを左右するだけではない。オルバン前政権下で長年にわたりEUとの対立の火種となってきた法の支配や汚職対策を巡り、4月に発足した新政権が僅か数ヶ月で進めた改革を、EUがどこまで十分と認めるかが本格的に試される。巨額のEU資金の行方とともに、オルバン時代に悪化したEUとの関係修復がどこまで進んだのかを占ううえでも、欧州委員会の審査結果が注目される。

以 上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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