インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

豪ドルは中東情勢の緊迫化のなかで「勝者」となるか?

~資源・穀物輸出国ながら、エネルギー供給面で構造的な脆弱さを抱えることには要注意~

西濵 徹

要旨
  • 中東情勢の緊迫化によるホルムズ海峡の事実上封鎖を受け、エネルギー価格や肥料価格が大幅上昇している。さらに、エルニーニョ現象による異常気象も懸念され、穀物価格がさらに上昇し、世界的にインフレが高まる可能性が高まっている。こうしたなか、オーストラリアはエネルギーと穀物の豊富な輸出国として金融市場の注目を集めている。

  • オーストラリアは世界有数のエネルギー資源や穀物の輸出国である。また、RBAは連続利上げを実施し、金融市場はさらなる利上げを予想している。こうした見通しから豪ドルは上昇し、日本円に対して36年ぶりの高水準となっている。原油高とエネルギー輸出による経済効果、また石炭回帰による需要増が期待され、豪ドル強含みの要因となっている。

  • 原油高はマクロ的には豪州経済にプラスとなるが、同国は燃料需要の8割を輸入に依存しており、戦略備蓄もほぼ存在しない。近年は国内の製油所が減少しているうえ、15日には同国最大の製油所で火災が発生した。この製油所は全国燃料需要の10%を供給しているが、アルバニージー首相は追加対策を講じない方針を示している。サプライチェーン混乱に伴い、当面は石油製品の輸入依存が強まり、エネルギー価格上昇圧力の高まりは避けられない。

  • 2月のインフレ率は3.7%、コアインフレ率は3.3%と、いずれもRBAの目標(2~3%)を上回っている。豪ドル高による輸入物価抑制や金融引き締め効果により、インフレ圧力の軽減が見込まれるほか、住宅価格の上昇も一服している。一方、エネルギーや食料品などの物価上昇がインフレを高止まりさせる可能性があり、RBAのタカ派姿勢は緩みにくく豪ドルはさらなる強含みの余地がある。

  • 日本は同国が加わるAZECプラスに総額100億ドルの金融支援を表明しており、両国の結びつきを強めることが期待される。

中東情勢の緊迫化は世界経済を揺さぶっている。イランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖を受けて、原油や天然ガスなどエネルギー価格は高止まりしている。さらに、湾岸産油国は窒素系肥料の原料である尿素の世界輸出量の3分の1を占めており、供給懸念を理由に窒素系肥料の国際価格は大幅に上昇している。肥料価格の上昇は、農家による作付動向に影響を及ぼし収穫量の行方を握るなど、世界的な作物需給を左右すると予想される。そのうえ、2026年の夏ごろにかけてエルニーニョ現象が発生する可能性が高まっており、世界的な異常気象とそれに伴う不作が懸念される。足元では、中東情勢の緊迫化を受けて穀物価格はすでに上昇しており、先行きは一段と上昇ペースを強めることも考えられる。その結果、食料品とエネルギーという生活必需品を中心とする物価上昇が進むなど、世界的なインフレを引き起こす可能性が高まっている(注1)。

こうしたなか、金融市場ではオーストラリアに注目が集まっている。同国は、世界の石炭輸出量の4分の1、LNG(液化天然ガス)輸出量の2割を占めるなどエネルギー資源が豊富である。さらに、世界の小麦輸出量の15%、大麦輸出量の約2割を占める穀物輸出国という特徴も有する。こうした事情も、資源価格や穀物価格の上昇は同国経済の追い風になるとの見方につながっている。RBA(オーストラリア準備銀行)は2月、3月と2会合連続で利上げを実施するなど、金融引き締めを進めている。先行きは生活必需品を中心とするインフレが懸念されるため、金融市場はRBAが一段の利上げに動くとの見方を強めている。こうした見方を反映して、豪ドル相場は上昇を強めており、日本円に対しては約36年ぶりの高水準をつけた。同国の原油や石油製品、天然ガスの収支(輸出入の差し引き)はGDP比0.8%程度の黒字と試算されるため、このところの原油高はマクロ的に景気の押し上げ要因となることが期待される。さらに、中東情勢の緊迫化による原油高やサプライチェーンの混乱を受けて、アジア新興国のなかには石炭回帰の動きが広がることで石炭価格も上昇しており、石炭の輸出国である同国経済の追い風となることが期待される。こうした事情も、このところの豪ドル相場が強含みする一因になっていると考えられる。

