インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

米国とイランの協議は依然不透明、アジアや中東への影響を考える

~防衛バランス、地域情勢への影響など、さらなる長期化が事態を一段と複雑にする懸念も~

西濵 徹

要旨
  • 米国とイランはホルムズ海峡の管理を巡って対立する。米国が無償での全面開放を求める一方、イランはオマーンとの共同管理を主張するなど、今後も海峡を対米交渉の重要なカードとして利用する姿勢を示している。停戦の暫定合意後、イランによる船舶への威嚇攻撃と米国の報復が発生した。その後も航路を巡る対立が続き、米国とイランの軍事衝突が再び激化し、イラン指導部も米国やイスラエルへの報復姿勢を強めた。米国とイランの攻撃の応酬は続き、イランはフーシ派を通じてバブ・エル・マンデブ海峡の封鎖を警告するなど、戦闘が周辺地域にも拡大した。米兵の死者も発生したが、7月末にトランプ米大統領が対イラン攻撃を一時停止し、外交交渉を継続する方針を示した。

  • 米国の攻撃停止を受けてイランも報復を控え、一時は緊張緩和の兆しがみられた。しかし、その後も双方の攻撃や制裁が続いた。湾岸諸国や仲介国が対話を促す一方、イランはオマーンとのホルムズ海峡管理協議を優先し、米国との交渉は不透明な状況が続いている。イランは米国に対し、損害賠償、制裁解除、凍結資産の解放、米軍撤収、攻撃・暗殺の停止、ホルムズ海峡での主権容認という6条件を提示した。米国も対抗して補償を要求する姿勢を示しており、双方の主張の隔たりは大きく、交渉の先行きは見通しにくい。

  • 米国の対イラン攻撃停止には、防空迎撃ミサイルの在庫減少が影響した可能性がある。中東への兵力再配置によって在韓米軍などの防衛力が低下すれば、北朝鮮の軍事的挑発や中国の軍事・グレーゾーン活動を促す可能性があり、イラン情勢は東アジアの安全保障にも影響を及ぼしている。中東では、米国の関与低下やイランへの警戒を背景に、サウジアラビア、トルコ、パキスタンが共同防衛協定を締結した。一方、仲介役だったパキスタンの立場の変化により米国とイランの協議が難しくなる可能性もある。イランも強硬派を登用するなど長期対立を辞さない姿勢を示しており、戦闘再開のリスクが残っている。

イラン情勢を巡っては、米国とイランの間でホルムズ海峡の管理に関する認識の隔たりが大きく、不透明な展開が続いている。米国は、通行料なしでの完全開放を主張する一方、イランは、自国とオマーンによる共同管理を主張し、ホルムズ海峡への影響力を維持する意思を示した。背景には、イラン情勢の悪化をきっかけに、イランがホルムズ海峡を長期間封鎖し続ける意思と能力を持つことを示した経緯がある。そのため、今後もホルムズ海峡の扱いを交渉カードとして活用したいとの思惑が透けてみえる。

米国とイランによる停戦の暫定合意後、オマーンとIMO(国際海事機関)は連携してホルムズ海峡の通行確保を目的とする一時的な海上回廊の設置を決定した。この動きに対して、イランは同回廊を航行する船舶に威嚇攻撃を行った。直後に米国は報復攻撃に動いたものの、両国が協議を継続する意思を示したため、事態はいったん落ち着きを取り戻した。しかし、その後もイランはホルムズ海峡を航行する船舶に対して、イラン側(北回廊)の通行を要求し、オマーン側(南回廊)を通行する船舶には威嚇攻撃を行った。このため、米国はイランへの新たな報復攻撃を実施し、イランも湾岸諸国の米軍施設への攻撃を拡大するなど対立が先鋭化した。加えて、イランの最高指導者となったモジタバ師も、故ハメネイ師の葬儀を終えて米国とイスラエルに対する報復を主張した。

