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2026.06.04
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インドネシア市場でトリプル安が止まらない
~ファンダメンタルズの悪化に加え、政権肝煎り事業で汚職発覚、マインドの悪化が進む~
西濵 徹
- 要旨
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- インドネシア市場は、ルピア安、株安、長期金利高騰という「トリプル安」に直面している。株価下落の発端はMSCIによる情報開示への懸念表明で、インドネシア株の新規採用停止や格下げを示唆したことに始まる。その後もFTSEラッセルの定例見直し延期が重なり、下落基調が強まった。当局は改革姿勢を示しているものの、MSCIは5月に計17社を株式指数から除外したほか、原油高の長期化による業績悪化懸念も株価の重しとなっている。
- また、プラボウォ政権の拡張的な財政運営への警戒に加え、大統領の甥が中銀副総裁に就任したことで中銀の独立性への懸念が高まっている。原油高により燃料補助金が膨らみ財政悪化が深刻化する懸念も高まっている。主要一次産品の輸出統制強化の方針も対外収支の悪化懸念を招くと懸念され、中銀は大幅利上げに踏み切ったものの、効果は限定的である。
- さらに、政権の看板政策である学校給食無償化事業で汚職が発覚し、国家栄養庁の前長官ら3名が逮捕された。同事業では1万人超の食中毒も発生しており、政権への信頼が大きく揺らいでいる。政権の行方を予想するオンライン市場がSNSで拡散されるなど政治不安も高まっており、金融市場への下押し圧力がさらに強まるリスクがあることにも要注意である。
【インドネシア金融市場は混乱が続く】
インドネシア金融市場の混乱が続いている。通貨ルピア相場は安値を更新する展開をみせているほか、主要株価指数(ジャカルタ総合指数)も5年半ぶりの安値となるとともに、長期金利も上昇(債券安)するなど「トリプル安」に直面している。株価調整のきっかけは、1月末に指数算出会社であるMSCIが株式市場の情報開示に懸念を表明したことにある。MSCIは、世界株指数への同国株の新規採用を停止したうえで、透明性向上に向けた取り組みが進まなければ、同国株の組み入れ比率の引き下げのほか、フロンティア市場への格下げを示唆した。さらに、同じく指数算出会社であるFTSEラッセルも、定例見直しを延期する判断を行ったことを受けて、主要株価指数はその後、下落基調を強めた(図1)。

当局は、最低浮動株比率の大幅引き上げなど、海外投資家の懸念解消に向けた取り組みを示している。MSCIは当局の改革姿勢に一定の評価を示したものの、審査期間を延長したうえで、計17社を同社の株式指数から除外することを決定した。この判断について、当局は現在進行中の市場改革に伴う短期的な結果との見方を示しているものの、MSCIは正式な評価を示していない。足元では、中東情勢の緊迫化を受けた原油高などが調達コストを押し上げる一方、製品価格への転嫁が困難な状況が続いており、企業業績を圧迫するとの懸念も株価を下押ししている。
【財政運営への懸念がルピア安を加速、中銀の努力も奏功せず】
一方、通貨ルピア相場はプラボウォ政権による拡張的な財政運営を警戒して調整が続いてきた。さらに、中銀副総裁にプラボウォ大統領の甥であるトマス・ジワンドノ元財務副大臣が就任したことで、その独立性に対する懸念が強まり、ルピア相場は下落圧力を強めた。中銀を巡ってはここ数年、独立性の毀損につながる動きがたびたび顕在化してきた。政権与党(グリンドラ党)の財務担当を務めるトマス氏が副総裁に就任したことを受けて、中銀の政策運営が景気下支えに一段とコミットせざるを得なくなるとの懸念が高まった。
このところの原油高は財政運営に対する懸念を一段と深刻化させている。プラボウォ政権は、国民生活への影響を懸念してガソリンをはじめとする燃料価格の上昇を抑えている。前述のとおり、市場ではプラボウォ政権によるばらまき政策が財政運営を硬直化させているとの見方が強く、足元ではその懸念が一段と高まっている。今年度予算の想定原油価格は1バレル=70ドルであり、足元では補助金の膨張を招くとともに、急激な財政悪化が避けられなくなっている。こうしたなか、パーム油をはじめとする主要一次産品の輸出に対して政府の統制を強化する考えを示したことが株価のさらなる調整を招くとともに、対外収支の悪化懸念がルピア安を加速させている(図2)。中銀は、5月の定例会合でルピア相場の安定を目的に大幅利上げに動いたものの(注1)、その効果は期待できない状況にある。

【プラボウォ政権の肝煎り事業で汚職発覚、政権の信認低下が進むリスクも】
検察は3日、プラボウォ政権の「肝煎り政策」である学校給食無償化事業を担う国家栄養庁のダダン・ヒンダヤナ前長官を逮捕したことを明らかにした。前日には、ロデウィック・プスン前副長官とソニー・ソンジャヤ前副長官も逮捕したことを明らかにしており、いずれも学校給食無償化事業に関連した汚職に関与した疑いが持たれている。同事業を巡っては、急速な事業拡大を理由にした問題が露呈しており、1万人を上回る食中毒患者が発生した。さらに、巨額の歳出が財政悪化の一因となるとともに、利権化や汚職の温床になるとの見方も示されてきたが、早くもそうした懸念が顕在化した。
同国では、世界最大級のブロックチェーン予測市場プラットフォームであるポリマーケットに注目が集まっている。同国では賭博行為が違法とされているものの、5月21日にプラボウォ政権の行方を巡る予想市場が立ち上げられ、SNSで拡散された。その直後に当局は、当該プラットフォームがオンライン賭博プラットフォームに該当していることを理由に、アクセスを遮断したことを明らかにした(注2)。プラボウォ政権の肝煎り事業での汚職事件の発生は、政権への信認を大きく揺るがす可能性があるとともに、金融市場からの「圧力」が一段と高まる可能性に注意が必要である。
注1 5月20日付レポート「インドネシア中銀は「金融市場の警戒」にようやく重い腰を上げる」
注2 5月26日付レポート「インドネシア・プラボウォ政権、サイバー空間の「予測」に敏感に反応」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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