プラス転化した実質賃金 (2026年1月毎月勤労統計)

~1~3月の実質賃金はプラスも、原油価格高騰で4月以降に再びマイナス転化リスク~

新家 義貴

要旨
  • 26年1月の毎月勤労統計では本系列、共通事業所系列とも実質賃金がプラスに。名目賃金の基調に変化はないが、これまで実質賃金の抑制要因だった物価高がやや落ち着いたことが、実質賃金のプラス転化をもたらした。なお、4月8日に公表される1月分確報で調査対象事業所の部分入替えが実施されることから、速報と確報で数字が大きく変わる可能性があることには注意が必要。

  • 所定内給与(共通事業所ベース)は前年比+2.2%(12月:同+2.3%)とほぼ変わらず。所定内給与は春闘で決まる賃上げが1年間続く傾向がある。名目賃金は当面、所定内給与の足元のトレンドである前年比+2%台前半程度で推移することが予想される。

  • 物価鈍化を背景に、実質賃金は26年2、3月もプラス圏で推移する可能性が高い。一方、原油価格急騰が物価押し上げを通じて今後の実質賃金抑制要因に。イラン情勢の混乱が早期に沈静化し、原油価格が落ち着くようであれば物価への影響も一時的なものにとどまるが、1バレル100ドルを超える原油高が長期化する場合、26年度の実質賃金はマイナスとなる可能性が高まる。

物価の鈍化を背景に実質賃金はプラスに

本日厚生労働省から公表された26年1月の毎月勤労統計では、現金給与総額が前年比+3.0%と、前月の同+2.4%から上昇率が高まった。名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金(CPIの「持家の帰属家賃を除く総合」で実質化)をみると前年比+1.4%(25年12月:同▲0.1%)と、24年12月以来のプラスとなっている1

なお、報道等で言及されることが多いこの数字(本系列)は、調査対象事業所の部分入れ替えやベンチマーク更新等の影響により攪乱されることが多く、月次の賃金変化の動向を把握することには適さない。そのため、1年前と当月の両方で回答している調査対象のみに限定して集計された「共通事業所」の前年比データを見る方が望ましい。この共通事業所ベースの値をみると、26年1月は前年比+1.9%と25年12月の同+3.2%から上昇率が縮小したものの、物価の鈍化もあって実質賃金は前年比+0.2%(12月:同+0.8%)と2ヶ月連続で増加した。

このように、本系列でも共通事業所でも実質賃金はプラスとなっている。25年12月も共通事業所ベースの実質賃金はプラスとなっていたが、これはボーナス要因で押し上げられた面が大きかった。1月はこうしたボーナスによる押し上げが剥落した後にも関わらず実質賃金がプラスとなったことが重要だ。特別給与による攪乱を除けば名目賃金は概ね前年比+2%台前半程度で推移していることは変わっていないが、物価上昇率がピークアウトしたことで、実質賃金も下げ止まりつつあるという構図である。

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1月確報の結果に注目

今月の結果について注意したいのが、4月8日に公表される1月分確報(2月分速報と同日公表)で数字が大きく変わる可能性があることだ。

毎月勤労統計調査では、毎年1月分調査時に 30 人以上規模の調査対象事業所の部分入替え(サンプル入替え)を行っている。この1月分の取り扱いはかなり変則的であり、1月分速報では入替え前の事業所を、1月分確報以降では入替え後の事業所を集計しており、速報と確報では調査対象事業所が異なる。そのため、1月については速報と確報で数字が変わりやすく、また、その後1年間、前年比の値がそれまでと比べてレベルシフトする形で推移することもある。影響は主に本系列に出るとみられるが、共通事業所にも影響が生じる可能性もあるため注意しておきたい。

所定内給与の基調に変化なし

所定内給与(共通事業所ベース、以下同じ)は前年比+2.2%(12月:同+2.3%)と前月からほぼ変化なし。一般労働者(同+2.2%、12月:同+2.2%)の伸びも変わらなかった。本系列では所定内給与が前年比+3.0%と、12月の同+2.1%から不自然に跳ねているが、より実勢を表していると思われる共通事業所ベースでみると所定内給与は安定的に推移しており、賃金の基調に変化はみられない。

所定内給与は春闘で決まる賃上げが1年間続く傾向があり、賃上げの影響が反映される月以外で大きく変動することは基本的にはない。また、名目賃金は、ボーナスの支給時期である6、7、12月にボーナス動向の影響を大きく受けるが、その他の月については所定内給与の動きに概ね連動することが多い。名目賃金は目先、所定内給与の足元のトレンドである前年比+2%台前半程度で推移することが予想される。

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1-3月の実質賃金はプラスも、原油価格高騰で4月以降は不透明感大

実質賃金は2、3月についてもプラスが続く可能性が高い。前述のとおり、目先の名目賃金は前年比+2%台前半程度で推移する可能性が高い一方、物価(持家の帰属家賃除く総合)は前年比+2%割れが続く可能性が高いことがその理由だ。

物価については、食料品において昨年の上昇率が高かったことの裏が出ることが今後も下押し要因となることに加え、政府による電気・ガス代補助金の実施が押し下げ要因となる。今回の補助額はかなり大きく、これによりCPIコアは2、3月に▲0.6~▲0.7%Pt、4月に▲0.2%Pt程度押し下げられる見込みだ。「持家の帰属家賃を除く総合」も少なくとも3月までは+2%割れで推移するだろう。こうした物価の鈍化を主因として26年1-3月期の実質賃金はプラス圏で推移する公算が大だ。

一方、26年度の実質賃金については、プラスが維持できるかどうか微妙な情勢になってきた。名目賃金については、26年春闘で25年並みの高い伸びが実現する可能性が高まっており、26年度も前年比で+2%台前半程度の伸びは期待できそうだが、問題は物価だ。

足元での原油価格急騰により、今後ガソリン、灯油価格は急上昇することが見込まれ、4月以降のCPIを押し上げるだろう。また、秋以降には燃料費の高騰に伴って電気代も上昇することになる。イラン情勢の混乱が早期に沈静化し、原油価格が落ち着くようであれば物価への影響も一時的なものにとどまるが、1バレル100ドルを超える原油高が長期化する場合、物価への影響は相当なものになることが予想される。この場合、26年度の実質賃金もマイナスとなる可能性が高くなり、景気回復ペースを抑制することになるだろう。


1 CPI「総合」で実質化した値は前年比+1.6%(25年12月:同+0.3%)。実質化に際して用いる物価指数の違いによる議論は、「二つの実質賃金」についての雑感 ~追加系列では0.6%ポイント程度高く算出される見込み~ | 新家 義貴 | 第一生命経済研究所をご参照ください。

新家 義貴


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新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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