その後も米国はイランへの攻撃を継続し、イランも中東の米軍基地のほか、ホルムズ海峡を航行する船舶を攻撃した。米国とイランが攻撃を応酬するなか、イランはイエメンの親イラン勢力(フーシ派)を通じ、紅海とアデン湾をつなぐ海上輸送の要衝であるバブ・エル・マンデブ海峡の封鎖を警告した。フーシ派はサウジアラビアに対して海上封鎖を宣言し、サウジが主導する有志連合は船舶への脅威に武力で対応すると表明したため、戦火が拡大した。また、イランの攻撃では複数の米軍兵士が死亡する事態に発展したため、米国とイランの戦闘がエスカレートすることが懸念された。しかし、トランプ米大統領は7月末にイランへの攻撃を一時停止したうえで、攻撃の強化を見送るとともに、イランとの外交交渉を継続する方針を明らかにした。

米国による攻撃停止を受けて、イランも報復攻撃を控える方針を明らかにするなど、表面上は沈静化に向かう兆しがうかがえた。さらに、トランプ氏は、イランと友好的な協議を行っていると明らかにするなど協議の進展の可能性を示唆する動きをみせた。しかし、イランは中東の米軍基地を攻撃したため、米国はイランを攻撃するとともに、イランに対する追加制裁を発表するなど圧力を強める動きをみせた。湾岸諸国の要請を受ける形で米国はイランとの対話に動く方針を明らかにしたものの、イランはオマーンとホルムズ海峡の管理に関する協議を行う一方、米国に対してホルムズ海峡からの撤退を要求した。その後も、パキスタンなど仲介国が米国とイランの協議に関する情報を明らかにする一方、イランはオマーンとの協議が基本合意に至ったものの、米国との協議については言及しない展開が続いた。

こうしたなか、イランは、米国に対して6項目の条件を提示した。具体的には、①戦争に伴う損害の完全な補償(賠償金の支払い)、②イランに対する経済制裁の全面解除、③凍結されたイラン資産の無条件解放、④米軍によるイラン周辺地域や港湾封鎖の撤収・解除、⑤イランに対する侵略や攻撃・暗殺の完全停止、⑥ホルムズ海峡におけるイランの主権行使の容認、とされる。一方で、トランプ氏はイラン側の損害賠償要求に対して、米国からも補償を要求する姿勢を示すなど対抗する構えをみせる。このため、米国とイランの主張は依然として平行線の展開が続いており、見通しが立ちにくい状況にあると考えられる。

米国がイランへの攻撃を停止した背景には、米軍の防空迎撃ミサイルの備蓄が減少していることが影響したとの見方もある。イラン情勢の悪化を受けて、米軍は全世界に展開する兵力の再配分を行い、そのなかで在韓米軍の地対空ミサイル(MIM-104パトリオット)のほか、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)の一部を韓国から移動するなど、極東地域における防衛バランスへの影響が懸念された(注1)。米国の朝鮮半島への関心が相対的に低下するなか、北朝鮮にとっては、ミサイル発射をはじめとする軍事的挑発を「交渉カード」とする誘因が増している可能性がある。さらに、米国の対中抑止もままならない状況となるなか、中国は影響力拡大を目的に、軍事演習拡大、中国海警局・海上民兵・サイバー空間など「グレーゾーン活動」の活発化、経済的威圧を強める動きをみせている。したがって、イラン情勢の動向は東アジアにとっても無視できないものとなっている。

中東でも、サウジアラビア、トルコ、パキスタンの3ヵ国が「メッカ共同防衛協定」を締結した。同協定では、いかなる侵略行為にも対処できるよう集団抑止力を強化することを目的に、いずれか1ヵ国に対する武力攻撃も3ヵ国への攻撃とみなす旨を規定した。さらに、3ヵ国のあらゆる側面で防衛協力を強化することも定めた。この背景には、米国による中東への関与低下が懸念されるなか、域内協力を通じて脅威に備えたいとの3ヵ国の思惑があり、イランの脅威が後押ししたとの見方がある。一方で、米国とイランを仲介してきたパキスタンがこうした動きをみせたことで、協議そのものが難しくなり、事態の見通しも立ちにくくなると予想される。イランはここ数日間で指導部を大幅に刷新して多数のベテランの強硬派を登用するなど、対立のさらなる長期化も辞さない姿勢をみせている。このため、先行きは対立が長期化することで戦闘再開に至るリスクにも注意が必要であろう。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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