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グリーンランドの領有問題が決着へ

~米国は軍事・経済安全保障上の足場を確保~

田中 理

要旨
  • 米国、デンマーク、グリーンランドは22日、北極圏と北大西洋地域の安全保障を強化する新たな合意に署名した。グリーンランドに対するデンマークの主権と領土的一体性、グリーンランドの自己決定権を維持する一方、米軍拠点の新設・拡張やグリーンランド全域への広範な軍事アクセスを認める。トランプ米大統領がこれまで主張してきたグリーンランドの領有は実現しなかったが、米国は北極圏での軍事的プレゼンスを大幅に強化し、非NATO諸国の軍事進出を排除する枠組みを確保した。デンマークとグリーンランドにとっては、主権と自己決定権を守りながら、米国の安全保障上の要求をNATOによる北極防衛強化の枠組みに取り込んだ形となる。

  • 今回の合意は経済安全保障面でも重要な意味を持つ。安全保障上センシティブな分野では、非NATO・非EU諸国などの投資家による支配や重大な影響力を制限する仕組みが設けられ、中国やロシアなどによる戦略的投資を抑制する方向が明確になった。一方、合意そのものは米国にレアアースなどの鉱物資源の権益を与えるものではない。重要鉱物の中国依存低下を目指す米国とEUにとって、豊富な鉱物資源を持つグリーンランドの重要性は一段と高まっており、今後は鉱山開発への投資やインフラ整備、資源の引き取りを巡って米欧が協力関係を深めるのか、競争が強まるのかが焦点となる。

米国、デンマーク、グリーンランドは22日、デンマーク領グリーンランドに関する新たな安全保障の枠組みで合意した。その内容は、①デンマークの主権と領土的な一体性を維持し、グリーンランドの自己決定権を確認する一方で、②現在のビトゥフィク宇宙基地に加え、ナルサルスアークとメステルスヴィークの2ヶ所に新たな米軍拠点を設けるとともに、米国の航空機や艦船などにグリーンランド全域と領海における広範な軍事アクセスを認めるなど、米軍の軍事プレゼンスを大幅に拡大し、③非北大西洋条約機構(NATO)諸国による軍事基地の設置や軍事的なプレゼンスを認めず、安全保障上センシティブな分野への外国投資を制限し、④北極圏防衛を米国単独ではなく、NATOを中心とする集団防衛の枠組みとして位置付ける―ものだ。合意では米軍の兵員数や拠点整備の具体的な時期は定められていない。また、米国のミサイル防衛システムをグリーンランドに配備することも可能になるが、具体的な内容は明らかにされていない。

米国のトランプ大統領はこれまで、グリーンランドの領有や購入への意欲を繰り返し示唆してきた。目的達成には軍事力や経済的圧力の行使も辞さない姿勢を示唆し、この問題は米欧間の対立の火種の1つとなってきた(詳細は1月8日付けレポート「米国がグリーンランドに関心を持つ背景」や1月19日付けレポート「グリーンランド巡り、米が欧州に関税引き上げ示唆」を参照されたい)。現在の米軍のグリーンランド駐留は、1951年の米デンマーク防衛協定を法的根拠としている。今回の合意は、既存の枠組みに新たな内容を盛り込み、米軍の活動範囲を大幅に拡張する。米国はグリーンランドの領有権を獲得しなかったが、基地の新設や拡張、ミサイル防衛システムを展開する可能性、広範な軍事アクセス、非NATO諸国の軍事的プレゼンスの排除など、安全保障上の主要な目的を確保した。一方、デンマークやグリーンランドにとっては、主権と自己決定権を明文化したうえで、米国の軍事的要求をNATOによる北極防衛強化の枠組みに取り込むことに成功した。この結果、グリーンランド領有を巡って米国が軍事力を行使するリスクや、米国と欧州諸国との貿易摩擦が一段と激化する事態はひとまず回避された。

もっとも、合意の意味合いについては、米国側とデンマーク・グリーンランド側の説明に微妙な温度差がある。トランプ大統領は、今回の合意によって米国がグリーンランドの安全保障について「恒久的なコントロール」を得るとの認識を示してきた。デンマーク側は今回の合意がデンマークの主権と領土的一体性、グリーンランド人の自己決定権を尊重するものであることを強調している。実際の協定内容をみると、米国にグリーンランドの統治権や主権が移転するわけではない。一方で、米軍にはグリーンランド全域にわたる広範な軍事アクセスが認められる。さらに、協定には終了期限が設けられておらず、変更には当事者の合意が必要とされる。そのため、米国はグリーンランドにおける長期的な軍事活動の基盤を確保したと言える。

さらに注目されるのは、将来的にグリーンランドがデンマークから独立するケースまで想定されていることだ。合意では、グリーンランドが独立した場合にもNATOにとどまり、必要な場合にはNATO加盟を申請することが想定されている。今回の合意は、グリーンランドが将来的に独立した後もNATOの安全保障圏にとどめることを念頭に置いた長期的な枠組みとみることができる。

経済安全保障面でも重要な規定が盛り込まれた。合意では、NATO加盟国・NATOのパートナー国・EU域内以外の投資家が、グリーンランドの安全保障上センシティブな分野について支配権や重大な影響力を持つことを制限する。実際の投資審査を行うのはグリーンランドで、米国が外国企業による投資を直接許認可する仕組みではない。この点は、米国の承認が必要になるとのトランプ大統領の説明よりも、グリーンランド側の権限を維持した設計となっている。この規定が事実上念頭に置いているのは、中国やロシアなどによる戦略的投資とみられる。軍事面で非NATO諸国の継続的なプレゼンスを排除すると同時に、経済面でも重要インフラなどを通じて域外国が影響力を拡大することを防ぐ仕組みとなっている。

グリーンランドの戦略的重要性が高まっている背景には、北極圏を巡る安全保障環境の変化だけでなく、豊富な鉱物資源や気候変動に伴う北極海航路の利用可能性の高まりがある。グリーンランドにはレアアースをはじめとする重要鉱物が存在し、米国やEUにとって中国依存を低下させるための潜在的な供給源として注目されている。ただし、今回の安全保障合意そのものは、米国によるグリーンランドの鉱山・資源部門への投資や資源権益について規定していない。したがって、今回の合意を米国がグリーンランドのレアアースなどの資源権益を確保したものと捉えるのは適切ではない。グリーンランドの自治政府は、EUとの持続可能な重要鉱物バリューチェーンの構築と、米国との資源分野を含む協力強化を進めている。資源開発には巨額の資金、インフラ整備、技術、長期的な引き取り先の確保が必要となる。今後の焦点は、安全保障面で米国の関与が強まるなか、グリーンランドの重要鉱物開発で米国とEUがどのような関係を構築するかに移る。中国などへの依存低下という点では米国とEUの利害は一致する一方、鉱山開発への投資や資源の引き取りを巡って競争が生じる可能性もある。

以 上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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