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追加利上げに傾くECB

~焦点は利上げ継続の有無~

田中 理

要旨
  • 6月の利上げ開始後、7月に利上げを見送ったECBだが、その後に発表された4~6月期のユーロ圏GDPが予想以上に底堅く、PMIやドイツのIfo景況感指数も改善するなど、景気の底堅さを示す指標が相次いでいる。

  • 中東情勢の緊張が続くなか、原油価格が高止まりし、冬場の需給逼迫を警戒して、欧州の天然ガス価格も上昇が加速している。8月のユーロ圏消費者物価は前年比+3.3%と約3年振りの水準に加速し、エネルギー高の長期化による物価の上振れが警戒される。

  • 9月の理事会での追加利上げがほぼ確実視され、市場の関心はその後の利上げ継続の有無に移っている。ECB高官からも追加引き締めの必要性を指摘する発言が相次ぐが、他の物価への波及は限定的で、その後の利上げはエネルギー価格や二次的効果の行方に左右されよう。

イラン情勢の緊迫化によるエネルギー価格の高騰を受け、6月の理事会で利上げを開始した欧州中央銀行(ECB)は、7月の理事会で政策金利を据え置いた。エネルギー価格の上昇の程度や持続性、エネルギー高が他の物価に波及する二次的効果を見極めるため、新たに入手可能な経済データを確認したうえで、9月に改めて金融政策を判断する姿勢を示していた。

その後に発表された経済データを確認すると、4~6月期のユーロ圏の実質国内総生産(GDP)が前期比+0.4%と予想以上に底堅かったほか(図表1)、8月のユーロ圏の購買担当者指数(PMI)が製造業・サービス業ともに好不況の分岐点である50を上回り(図表2)、8月のドイツのIfo景況感指数が現況・期待指数が揃って一段と改善するなど、景気の底堅さを示す指標が相次いでいる。

また、イラン情勢を巡る緊張が継続するなか、ブレント原油先物価格が90ドル/バレル前後で高止まりしていることに加えて、ロシアによるウクライナ侵攻時と比べてこれまで上昇が限定的だった欧州の天然ガス価格(オランダTTF)が足元で70ユーロ/MwHを突破するなど、ガス価格にも上昇圧力が及んでいる(図表3)。欧州のガス貯蔵率が例年に比べて低水準にとどまるなか、中東産の液化天然ガス(LNG)供給の早期正常化への期待が後退し、冬場の需要期に向けたガス需給の逼迫に対する警戒が高まっていることが背景にある。

図表1
図表1

図表2
図表2

エネルギー価格の上昇加速を受け、9月1日に発表された8月のユーロ圏の消費者物価の速報値は、前年比+3.3%と約3年振りの水準に上昇が加速した(図表4)。今のところ食料品価格やコア物価への波及は限定的ながら、足元のガス価格の上昇加速や中東情勢の緊迫長期化は、先行きの物価の上振れリスクを高める恐れがある。

こうした7月理事会後の景気指標の堅調、物価の再加速、イラン情勢の緊張継続、ガス価格の上昇加速などを踏まえれば、9月9・10日のECB理事会での追加利上げの決定がほぼ確実視される。市場参加者の関心は、既に9月の利上げそのものから、その後も利上げが継続されるかどうかに移りつつある。最近のECB高官の発言からも、理事会内で9月の追加利上げを支持する方向にコンセンサスが形成されつつあることに加え、一部でその後も追加的な金融引き締めが必要との見方が広がっていることが窺える。最タカ派のシュナーベル理事が9月以降も更なる引き締めが必要になるとの認識を示したのに続き、中立派のシムカス・リトアニア中銀総裁は「9月の利上げだけでは十分ではない」と利上げ継続の可能性を示唆した。ややタカ派のマクルーフ・アイルランド中銀総裁も、9月に25bpの利上げをした後も政策金利は十分に抑制的ではないとの認識を示した。ハト派のレーン・フィンランド中銀総裁もエネルギー価格が想定以上に高止まりするリスクへの警戒姿勢を強めている。最近の主な高官発言は以下の通り。

  • シュナーベル理事(ドイツ出身、最タカ派、8月26日)

「現在の政策金利ではインフレ率が中期的に目標に戻る可能性は低く、更なる引き締めが必要」

「エネルギー高が賃金に波及するのを確認してからでは後手に回る」

  • ナーゲル・ドイツ連銀総裁(タカ派、9月1日)

「9月の理事会で何が決定されるかは比較的見通しやすい」

  • シムカス・リトアニア中銀総裁(中立派、9月1日)

「現在利用可能な全てのデータからみて、9月に利上げする可能性は非常に高く、9月の利上げだけでは足らない可能性がある」

  • レーン・フィンランド中銀総裁(ハト派、9月1日)

「中東情勢について消耗戦に備える必要がある」

「インフレ圧力に対して決して油断してはならない」

  • マクルーフ・アイルランド中銀総裁(ややタカ派、9月2日)

「9月理事会での決定は誰にとっても驚きではない」

「2.5%の政策金利は抑制的でなく、大まかに言えば、2.75%を上回ると抑制的となる」

「インフレリスクが上振れ方向に大幅にシフトするならば、政策金利を抑制的な水準に引き上げる準備をするべきだ」

図表3
図表3

図表4
図表4

以 上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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