インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

米国の攻撃停止でトランプ氏の思惑通りイラン情勢は平常化するか

~ホルムズ海峡を巡る米国とイランの対立に加え、フーシ派が新たなリスク要因に~

西濵 徹

要旨
  • イラン情勢は、ホルムズ海峡の管理を巡る米国とイランの対立をきっかけに再び緊迫した。イランは海峡を交渉材料として利用する姿勢を強め、オマーンとIMOが設置した海上回廊を巡る攻撃や報復が繰り返されたことで、双方の軍事衝突は激化した。さらに、イランはフーシ派を通じてバブ・エル・マンデブ海峡の封鎖を警告し、中東全体への戦火拡大や原油供給への懸念が高まった結果、原油価格は急騰し、世界的なインフレ圧力が強まった。
  • その後、トランプ米大統領は軍事攻撃を一時停止して外交交渉を優先する方針へ転換し、イランも報復を抑制する姿勢を示したことで、原油価格は頭打ちとなった。しかし、米国は軍事的圧力を維持しつつ外交的解決を模索する一方、イランは対米交渉に慎重姿勢を崩しておらず、情勢の不透明感は続いている。加えて、フーシ派によるサウジアラビアへの攻撃拡大により、バブ・エル・マンデブ海峡が「第2のホルムズ海峡」と化すリスクも浮上しており、中東情勢は依然として予断を許さない展開が続くであろう。

イラン情勢を巡っては、ホルムズ海峡の管理を巡る米国とイランの間の認識の違いをきっかけに、再びエスカレートした(注1)。米国は、通行料なしでの完全開放を主張する一方、イランは、自国とオマーンによる共同管理を主張し、ホルムズ海峡への影響力を維持したい意思を示した。背景には、イラン情勢の悪化を受けて、イランはホルムズ海峡を長期間封鎖し続ける意思と能力があることを示すことに成功したため、今後も交渉カードとして活用したいとの思惑があるためとみられる。

こうしたなか、オマーンとIMO(国際海事機関)は連携して、ホルムズ海峡の通行確保を目的とする一時的な海上回廊の設置を決定すると、イランは同回廊を航行する船舶への威嚇攻撃を行った。これに対して、米国は報復攻撃に動いたものの、直後に両国が協議を継続する意思を示したことで、情勢はいったん落ち着きを取り戻した。しかし、その後もイランはホルムズ海峡を航行する船舶にイラン側(北回廊)の通行を要求し、オマーン側(南回廊)を通行した船舶への威嚇攻撃を行った。このため、米国はイランへの新たな報復攻撃を実施し、イランも湾岸諸国にある米軍施設への攻撃を拡大するなど対立が先鋭化した。さらに、イランの最高指導者であるモジタバ師は、故ハメネイ師の葬儀を終え、米国とイスラエルへの報復を主張した。

その後も米国はイランへの攻撃を継続した。イランも中東の米軍基地への攻撃のほか、ホルムズ海峡を航行する船舶にも攻撃を行った。米国とイランが攻撃の応酬を続けるなか、イランはイエメンの親イラン勢力(フーシ派)を通じて紅海とアデン湾をつなぐ海上輸送の要衝であるバブ・エル・マンデブ海峡の封鎖を警告した。そして、フーシ派はサウジアラビアに対して海上封鎖を宣言し、サウジが主導する有志連合は船舶への脅威に武力で対応すると表明するなど戦火が拡大した。このため、戦火が中東全体へ拡大することが警戒された。また、イランの攻撃により複数の米軍兵士が死亡したため、米国とイランによる戦闘が一段とエスカレートすることも懸念された。こうした事情を警戒して、金融市場では原油価格が急上昇して一時1ヵ月半ぶりの水準となるなど、世界的なインフレ圧力が再び高まる可能性も強まった。

これを受けて、トランプ米大統領は7月25日に2週間ぶりにイランへの攻撃を一時停止し、攻撃の強化を見送るとともに、イランとの外交交渉を継続する方針を明らかにした。この方針転換を巡っては、防空迎撃ミサイルの備蓄減少が影響したとの報道も出ている。しかし、米軍による攻撃停止を受け、イランも報復攻撃を控える旨を明らかにしており、表面上は沈静化に向かう動きをみせている。その後も、トランプ氏はイランと「友好的な協議」を行っていることを明らかにしたうえで、進展する可能性を示唆した。このため、金融市場ではイラン情勢の悪化を理由に急騰した原油価格が頭打ちに転じている(図1)。トランプ氏については、11月に実施される中間選挙に向けた選挙戦を有利にすべく、インフレの沈静化とFRB(米連邦準備制度理事会)による利下げを切望しているとされる。こうした対応は、金融市場が期待した「TACO(トランプ氏による尻込み)」と捉えられている可能性がある。

図表
図表

トランプ氏は、イランに対して外交的解決を強硬に迫る一方、協議が決裂すれば強力な軍事行動に動くと警告する姿勢を維持している。一方で、イランは対米交渉に否定的な姿勢を示している。とはいえ、米国もイランもともに事態が一段とエスカレートすることを望んでいない点では一致しているとみられる。ただし、足元では新たなリスクが顕在化している。フーシ派はサウジに対して海上封鎖を宣言するとともに、サウジのドローンによる領空侵犯への対抗措置として、サウジ東部のほか、原油の供給・輸送に関連する複数の重要施設への攻撃を行っている。フーシ派は親イラン組織ではあるものの、その行動原理は必ずしもイランと一致している訳ではない。結果として、2022年に成立したイエメンの停戦が崩壊して全面戦争に突入し、バブ・エル・マンデブ海峡が「第2のホルムズ海峡」となる可能性も考えられる。トランプ氏は、フーシ派とサウジによる攻撃の応酬について、問題が起きれば対処するとの考えを示しているが、軍事介入の対象を広げるハードルは高い。このため、金融市場の安心感が定着するかは依然として不透明であり、中東情勢は予断を許さない状況が続くとみられる。

以 上

注1 7月21日付レポート「再びエスカレートするイラン情勢

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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