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2026.04.08
日本経済
賃金
賃金指標
実質賃金はプラス圏に浮上(2026年2月毎月勤労統計)
~実質賃金は改善も、先行きは物価次第~
新家 義貴
- 要旨
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- 26年2月の毎月勤労統計では現金給与総額の伸びが高まり、本系列、共通事業所系列とも実質賃金の上昇率が拡大。名目賃金の上昇に加え、物価上昇率の鈍化が実質賃金の改善につながっている。
- 所定内給与が26年入り後に上振れているが、春闘賃上げ率との整合性などを踏まえると、賃金の基調が急加速したというより、25年にサンプル要因で下振れていた計数が従来のトレンドに近い水準へ復元されたと見るのが妥当とみられる。
- 先行きについては、名目賃金の安定的な伸びが期待される一方、実質賃金がプラス圏を維持できるかどうかは物価次第。原油価格動向、円安・資源高を背景とした価格転嫁、政府の補助金政策の行方が今後の焦点。4月以降も実質賃金はプラス圏で推移する可能性が高いと予想するが、物価動向次第では再びマイナス圏に沈む可能性も。
1. 物価鈍化を背景に実質賃金はプラス圏で推移
厚生労働省から公表された26年2月の毎月勤労統計では、現金給与総額が前年比+3.3%となり、前月の同+2.5%から上昇率が高まった。名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金(CPIの「持家の帰属家賃を除く総合」で実質化)も前年比+1.9%と2ヵ月連続でプラスとなり、前月の同+0.7%から上昇率が大きく拡大している。
なお、報道等で言及されることの多いこの本系列は、調査対象事業所の部分入れ替えやベンチマーク更新等の影響を受けやすく、月次の賃金変化の動向を把握することには必ずしも適さない。そうした観点からは、1年前と当月の双方で回答している調査対象のみに限定して集計した「共通事業所」ベースの前年比を併せて確認することが望ましい。この共通事業所ベースの値をみると、26年2月は前年比+3.1%と前月の同+2.3%から上昇率が拡大し、実質賃金も前年比+1.7%(1月:同+0.6%)と3ヶ月連続で増加した。予想対比で強めの結果である。
このように、本系列でも共通事業所でも実質賃金はプラスとなっている。名目賃金が上昇傾向を続けるなか、これまで高止まりしていた物価上昇率が鈍化してきたことで、実質賃金には改善がみられている。
2. 所定内給与は上振れも、解釈には注意が必要
今月の結果で特に目を引くのは、所定内給与の動きである。共通事業所ベースの所定内給与は前年比+3.1%と高い伸びとなったほか、本日同時に公表された1月分確報も同+2.7%と、速報段階の同+2.2%から大きく上方修正された。25年の所定内給与(共通事業所ベース、以下同じ)は概ね前年比+2%台前半近傍で推移していたことを踏まえると、26年入り後に計数が一段切り上がったようにもみえる。
ただし、この動きの解釈には注意が必要だ。所定内給与は、春闘で決まる賃上げの影響が年間を通じて安定的に表れやすく、賃上げ改定月以外に大きく変動することは本来想定しにくい系列である。その意味で、年初に不連続な上振れが生じている点については、サンプル要因の可能性を念頭に置く必要がある。
毎月勤労統計調査では、毎年1月分調査時に 30 人以上規模の調査対象事業所の部分入替え(サンプル入替え)が行われる。この1月分の取り扱いはかなり特殊であり、1月分速報では入替え前の事業所を、1月分確報以降では入替え後の事業所を集計しており、速報と確報では調査対象事業所が異なる。そのため、1月については速報と確報で数字が変わりやすく、また、その後1年間、前年比の値がそれまでと比べてレベルシフトする形で推移することも多い。この影響は主に本系列に表れやすいが、共通事業所でも完全には回避できない点に注意が必要である。
実際、共通事業所ベースの所定内給与は、24年には概ね前年比+3%弱と高めの伸びで推移していたが、25年に入ってから同+2%台前半にレベルシフトしており、その動きの不自然さは以前から指摘されていた。なかでも卸売業・小売業では、24年に前年比+3%弱程度で推移していた所定内給与が、25年1月以降はゼロ%台まで鈍化、26年入り後には再び同+3%台へと急上昇している。こうした推移は、基調的な賃金動向というより、サンプル構成の変化の影響を示唆しているように見える。
