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2024.05.31
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南ア総選挙、与党ANCが初の半数割れへ、ランド相場は混乱必至か
~連立協議の行方が政治動向を大きく左右、当面のランド相場は商品高と政局の動きが綱引き~
西濵 徹
- 要旨
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- 南アフリカでは29日に議会下院総選挙が行われた。今回の総選挙では民主化以降に与党の座を守ってきたANCの動向に注目が集まってきた。開票途中段階ながらANCの得票率は50%を下回るなど初めて獲得議席数が半数を下回る可能性が高まっている。最終結果を経て14日以内に大統領、議長、副議長の選出が行われるが、円滑な進捗のためにはANCが他党と連立を組む必要性が高まっている。金融市場が最も望ましいと判断するのは白人中心で第2党のDAと見込まれるが、ANC支持層の間にDAへの忌避感が根強いことを勘案すればハードルは高い。他方、MKやEFFなどは反欧米色が強く、経済・外交政策が海外からの投資などに悪影響を与える可能性がある。商品市況の上昇を受けて底入れしたランド相場は大きく調整しており、当面は商品高と政局の動きが綱引きする展開が続くことは避けられないであろう。
南アフリカでは29日に5年に一度の議会下院(国民議会)総選挙が行われた。今回の総選挙を巡っては、1994年の民主化以降一貫して与党の座を守ってきたANC(アフリカ民族会議)の動向に注目が集まってきた。2021年に実施された統一地方選挙では同党の得票率が初めて50%を下回り、党勢低下が意識されてきたなかで明確な退潮が確認されたほか、その後の世論調査においてもANCの支持率は50%を下回る推移が続くなど厳しい選挙戦を迫られることが予想された。こうした背景には、ここ数年の同党政局を巡る『政治とカネ』の問題、党内派閥争いの激化を受けて同党支持者の間に『うんざり感』が強まっていること、長期に亘るANC政権の下で同国経済は一向に改善せず社会経済格差が深刻化していることなどが挙げられる。最終盤にかけては低下傾向が続いたANCの支持率に下げ止まりの兆しがみられたほか、一定程度が投票行動を明確にしていなかったため、最終的には政治の安定を重視してANCの得票率が下支えされるといったいわゆる『逆バネ効果』を見込む向きもみられた。なお、このように総選挙後の政局を巡っては如何様にも動き得る状況にあるにも拘らず、このところの同国通貨のランド相場は強含みする動きをみせるなどそうした懸念を無視しているような展開をみせてきたものの(注1)、この背景にはこのところの国際金融市場において米ドル高の動きに一服感が出ていることに加え、主要鉱物資源であるプラチナや金など非鉄金属価格が底入れしていることが影響したと考えられる。現時点においては開票中ながら、ANCの得票率は40%台で推移するなど世論調査で予想された通りの動きをみせており、ANCは第1党の座を維持するも獲得議席数が初めて半数を下回る可能性が高まっており、今後の政権運営を巡っては他党との連立が避けられなくなっている。各種報道によると、開票率49.39%段階における主要政党の得票率はANCが42.90%に留まり、白人が率いる最大野党のDA(民主同盟)は23.37%、ANCの前議長で前大統領のズマ氏が率いる新党のMK(民族の槍)は10.26%、2019年の前回総選挙で躍進した左派政党のEFF(経済的解放の闘士)は9.54%と続いている。今後はIEC(独立選挙管理委員会)による最終結果の発表を受けて、14日間のうちに選出された新たな下院議員により大統領、議長、副議長の選出を行う手続きが進められるが、円滑な手続きの進捗に向けてANCは他党との連立協議が必要になる。金融市場が最も好ましいと判断するのは、同国においてヨハネスブルク=プレトリアに次ぐ経済規模を有するケープタウンを擁する西ケープ州で与党の座を担うほか、その経済政策で実績を上げているDAとの大連立であろう。ただし、国民の8割を黒人が占めるとともに、ANC支持層の間には依然として白人が率いる政党への反発が根強いことを勘案すれば、こうした『抱き付き作戦』は反ってANC支持層の離反を招く懸念を孕むなどハードルが高いのが実情であろう。他方、MKを率いるズマ氏は長らくANCの中枢に居たことを勘案すれば最も反発が低いと見込まれる一方、ここ数年のANC内ではラマポーザ大統領派とズマ前大統領派の派閥争いが激化するとともにズマ氏が党を割る一因になったことを勘案すれば、仮に両党が連立を組んでも穏便に事態収束が図られるかは見通せない。さらに、EFFはマルクス・レーニン主義や反資本主義を党是とするほか、白人が所有する土地の強制収容や資源関連産業の国有化などポピュリズム色が強い主張を展開しており、経済や外交政策面での混乱は必至と見込まれる。また、ここ数年の世界経済を巡ってはコロナ禍やウクライナ戦争などを経て欧米などと中ロとの間で分断の動きが広がるなか、MKやEFFは反欧米色の強い主張を展開しており、ラマポーザ政権が外交政策面で親ロ、親パレスチナ色を強めるなど欧米などと距離を置く姿勢をみせてきたなかでそうした動きが一段と加速する事態も予想される。そうなれば欧米などをはじめとする海外からの投資が萎縮して実体経済の足かせとなる懸念も高まるなど、政治のみならず、経済を巡っても混迷の度合いが一段と増すことも考えられる。こうした懸念を反映して、足下のランド相場は一転して調整の動きを強めるなど風向きが一変する様相をみせている。中銀は30日の定例会合において、総選挙直後というタイミングも影響して政策金利を6会合連続で8.25%に据え置くなど中立姿勢を維持したが、先行きのインフレを巡ってリスクは均衡する一方で期待は高止まりしており、早急に目標実現を図る必要があるとの認識を示している。他方、ランド相場の混乱は輸入インフレを通じた新たなインフレ要因となる可能性もあり、景気低迷が続くなかで物価抑制に通貨防衛という難しい対応を迫られることも予想される。当面のランド相場は商品市況の動き(プラス要因)と政治を巡る不透明感(マイナス要因)の綱引きが続くであろう。

注1 5月23日付レポート「総選挙を前に強含む南アランドは「実力」を反映した動きなのか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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