図表
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ただし、足元の原油高は中東情勢の緊迫化という供給要因がきっかけとなっており、同国においても供給制約の問題に直面することに留意する必要がある。同国では、国家としての戦略備蓄はほぼ存在しないとされる。民間企業にMSO(最低備蓄義務)が課されているものの、ガソリンやジェット燃料、軽油などの備蓄量はそれぞれ1ヶ月分にとどまるとされる。同国はIEA(国際エネルギー機関)に加盟しており、加盟国は90日分の備蓄を義務としているにもかかわらず、実際には長年にわたってこの基準を満たしていない状況にある。そのうえ、同国には2000年ごろまで8つの製油所が存在していたものの、近年の産油量の低下を背景に閉鎖が進み、現在稼働している製油所は2つのみとなり、燃料需要の8割を輸入に依存している。こうしたなか、4月15日にヴィクトリア州にある同国最大の製油所で火災が発生した。同製油所の処理能力は1日当たり最大12万バレルであり、ヴィクトリア州で使用される燃料の半分以上、豪州全体の燃料需要の10%を供給している。火災発生を受けて同製油所の稼働率は低下しており、供給の懸念が高まっているものの、アルバニージー首相は3月に策定した国家燃料安全保障計画に基づく措置を強化することはないとの考えを示している。なお、同製油所は向こう数週間以内に稼働率が90%に回復し、供給継続が可能とする報告を規制当局に行っているとされる。背景には、同製油所が調達する原油が米州や東南アジア、オーストラリア国内のものが大部分を占めており、中東情勢の緊迫化による影響を受けにくいことがある。とはいえ、サプライチェーンの混乱を受けて、当面は石油製品の輸入依存を強めざるを得ず、原油高の影響も重なる形でエネルギー価格の上昇圧力が強まることは避けられないであろう。

図表
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直近2月のインフレ率は前年同月比+3.7%、コアインフレ率(トリム平均値)も同+3.3%、RBAが月次の物価統計のなかで比較的注視してきた物価変動の大きい財と観光を除いたベースのインフレ率も同+4.1%と、いずれもインフレ目標(2~3%)の上限を上回る伸びとなっている(注2)。前述のように、豪ドル高が進んでいることは輸入物価を抑えることが期待されるほか、先行きはRBAによる金融引き締めの効果も徐々に現れてインフレ圧力が徐々に軽減することも見込まれる。事実、足元ではRBAによる利上げ実施や、先行きも一段の利上げに動くとの見方を反映して、シドニーやメルボルンなど大都市部で住宅価格上昇の動きに一服感が出ており、インフレを押し上げた家賃上昇の動きが変化する兆しも出ている。一方で、エネルギーや食料品など生活必需品を中心とする物価上昇がインフレ率を高止まりさせる可能性があり、RBAがタカ派姿勢を緩める状況は見通しにくい。その意味では、オーストラリア経済は中東情勢を巡る「勝ち組」とは判断できないものの、豪ドルについてはさらなる強含みの余地は小さくない。

図表
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なお、先日開催された東南アジア諸国やオーストラリアで構成されるアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)に、韓国やバングラデシュ、東ティモールが加わる「AZECプラス」のオンライン首脳会合において、日本は原油や石油製品の調達円滑化を目的に総額100億ドルの金融支援を実施することを表明している。こうした取り組みは、オーストラリアに進出する日本企業の活動を支援することに加え、エネルギーや穀物などを同国からの輸入に依存する日本にとっても結びつきを強固にする一助になると期待される。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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