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2026.06.12
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トランプ氏「週末にも合意署名」と表明、今度は本当か?
~繰り返される「TACO」が金融市場の健全性を脅かしている可能性~
西濵 徹
- 要旨
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- トランプ米大統領は6月11日、イランとの和平合意について、早ければ週末にも署名できるとの見通しを示し、締結されればホルムズ海峡の封鎖解除につながるとした。合意進展を理由に、イランへの「強力な攻撃」も中止した。合意は核兵器不保持を含む「非常に強力な覚書」だと強調した。しかし、イラン側は合意の最終決定を留保しており、制裁解除やホルムズ海峡の管理権承認など従来の要求は譲らない構えを崩さない。仮に合意が署名されても、米国、イラン双方が「勝利」を主張できる玉虫色の内容にとどまる可能性が高い。
- トランプ氏の攻撃中止、合意表明を受けて市場ではリスク選好が高まった。しかし、4月の停戦合意以降、同様の表明が40回近く繰り返されては反故にされており、市場はトランプ氏を「オオカミ少年」視する傾向を強めている。要人発言に振り回される「ヘッドライン相場」と投機色の高まりは、健全な資産運用環境の醸成を妨げるリスクとなる。仮に合意が成立しても、ホルムズ海峡の正常化や湾岸産油国のインフラ復旧には相当の時間を要するとみられ、原油価格の回復も緩やかなものにとどまろう。また、イスラエルは合意の当事国でないとの立場を維持しており、中東情勢の「ボトルネック」となり続けている。現状においては、過度な楽観、悲観を避けつつ、慎重に「最善策」を模索する姿勢が求められる。
【トランプ氏は合意が近付いていると表明も、依然イランとの間に「温度差」】
トランプ米大統領は米国時間の6月11日、イランとの戦闘終結に向けた和平合意について、早ければ週末にも署名できる可能性があることを明らかにした。署名式にはバンス副大統領が出席するとしたうえで、合意が締結されれば、イランによる事実上の封鎖状態が続いているホルムズ海峡の通行が再開されるとした。
トランプ氏はこのところ、イランとの協議が難航していることに加え、イランとの間で散発的な攻撃の応酬が続いたことを受けて、イランに対して「極めて強力な」攻撃を行う方針を示してきた。しかし、和平合意の進展が確認されたことを理由に、攻撃開始の直前に一転してこれを中止することを明らかにした。
トランプ氏は、イランとの合意について「非常に強力な覚書」としたうえで、双方の認識に若干の相違はあるとしつつ、必ず実現すると述べた。そのうえで、イランの最高指導者であるモジタバ・ハメネイ師が合意を了承したとの認識を示した。同氏はこれまで繰り返しイランによる核兵器の開発阻止を主張してきたが、イランが決して核兵器を持たないという合意を得たとの見方を示した。
その一方、イラン側はトランプ氏の見方と異なる認識を示している。イランメディアによれば、交渉文書の大部分は最終決定されたとしつつ、交渉における「レッドライン(譲れない一線)」については妥協しないとの考えを強調している。イランは合意についてまだ最終決定していないとしたうえで、現在は関連する意思決定機関が検討しているとするなど、トランプ氏の認識との間に「温度差」がうかがえる。
背景には、国際的な経済制裁や資産凍結の解除のほか、ホルムズ海峡における管理権の承認をイランが再三にわたって要求してきたことがある。トランプ氏はイランによる核兵器の保有を認めない合意と説明したものの、イランは明確にこれを拒否する姿勢を示してきた。したがって、仮に合意が署名されたとしても、その内容は米国、イラン双方が「勝利した」と主張できる玉虫色のものとなる可能性が高い。
【市場は「ヘッドライン相場」の様相、健全な資産運用環境が阻害されている懸念も】
トランプ氏がイランへの攻撃中止とともに、合意の締結が近付いていると発表したことを受けて、金融市場では中東情勢の好転への期待が高まるとともに、リスク選好を強める動きがみられる。なお、過去にはトランプ氏は最初は強硬姿勢で相手を威嚇する動きをみせるものの、株価や経済への悪影響を恐れて方針転換する動きを繰り返してきた。こうした動きを市場は「TACO(トランプ氏はいつも尻込みする)」という造語で揶揄する向きをみせてきた。足元の金融市場を巡る動きもそうした状況と同様と捉えることができる。
その一方、トランプ氏によるTACOが繰り返されたことを受けて、金融市場はトランプ氏をはじめとする要人による発言をきっかけに揺さぶられるなど、いわゆる「ヘッドライン相場」の様相をみせてきた。4月に米国とイランが停戦に合意して以降、トランプ氏はすでに40回近くイランとの合意が近付いていると表明しては、直後に反故にされる展開が続いてきた。市場がヘッドライン相場の様相を強めるなど投機色も強まっており、その結果として健全な資産運用に向けた環境醸成が阻害されていることは無視できない。
今回トランプ氏が表明したように、米国とイランとの合意が署名に至るとともに、中東情勢の緊迫化が後退することは、世界経済にとって極めて望ましい。とはいえ、仮に早期に事態収束が図られたとしても、ホルムズ海峡の正常化には相応の時間を要すると見込まれる。また、イランによる攻撃により、湾岸産油国のインフラ復旧に最大で数年を要する可能性がある。このため、原油価格が以前の水準に回帰するには時間がかかる可能性は高い。
なお、トランプ氏は合意について、イスラエル、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)など域内諸国も承認したと説明している。しかし、イスラエルのネタニヤフ首相は、トランプ氏と行った電話会談後の声明において、イスラエルはイランとの覚書の当事国ではないとの考えを示すなど、距離を置く姿勢を維持している。米国とイランによる協議を巡っては、イスラエルがレバノンに対して攻撃を継続したことを理由に、度々交渉が行き詰まる動きがみられた。その意味では、中東情勢を巡ってイスラエルが「ボトルネック」になってきたことは否定できない。したがって、現時点においては過度に楽観に傾くのでもなく、その一方で過度に悲観に傾くことにも距離を置きつつ「最善策」を取る対応を維持していく必要性が高まっている。
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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