もちろん、標本調査である毎月勤労統計で「真の値」や「実勢」を直接観測できるわけではない以上、25年の伸びが実勢よりも低く出ていたのか、あるいは24年と26年の伸びが強めに出ているのかを断定することはできない。ただ、過去の春闘賃上げ率と所定内給与の関係や、25年の春闘賃上げ率が24年対比でやや伸びを高めたことなどから判断する限り、25年の値が実勢よりも低めに出ていた可能性の方が高いように思える。そうだとすれば、26年入り後に所定内給与の基調が急加速したというよりは、25年にサンプル要因で下振れていた計数が、26年に入って従来のトレンドに近い水準へ復元されたとみる方が自然だろう。2月分確報や3月分以降の動向を確認する必要はあるものの、所定内給与の基調は安定して高めの伸びを維持していると現時点では評価しておきたい。
3. 実質賃金は当面プラス圏維持を見込むが、物価動向が鍵
3月の実質賃金もプラスとなる可能性が高い。先に公表されている3月の東京都区部CPIの結果を踏まえると、3月の物価(持家の帰属家賃除く総合)も前年比+2%を割り込む可能性が高く、名目賃金の伸びを下回るだろう。1~3月を通じて実質賃金がプラスとなることは、これまで物価高による実質購買力の抑制に苦しんできた家計にとって一定の下支え要因となる。
4月以降についても、実質賃金はプラス圏で推移する可能性が高いと予想しているが、不透明感は強い。名目賃金面では、26年春闘賃上げ率が25年対比でやや鈍化しつつも、なお高い伸びを確保する公算が大きく、安定的な賃金上昇は期待できる。一方で、実質賃金がプラスを維持できるかどうかは、最終的には物価動向に大きく左右される。
当面の物価をみるうえでは、第一にエネルギー価格の動向、第二にエネルギー以外への価格転嫁の広がり、第三に政府の価格抑制策の行方が重要である。まず、ガソリン・灯油価格については、政府が補助金支給により急激な価格上昇を抑制する方針を示しており、少なくとも当面は、これらが主導して物価が大きく上振れる事態は回避される可能性が高い。電気・ガス代についても、足元の原油高等により価格が上昇するのはまだ先である上、政府が再度の補助金投入や拡充を通じて秋以降の価格上昇を抑える可能性もある。市場では、原油高を背景に4月以降のCPIコアが再び前年比+2%を上回るとの見方も多いが、補助金の効果を考えると必ずしもそうは言えない。物価上昇率が前年比+2%程度にとどまるなら、実質賃金も小幅ながらプラス圏を維持する可能性が高い。
一方、ガソリン・灯油以外の価格についての不透明感は強い。原油価格高騰と円安の進行は今後の値上げの格好の材料となり得る。近年は、企業がコスト上昇分の価格転嫁に対して以前ほど慎重ではなくなっており、円安や資源高を理由に値上げに踏み切る企業が増える可能性は十分ある。この場合、CPIが4月以降に再び+2%台に戻る展開も十分考えられ、実質賃金がプラス圏を維持できるかどうかは微妙になる。
さらに、原油価格の先行きも読みにくい。なお、米国とイランが2週間の停戦合意を行ったことで原油価格は急低下しており、原油価格がこのまま沈静化に向かうようであれば、2026年度の実質賃金がプラス圏で推移する可能性は大きく高まる。もっとも、2週間の停戦期間内に最終的な合意に至ることができるかは分からず、停戦期間後に再び緊張感が高まる可能性は否定できない。また、供給面の正常化に時間を要する場合には、地政学リスクがいったん後退したとしても、原油価格が従前より高めの水準で下げ渋る可能性もあるだろう。
結局のところ、26年度の実質賃金を左右する最大のポイントは物価である。原油価格がどの水準で落ち着くのか、円安・資源高を背景としたエネルギー以外の値上げがどの程度広がるのか、さらに政府がガソリン補助金や電気・ガス代補助金をどのように運営していくのかによって、物価のパスは大きく変わり得る。名目賃金の安定的な伸びは期待できる一方、実質賃金がプラス圏を維持できるかどうかは物価次第の面が大きく、今後の動向を注意深くみていく必要がある。
新家 義貴
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 新家 義貴
しんけ よしき
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経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測
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