インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ラクソン政権に黄信号、ニュージーランド総選挙の行方

~支持率低迷と党内対立、新興政党の躍進で選挙後の連立も不透明に~

西濵 徹

要旨
  • ニュージーランドでは11月7日の総選挙を前に、ラクソン首相率いる国民党政権が厳しい状況に置かれている。2023年に発足したラクソン政権は、経済再建を掲げたものの、高金利や物価高、中国経済の低迷などから景気回復が遅れ、政権支持率は低下している。足元ではAI・半導体関連投資を背景に景気が持ち直しつつあるものの、原油高によるインフレ再加速とRBNZの利上げが新たな景気下押し要因となっている。

  • こうした支持率低迷を背景に、国民党内ではラクソン首相の指導力への不満が強まっている。ラクソン氏は党内の信任投票を乗り切ったものの、企業経営者への不適切発言、選挙制度を巡る党内調整不足などが混乱を招いた。さらに、党首交代の動きに関与したとして国防相を更迭するなど、党内対立も表面化しており、ラクソン氏の求心力低下が鮮明になっている。

  • 一方、最新の世論調査では労働党と国民党が拮抗するなか、中道の新興政党オポチュニティ党が支持を伸ばし、議席獲得の目安となる5%を上回った。既存の与野党いずれも安定多数を確保できない可能性があり、同党が選挙後の政権樹立で「キャスティングボート」を握る可能性がある。ただし、国民党とは政策や税制面で隔たりが大きく、ラクソン氏も連携を否定しているため、総選挙の結果だけでなく、その後の連立交渉も難航する可能性が高い。

目次

【総選挙まで残り3ヵ月、ラクソン政権の支持率下落に歯止めがかからず】

ニュージーランドでは、11月7日に代議院(一院制(基本定数120議席))の総選挙の実施が予定されており、残り3ヵ月を切るなか、選挙戦が本格化している。2023年に実施された前回総選挙では、二大政党(中道右派の国民党(48議席)、中道左派の労働党(34議席))がともに単独で半数を上回る議席を獲得することができなかった。その後、国民党を中心に、右派のACT党(11議席)、右派ポピュリスト政党のニュージーランド・ファースト党(8議席)の3党連立によるラクソン政権が発足し、6年ぶりの政権交代が行われた(注1)。

ラクソン氏は長らく経済界に身を置いてきたため、経済の立て直しを政策運営の軸に掲げた。しかし、インフレ抑制を巡ってRBNZ(ニュージーランド準備銀行)の金融引き締めが後手に回ったとの懸念が高まるとともに、高金利と物価高の共存が景気の足かせとなり、2024年の経済成長率は▲0.31%と4年ぶりのマイナス成長となった。その後はインフレが鈍化に転じたことを受けて、RBNZは一転して金融緩和に舵を切ったものの、最大の輸出相手である中国経済の低迷が外需の足かせとなり、2025年の経済成長率も+0.26%にとどまるなど力強さを欠く展開が続いた。その結果、世論調査においてラクソン政権の支持率は低下傾向に歯止めがかからず、国民党の支持率も労働党を下回るなど、総選挙に向けて厳しい状況に直面している。

年明け以降の景気については、世界的なAI(人工知能)・半導体関連投資の旺盛さを追い風にしたデータセンター関連投資などの活発化を受けて持ち直しの動きをみせている。一方、イラン情勢の悪化を受けた原油高が物価を押し上げており、4-6月期のインフレ率は前年比+4.1%と2023年10~12月期以来の高い伸びとなった。インフレ率は3四半期連続でRBNZのインフレ目標レンジ(2±1%)の上限を上回った。RBNZは7月の定例会合で約3年ぶりの利上げに踏み切った(注2)。RBNZは今後の会合でも追加利上げが必要となる可能性を示唆しており、持ち直しつつある景気への下押し圧力が懸念される。こうした事情も、ラクソン政権の支持率が一向に上向かない一因になっている可能性がある。

{{{image1}}}

【国民党内でラクソン氏の求心力低下が顕在化】

政権や国民党の支持率低下に歯止めがかからないなか、国民党内ではラクソン氏に対する圧力が高まっている。今年4月には、一部の国民党所属議員が党首交代を求めているとの報道が出たことを受けて、所属議員による信任投票が実施された。ラクソン氏は信任投票を乗り切り、総選挙に向けて局面打開を図ると目された。しかし、直後に発表した7月からの2026-27年度予算は、総選挙前の時期であるにもかかわらず、現金給付や大型減税といった生活費対策を抑え、財政黒字化の時期を前倒しする方針を示すなど、「最小限の予算案」となった。

ラクソン氏は企業経営者を前に行った講演において、中小企業経営者に「高圧的」とも取れる発言を行い、その後に謝罪した。加えて、ラクソン氏は現行の選挙制度の是非を問う国民投票の実施に前向きな考えを示した。同国では、少数政党が議会から締め出されている、代表性の改善を求める議論などを背景に、1993年の国民投票を経て1996年の総選挙から小選挙区比例代表併用制(MMP)が導入された。近年は、MMPの複雑さや、連立政権を必要とするなどの批判もあるが、2011年に実施された国民投票では有権者の57.8%が賛成して制度が維持された経緯がある。こうしたなか、ラクソン氏は党内調整を経ず前述の発言を行ったとされる。連立内では、経済問題や少数民族を巡る問題で足並みの乱れが生じていたが、ラクソン氏の今回の発言が新たな亀裂を生じさせた。こうした一連の混乱も、政権や国民党の支持回復を妨げる一因となっている可能性がある。

その後、国民党ではラクソン氏の指導力を巡る憶測が広がり、8月12日に党所属議員による信任投票が再び実施される事態となった。ラクソン氏は緊急会合の直後に全面的な支持を得たと述べるなど、今回も信任投票を乗り切った。一方で、ラクソン氏は、党内での党首交代を求める動きに関与したことを理由にペンク国防相を更迭し、後任をゴールドスミス法相が兼務する閣僚人事を発表した。このように党内対立の火種は残っており、指導力は着実に低下しているとみられ、選挙戦の行方は見通せない状況にある。

【足元では新興政党の躍進も、総選挙後の政権発足には紆余曲折が予想される】

最新の世論調査では、労働党と国民党の支持率が拮抗する一方、議会に議席を持たない中道の小政党であるオポチュニティ党の躍進が確認された。オポチュニティ党の支持率は、議席獲得に必要となる5%を初めて上回り、小選挙区で議席を獲得できない場合に議席配分を受けるための基準をクリアする可能性が出ている。前述の通り、ラクソン氏の選挙制度を巡る発言をきっかけに連立内に新たな亀裂が生じているが、従来の枠組みでは与野党いずれの陣営も安定多数を確保できない状況にある。このため、オポチュニティ党が総選挙後の政権発足のカギを握る可能性が高まっている。とはいえ、オポチュニティ党の政策や税制を巡っては、国民党の主張とかけ離れており、ラクソン氏も同党との連携を否定している。このため、総選挙の行方のみならず、その後の政権発足に向けて紆余曲折が予想される。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