インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

韓国・李政権発足1年、統一地方選は与党が勝利したけれど

~首都ソウルでの敗北は与党内の主導権争いに発展する可能性に注意~

西濵 徹

要旨
  • 韓国の李在明大統領は、4日に就任1年を迎えた。就任前には「反日」と懸念されたが、保守派も取り込んだ「中道路線」と「実用外交」を掲げ、日本とのシャトル外交など良好な関係を構築している。経済面では、コーポレートガバナンス改革の継続・強化や、AI関連投資も追い風に主要株価指数(KOSPI)が最高値を更新している。政策の予見可能性の高さが評価を高めており、支持率も64%と高水準を維持している。
  • 6月3日の統一地方選・補欠選挙では、共に民主党が広域自治体首長選で16自治体のうち12自治体、補欠選で14選挙区中9選挙区を制し全体的に優位を維持した。一方、最重要の首都ソウルでは与党が敗北し、国民の力が4自治体を死守した。司法の独立性への懸念の高まりが選挙戦終盤にかけて野党の追い風になったとみられる。ソウル敗北は李氏への打撃であり、党内非主流派という立場や対日姿勢への党内批判、さらに司法改革をめぐる懸念の高まりが政権運営の懸念材料となりうる。与党内の主導権争いの動向にも引き続き注意が必要である。
目次

【李在明政権発足1年、外交・経済面の成果を追い風に高い支持率が続く】

韓国では4日、李在明(イ・ジェミョン)大統領の就任から丸1年となった。李氏を巡っては、就任前の言動を理由に「反日」と懸念する向きが少なくなかった。しかし、大統領選にあたって選挙対策組織に保守派のみならず、党内反主流派からも人材を登用して「中道路線」を打ち出し、幅広い支持の取り込みを図った。さらに、外交方針については国益に基づく「実用外交」を掲げるとともに、就任以降は日本とシャトル外交を展開するなど、良好な関係構築が進められている。少なくとも現時点においては、事前の懸念は後退していると考えられる。

経済政策面では、主要株価指数(KOSPI)が大幅に上昇して最高値を更新するなど金融市場は活況を呈している(図1)。背景には、李政権が尹錫悦(ユン・ソンニョル)前政権が実施したコーポレートガバナンス(企業統治)改革の取り組みを維持しつつ、韓国企業の相対的低評価(コリアディスカウント)解消に向け、商法改正など施策を強化したことがある。具体的には、取締役に企業のみならず、すべての株主への説明責任を負わせたうえで、財閥企業でのオーナーなど大株主優遇による不合理な合併やスピンオフの抑制により少数株主の利益を守る内容が強化された。また、アクティビスト(物言う株主)や個人投資家が企業の意思決定に関与しやすい環境整備なども進められた。こうした環境整備に加えて、世界的なAI(人工知能)関連投資の活況は、時価総額上位の半導体関連株が株価上昇をけん引する動きにつながっている。

図表
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李政権の発足当初、保守政権から革新政権に転換されることで、外交、経済政策の両面で不透明感が高まるとの見方が少なくなかった。筆者も当初は同様の見方をしていた。しかし、李政権が政策運営に当たって現実路線を取る姿勢を維持するなど政策の予見可能性が高まっていることが、国内外で李政権への評価が高まる一因になっている可能性がある。就任1年が経過するなか、李氏の最新の支持率は64%と、高水準の維持にもつながっている。

【統一地方選は与党勝利も、首都ソウルでの敗北の影響に注意】

3日には、李政権下で初めて行われる全国規模の選挙で、政権への「中間評価」と目される統一地方選挙と国会議員の補欠選挙が実施された。当初は、前述のように外交、経済面での成果も追い風に、李政権を支える革新系与党の共に民主党が圧勝するとの見方が示されていた。しかし、選挙戦の終盤にかけては、保守系最大野党の国民の力が支持層を固めて猛追する動きが確認され、一部で激戦となっている旨が伝えられた。尹前大統領の非常戒厳発令を機に保守層が分裂し、その立て直しが急務となるなか、最終盤には李明博(イ・ミョンバク)元大統領も応援演説に入り、結束を呼び掛ける動きもみられた。さらに、「選挙の女王」との異名を持ち、一部の保守層から根強い人気を誇る朴槿恵(パク・クネ)元大統領が、国民の力の候補の応援演説に入り各地で支持者が集結する動きもみられた。2017年に弾劾された朴氏にとって9年ぶりの政治活動として注目を集めた。この動きは、国民の力による猛追を後押しした可能性がある。

なお、李氏は北朝鮮への不正送金疑惑、公職選挙法違反など計5件の刑事裁判を抱える。大統領就任に伴い審理は停止されているものの、退任後に再開される見通しである。こうしたなか、李政権の発足以降、政府・与党は政権の意向に沿った政治的な捜査がたびたび問題視されてきた検察の廃止を決定した。さらに、最高裁判所による確定判決について、革新寄りとされる憲法裁判所が審理可能とする制度改正、判事や検事が誤った法を適用した場合に罰する「法歪曲罪」を新設した。国会は4月、李氏が任命する特別検察官が起訴の取り下げを可能にする法案を提出したが、その直後に批判が高まり、政府・与党は国会審議を統一地方選後に延期したものの、一連の動きは「司法の独立性」への懸念を招いている。こうした懸念も野党の追い風になったと考えられる。

投票率は61.0%となり、2022年の前回(50.9%)から大幅に上昇するなど国民の関心の高さがうかがえた。最も注目を集めた首都ソウル特別市をはじめ16の広域自治体の主要首長選挙では、12自治体で共に民主党の候補が勝利し、選挙前(5自治体)から勢力を反転させた。さらに、同時に実施された14選挙区の国会議員補欠選挙においても、共に民主党は9選挙区で勝利しており、優位に選挙戦を展開した流れを維持することに成功した。一方、ソウル特別市では与党候補が敗北を認め、国民の力は4都市を守った模様である。

選挙戦は全体として共に民主党が勝利したと捉えられる一方、政治的に最も重要なソウル特別市での与党の敗北は、李氏にとっては少なからぬ打撃となることは否めない。李政権は就任丸1年を迎えるなか、外交・経済の両面での成果を背景に圧倒的な支持が得られるとみられていただけに、政権を取り巻く環境が変化する可能性がある。というのも、李氏は共に民主党内においては元々非主流派に位置しており、党内主流派のなかには李氏が進める実利外交に基づく対日姿勢への批判が少なくないとされる。前述したように、李氏の支持率は高水準で推移しているものの、与党の支持につなげることができていないうえ、司法の独立性への懸念の高まりも今後の政権運営に対する懸念材料となる可能性がある。与党内の主導権争いが激化すれば、政権運営に影響を及ぼす可能性もある。今後はそうした党内力学の変化にも注意を払う必要があろう。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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